2016/05/07

めぐる庭

連休期間中、浅草の浅草寺の本坊である伝法院の庭園が特別公開されていたので、見てきたんだよね。
国指定の特別名勝で、作庭の名手と言われる小堀遠州さんの作と伝えられているお庭だよ。
いわゆる「池泉回遊式庭園」で大名庭園のようなものなのだ。
天気もよかったし、春の緑も鮮やかで、目の保養になったよ。

この「回遊式」というのは、「庭の中を歩いて散策する」という意味。
多くの場合は中央に池を配し、その周りに園路をめぐらして、築山、橋、名石などで景観を整えたもの。
中央に池があるものと特に「池泉回遊式」というのだけど、現在残っている多くの回遊式庭園は池泉回遊式庭園だよ。
東京でいつでも見られる回遊式庭園と言えば、駒込の六義園、小石川の後楽園、深川の清澄庭園などなど。
徳川将軍家から天皇家に所有が移って、後に一般に開放された浜離宮や芝離宮もそうだよ。
ちなみに、両国の旧安田庭園、早稲田の甘泉園、江戸川橋の新江戸川公園、五反田の池田山公園なんかは無料で見られるのだ。
東大の本郷キャンパス内にある三四郎池は夏目漱石さんの小説から名前がとられているけど、もともとは加賀藩邸の回遊式庭園の心字池という池だったのだ。

これらの庭園は今でも池の周りを回るように散策できるように整備されているんだけど、実はコレは江戸時代に日本庭園の様式が集大成された結果のようなのだ!
屋敷のそばに庭を造ること自体はむかしからなされていて、平安時代には寝殿造りの邸宅のまわりに大きな池を持つ庭園を造ったりしていたようなのだ。
平安時代の書物にも、庭の池に船を浮かべて遊ぶ、なんて描写が残っているから、大貴族の邸宅にはそうした自然をもした庭園があったようなのだ。
さすがにその頃の庭園はありありとは残っていないので、遺構を調べるしかないのだけど。

少し時代が下って、浄土教が大陸から伝わってくると、この庭に浄土趣味が加わるんだよね。
つまり、庭の中に極楽浄土の風景を再現しようとするのだ。
有名なのは、宇治の平等院鳳凰堂や平泉の毛越寺。
お経などに出てくる極楽浄土の風景を再現するものなので、自然景観をデフォルメして邸宅内に持ってくるというそれまでの発想とは異なるものだったようなのだ。
おそらく、当時は金や朱できらびやかに飾り、蓮の花などを咲かせていたと思われるんだよね。

これが武家の社会に入ってくると様子が打って変わるのだ。
武家社会の書院造りの場合、窓から見える切り取られた景色が重要になるんだよね。
季節の移り変わりとともに変わっていく絵のように扱うのだ。
なので、必然的に庭はコンパクトになっていくんだけど、木や石の配置、光源方向など精緻な計算がなされるようなるんだ。
さらに、禅宗が入ってくると、水を使わずに水の流れを表現しようとする「枯山水」も出てくるのだ。
竜安寺なんかが有名だけど、京都の禅寺のお庭には石と砂だけで表現された庭があるよね。
これらの庭はあくまでも建物の中から眺めるものとしてできあがっているものなのだ。

これが江戸時代になって、天下太平の時代に大名たちが庭を造り始めると、様子ががらっと変わるのだ。
それが、「歩いて楽しむ庭」の登場。
広大な敷地がないとできないわけだけど、じつは、江戸市中で大名に割り当てられていた屋敷地はどれもかなりの広さだったし、もともと地元の居城には広大な敷地があるしで、場所には困らなかったのだ。

江戸時代にはお城の新築は基本的にダメで、改修も幕府の許可がいるような状態なので、お城の立派さで自分の権力を誇示することはできないんだよ。
すると、書や画、陶磁器などの持ち物や、庭園などでアピールすることになるんだよね。
持ち物の場合、わかる人が見ないと価値が変わらないことがあるのに対し、庭は誰が見てもすごさは直感でわかるので、ちょうどよいものだったんだろうと思うんだよね。
で、競い合うと技術も高まっていくわけで、江戸時代は各大名がこぞって庭に凝って、すばらしい庭園がたくさんできたのだ。

明治に入ると大名はその財力を維持できなくなるので、庭園の中には廃れていくものも出てくるんだけど、いいものはいいので、明治の元勲や財閥に買い取られ、賓客をもてなしたりする用に使われることになるんだよね。
例えば、三菱財閥の岩崎家は庭園が好きで、国分寺の殿ヶ谷戸庭園や清澄庭園などは岩崎家の別邸として使われていたのだ。
明治の元勲では、山縣有朋さんが特に庭好きで有名で、江戸川橋の椿山荘は明治になって作られた庭園なのだ!
西ヶ原の旧古河庭園は陸奥宗光さんの邸宅跡なんだけど、ジョサイア・コンドルさん背系の洋館と、洋風庭園・日本庭園が一度に楽しめるスポットなのだ。
というわけで、明治くらいまでは伝統が引き継がれ、新宿御苑を作り上げるくらいまで続くのだ。

でも、さすがに戦後になるとこういう庭趣味の人が少なくなったようで、個人で回遊式庭園を大々的に造るというのはなくなってきているよね・・・。
今でもお大尽のイメージで、庭に池があって錦鯉を飼っている、というのはあるけど、歩いて回れるほどの庭を持つというのはなかなか想像しづらいのだ。
でも、海外にも注目されているすばらしいものなので、ぜひぜひ残していきたいものだよね。

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