2017/11/11

江戸の味

米国に留学しているときはさほど恋しくならなかったのだけど、パリに来てからはアジア料理が無性に食べたくなるんだよね・・・。
やっぱりフレンチの味付けはしつこいから?
もちろん、東京ほど選択肢はないんだけど中華やベトナム料理、タイ料理、そして、「エセ」も含めて日本料理があるのだ。
ところが、ちゃんとして日本料理の店に行かないと、ただ単に醤油で味付けただけの料理が出てくるんだよね(>_<)

でもでも、ちょっと調べてみると、実は江戸時代だとそんな感じだったようなのだ。
料理屋では鰹節や昆布から出汁をとっていたみたいなんだけど、庶民には高級品なのでそんなものは使えず、基本の味付けは味噌と醤油。
江戸の豆腐料理として有名な八杯豆腐というのは、水・酒・醤油を6:1:1の割合で混ぜた煮汁で豆腐を煮たもの。
っていうか、出汁が入っていないんだよね。
で、この作り方をそのまま再現するとそんなにおいしくないのだ。

江戸時代の初期には味噌を造るときの副産物(味噌の上澄み液)である「たまり」が使われていたんだよね。
とろみが少しあって、色が濃く濁っているもの。
味噌の副産物なので「本格醸造醤油」とは違って原料はほぼ大豆のみで、けっこう塩気があるものだったようなのだ。
香りは本格醸造醤油の方がいいらしいよ。
ただ、味噌の上澄みなので、アミノ酸などのうまみ成分はしっかりあって、これが料理に調味料として使われていったようなのだ。

江戸の人口が増えてくると、たまり醤油だけでは足りなくなって、酒蔵の設備を使って醸造醤油が作られるようになったみたい。
関東の穀倉地帯で、水運も便利だった千葉で発達したのだ!
なので、野田なんかがまさにそうだよ。
このとき、原料に小麦が使われるようになり、澄んだ、薫り高い醤油が得られるようになったのだ。
関東式なので濃い口醤油で、色はたまりと同じくらい黒いものだよ。

で、江戸時代の料理と言えば、基本は味噌か醤油か塩で辛めにあじつけて、ごはんが進むようになっているのだ。
庶民はたくさんおかずを食べられないので、料理があっても何か一品、漬け物だけの時も、なんて感じ。
めざしであってもそんなに頻繁には食べられなくて、主なタンパク源は納豆や豆腐だったようなのだ。
で、さっきの八杯豆腐のようなおかずや、厚揚げを焼いたものなんかが食卓に並ぶわけ。

でも、ただ塩辛いだけではないんだよ。
納豆も漬け物もそうだけど、発酵の過程でそこにうまみ成分がちゃんとできているのだ。
江戸時代の味噌汁は出汁をとっていないのだけど、アサリの味噌汁だとアサリからうまみが出るし、人気だったと言われる納豆汁(すりつぶした納豆を入れる)も納豆のうまみが出るのだ。
さらに、江戸名物の佃煮なんかは、酒と醤油で煮るだけだけど、素材の方から出汁が出るので、しょっぱいけどうまみがあるものだったのだ。
こうして、現代にもつながるうまみ文化を享受していたわけ。
海外のエセ日本料理のようにただたんに醤油でいろと塩味がついているだけではないよ(笑)

さらに、現在使われているような醤油は大正年間になってから科学的手法も取り入れて大量生産されるようになったもの。
それまでの手工業で作られていた醤油は少し違うのだ。
今でも手作り醤油なんてのがあるけど、うまみが多いというよね。
なので、醤油自体がうまみをより多く持っていた可能性もあるのだ。
なので、出汁が入っていなくても、そこそこのうまみはあったはず。

とはいえ、やはり江戸時代の庶民料理はそこまでおいしいものじゃなかったみたい。
池波正太郎さんの小説にはおいしそうな江戸料理がたくさん出てくるけど、現代人が食べたらおいしいとかじるかどうかは微妙なのだ・・・。
しかも、現在手に入る材料でそのまま作っても味は再現できないんだよね。
醤油や味噌も違うし、豆腐なんかも江戸時代はもっと固い木綿豆腐だったはず。
なので、一般人には、江戸時代の料理の再現というのはなかなか難しくて、味の評価もしづらいんだよね。

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