2016/06/18

焼いて融かして色つけて

日曜の昼過ぎについつい見てしまうのが、「なんでも鑑定団」の再放送。
美術品・工芸品についてわかりやすくコンパクトに説明してくれるので、ちょっと賢くなった気になるのもいいんだよね(笑)
なんとなく見始めて、けっきょく最後まで見てしまうパターンが多いのだ。
本物か偽物か予想するのもおもしろいしね。

この番組を見ていると気になってきたのが陶磁器の色。
よく「釉のかかりがすばらしい」とか「発色がいい」なんて聞くけど、それってなんで変わるんだろうということ。
今の御時世、科学的に分析すれば「いい出来のもの」をクローンのように再現できるんじゃないか、とこう考えるのだ。
ところが、これはそんなに甘くないらしいんだよね・・・。

釉薬(「うわぐすり」又は「ゆうやく」)は、陶磁器の表面を覆っている薄いガラス室の皮膜。
土をこねてそのまま焼成した素焼きだと、どうしても細かい穴がたくさんあいている状態なので、水分を若干浸透させてしまうんだよね。
それがいいところでもあるんだけど、吸水性があると液体を保存する容器には使いづらいのだ。
そこで、その上にガラス質のコーティングをして、耐水性を高めようというわけ。

「うわぐすり」というだけあって、素焼きしたものの上からかけて、その後もう一回焼成させるのだ。
「かける」とは言うけど、実際の釉薬は土や灰を水で懸濁させたもので、そこに素焼きしたものをつけるという表現の方が合っていると思うよ。
刷毛で塗ったりしてもいいのだろうけど、均質な厚さにするためには、「塗る」というのでは難しいはずなのだ。
さっと釉薬の中にくぐらせて、天日で乾燥させてから焼成する、というのが普通だと思うよ。

ものによっては、一度乾かしてから一部だけ別の釉薬につけて色調を変えたり、絵の具のように使って絵を描いて模様にするという技術もあるみたい。
絵を描く場合は、背景色の釉薬につけ、その上に絵を描き、さらに透明になる釉薬につける、という幹事で段階的に作業するのだ。
このとき重要なのは、釉薬の段階では焼き上がりとは全く違う色なので、「絵付け」をするにしても、慣れていないと焼き上がりがどうなるかわからないということ。
釉薬っていうのはたいて白~灰~黒みたいな色だからね。

釉薬の主成分は4つ。
骨材というのがガラス質を作る主原料で、これは二酸化ケイ素。
糊材というのはできたガラス質の安定性を保つもので、これは酸化アルミニウム(アルミナ)。
どちらも長石が入った土の成分なのだ。
ここに媒熔材と呼ばれるものを入れて、釉薬の融ける温度を調節するんだって。
その成分は、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウムなど。これらは土の中にも含まれるし、灰の中にも多く入っているのだ。
釉薬の温度を調節するのは、焼成温度によって発色が変わってくるからで、例えば、灰を入れる量でできあがりの色味が変わってくるのだ!

最後が発色剤。
これは主に金属で、色のもととなるのは鉄、銅、コバルトなど。
今は化学的に足したりもするようだけど、伝統的には鉱石を砕いたものや特殊な土・砂、特定の植物の灰なんかを使って、発色につながる金属の量を調整したみたい。
このあたりは、試行錯誤による伝承と、職人の感みたいな世界だよね。
あれとあれをこうまぜるとこういう色になる、みたいな。
織部の緑や楽茶碗の黒とかだよ。

ところが、上にも少し書いたけど、焼成の仕方で色が変わってくるのだ。
発色剤となる金属がどういう状態で焼き上がるかで色が変わるわけだけど、例えば、銅の場合、十分に酸素が供給されて完全燃焼で高温で焼成された場合、青~緑になるのだ。
ところが、酸素が少なく、不完全燃焼で焼成された場合(多くの場合燃焼温度は少し低め)、赤くなるんだよね。
これは銅の酸化状態の違いで、完全燃焼で酸化焼成された場合、銅は酸化銅(II)CuOになるので、青っぽい色を呈するのだけど、不完全燃焼で還元焼成された場合、酸化数がより少ない酸化銅(I)CuOになるので、真っ赤な色を呈するのだ。
鉄も同じで、完全燃焼だと酸化鉄(II)FeOで黒なんだけど(備前焼の黒)、不完全燃焼だと酸化鉄(III)Feで赤くなるのだ(赤さびの色)。
もっと酸化が抑えられると、酸化されていない金属鉄になるので、青っぽい色になるのだ。
実際にはこれらが混ざるので、複雑な色合いになるよ。

つまり、炉内の酸素供給量による燃焼状態とそのときの炉の温度で大きく発色が変わるのだ!
これはもう相当な複雑系になるので、完全に昔の優れた焼き物を再現することができないんだよね・・・。
科学的に原理はわかるんだけど、そもそもパラメーターが多すぎて条件設定がしきれないのだ(>o<)
炉内での火のまわり方なんかはカオス理論になるだろうし、同じようなやり方でも偶然性に大きく左右されてしまうんだよね。
というわけで、焼き上がってみるまでわからない、のだ。
それが陶磁器のおもしろさなんだろうけどね。

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