2016/06/04

しばし待たれい

元プロ野球選手の覚醒剤取締法違反の事件について、東京地裁が有罪判決を出したのだ。
量刑は、懲役2年6月、執行猶予4年。
通例、覚醒剤の所持・使用などは、初犯の場合は執行猶予がつくと言われているけど、今回もそうなったんだよね。
相場としてはこんなものかな、というところみたい。
で、改めて気になったのが「執行猶予」という制度。
刑務所に入らずとも、その間おとなしくしていれば刑の執行を免れる、くらいの認識なんだけど、ちょっと調べてみたのだ。

執行猶予は、刑法の第一編「総則」の中の第四章「刑の執行猶予」というところで、第二十五条から第二十七条の七までの12条によって規定されているんだ。
刑の「全部」又は「一部」の執行猶予があって、「一部」のみの執行猶予の場合、他の部分で刑の執行がなされることがあるよ。
刑の全部の執行猶予の要件は第二十五条で定められていて、3年以下の懲役・禁固又は50万円以下の罰金が対象で、1年以上5年以下の期間で執行が猶予されるんだけど、もちろん、条件があるんだよね。
その条件は大きく2つで、①前に禁固以上の刑に処せられたことがないこと、又は、②前に禁固以上の刑に処せられているがその執行が終わった日又は刑の免除があった日から5年間禁固刑以上の刑に処せられたことがないこと。
前に禁固刑以上の刑に処せられたがその刑の全部が執行猶予中の場合は、特に情状酌量すべきものがあれば、1年以下の懲役・禁固について執行猶予が得られる場合があるよ。
ここで言う「禁固以上の刑」というのは、死刑、懲役及び禁固のこと。
刑の種類は第九条で、死刑、懲役、禁固、罰金、拘留、科料と6つ挙げられているんだけど、次の第十条で、刑の軽重はこの第九条に規定する順序による、とされているので、一番重いのが死刑、一番軽いのが科料となるわけ。

①の場合は保護観察はオプションなんだけど、②については保護観察をつけないといけないんだよね。
この保護観察については、遵守すべき事項を守らず、それがやむを得ない事情出ない場合は、裁量的に執行猶予が取り消される場合があるのだ。
執行猶予中に罰金刑に処せられた場合も取り消しの可能性があるよ。
逆に、執行猶予中に執行猶予のない禁固刑以上の刑に処せられたり、執行猶予の言渡し前に犯した犯罪について執行猶予のない禁固刑以上の刑が書せられた場合は、自動的に執行猶予が取り消されるのだ。
執行猶予が取り消されると、懲役・禁固の場合は刑務所に行くことになるのだ・・・。

なお、何事もなく執行猶予期間を無事に過ごすと、第二十七条の規程により、「刑の言渡しが効力を失う」ことになるのだ。
なんだか難しいけど、罪を犯して刑に処されたという事実は残るけど、懲役・禁固刑を受けているという状態ではなくなるのだ。
これで何が起こるかというと、国家資格なんかの多くでは「欠格条項」が定められていて、そこがクリアされるのだ。
例えば、国家公務員法では、「禁固以上の刑に処せられ、その執行が終わるまで又は執行を受けることがなくなるまでの者」は国家公務員になれないばかりか、在職中にこの要件に該当すると自動的に失職するんだよね。
でも、執行猶予期間が終わって、刑の言渡しの効力が失われると、もうこの条項には該当しなくなるので、また国家公務員として復職できるようになるのだ。

公務員だと復職は考えづらいけど、選挙権・被選挙権なんかも、服役中だけでなく、執行猶予中もなくなるんだよね・・・。
また、いわゆる「士業」においては、さらに「冷却期間」がいるのだ。
例えば、公認会計士、行政書士、司法書士だと、「禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなつてから三年を経過しない者」となっているので、執行猶予期間が終わって3年たてば、前科がなくなったものとなって、またその資格を得ることができるのだ。
ただし、逆に言うと、これらの仕事をしていた人が犯罪を犯し、執行猶予付とは言え実刑判決を食らうと、もうその資格では仕事ができなくなってしまうんだよね(>o<)

こういう中でもっとも厳しい要件が、弁護士や弁理士などの欠格要件。
これらではシンプルに「禁錮以上の刑に処せられた者」となっているので、実刑判決が出たらアウトという図式なのだ・・・。
でも、一度でも実刑判決を受けると二度となれないか、というと、そういうわけでもないのだ。
刑法第三十四条の二で「刑の消滅」というのが規定されていて、「禁錮以上の刑の執行を終わり又はその執行の免除を得た者が罰金以上の刑に処せられないで十年を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失う」となっているのだ。
すなわち、禁固以上の刑に処せられても、10年経てばこの欠格要件からは外れるということなんだ。
なので、若いときに万引きで執行猶予付の実刑判決を受けたとしても、努力すれば中年以降に弁護士資格を得ることは可能なのだ。

こうやって調べてみると、執行猶予というのはいろんなところに影響してきそうだね。
刑務所に入らなくてすむ♪、と思っても、それなりに社会的制裁としての制限はかけられているようなのだ・・・。
何はともあれ、犯罪を犯さないようにするのが大事だよね。
当たり前だけど。

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