2017/11/25

信じても救われないことはある

フランスに来てからびっくりしたことがあるのだ!
それは、普通の街中の薬局で堂々と「ホメオパシー」という字を見ること。
なんと、フランスでは、一般的な「レメディ」は市販されていて、薬局によってはホメオパシー相談なるものまであるらしいのだ・・・。
日本ではすでに「ホメオパシーには科学的根拠はなく、プラセボ(偽薬)以上の効果はない」と日本学術会議、日本医師会、日本医学会などが見解を出しているので、信じられない光景なんだよね。
どうも、フランス社会にはかなり受け入れられているものらしい。

ホメオパシーというのは、18世紀末から19世紀初期にかけてドイツのハーネマン医師が提唱した代替医療のひとつ。
欧州では一時期非常にはやって、英国でも保険適用になっていた時期もあるんだけど、公式に
「科学的根拠がない」という調査結果が公表され、それも終焉を迎えようとしているのだ。
ところが、フランスではまだ保険適用もあるし、なんと、医師が処方箋にホメオパシーにおける基本的な錠剤である「レメディ」を処方することすらあるというのだ・・・。
なんと時代錯誤な。
日本にもあやしい民間療法や健康食品で詐欺まがいの事件があるから人のことは言えないけど、そこまで社会に浸透しているというのは本当に衝撃的だよ。

ホメオパシーの基本的な概念は、「病気は症状を起こす原因のもの」を使って病気や症状を治療するというもの。
少量の原因物資によって本来体に備わっている抵抗力が上がり、病気や症状が治る、ということなのだ。
具体的には、原因物質を極度に希釈し、その希釈液を砂糖玉に染みこませるのだ。
その希釈液の染みこんだ砂糖玉が「レメディ」で、これを服用することで、ごく少量の原因物質を体内に取り込み、「ならす」ということになるんだよね。

これだけ聞くと、現在わりとメジャーになったアレルギーの「減感作療法」に似ているんだよね。
花粉症を治すのに微量のスギ花粉に触れるようにして徐々に「ならし」、アレルギー症状がでなくなるようにする、とか。
これも危険性が指摘されていて、アナフィラキシー・ショックが出かねないし、全員に有効な方法でもないので、懐疑的に見ている人も多いよね。
でも、レメディについて言えば、安全性の面でははるかに上なのだ。
だって、希釈度合いが大きすぎて、もとの原因物質はほぼ含まれていないから(笑)

通常使われているレメディの場合、希釈度は10の60乗と言われているんだよね。
例えば、食塩(NaCL)の場合、分子量が23+35.5=58.5なので、1モルで約60gなのだ。
1モルは、アボガドロ定数なので、6.02×10の23乗。
つまり、1Lの水に食塩を1モル溶かした、約6%の食塩水の中には、6.02×10の23乗個の食塩分子が存在しているわけ。
ところが、これは10の60乗まで希釈するので、多く見積もっても、希釈された液中に存在する食塩分子の個数の期待値は10の36乗分の1個!
つまり、ゼロと見なしてよいわけ。
これはもうただの水なので、「減感作療法」で問題になるような問題は生じ得ないのだ(笑)

では、ホメオパシーを信奉している人はどう考えているかというと、例え原因物質が含まれていなくても、希釈の過程で原因物質の「型(パターン)」、「オーラ」、「波動」といったものが水の中に「記憶」されていて、それによって体の抵抗力が高まる、とかなんとか言うらしいんだよね・・・。
「水の記憶」まで出てきちゃったもう大変。
似非科学は相互に引き合ってしまうんだねぇ。
根拠がないのに互いに見た目上の「根拠」になってしまうのだ(>_<)

ちなみに、レメディを服用してまったく効果がないかというとそういうわけでもないのだ。
世の中には「プラセボ効果」というのがあって、偽薬であっても信じて服用していると、効果が見られるんだよね。
これはまさに「病は気から」というか、心理的な効果で本当に抵抗力が高まっていると考えられているけど、その効果はあるわけ。
でも、それ以上には効果がないというのが科学者の見解であって、であれば、レメディなどと言わず、普通に砂糖玉だけ服用すれば済む話。
さらに、こういう代替療法が悪質なのは、正規の、科学的根拠に基づく現代医療を受ける機会を結果として喪失していまう、ということなんだ。

山口で起きた悲しい事件として、新生児に与えられるべきビタミンKシロップが与えられず、代わりにレメディが与えられていたのでビタミンK欠乏症で赤ちゃんがなくなってしまうというものがあったのだ(山口新生児ビタミンK欠乏性出血症死亡事故)。
これをきっかけに、日本学術会議や日本医師会・日本医学会が公式に見解を出すことになったのだけど、これは目も当てられない惨事だよね・・・。
でも、ここまでホメオパシーが社会に浸透してしまっているフランスでは、こういうことが影で怒っているんじゃないかと心配になるよ。

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