2018/04/21

トウキビの粉

この前、スーパーでメキシコ料理セットを買って食べてみたら、辛さもしっかりあって、スパイシーでおいしかった♪
フランスにはあまり辛いものがないから貴重かも。
でも、なんだか米国留学時代に食べていたものによく似ているなぁ、と思ってラ、やっぱりテクスメクス料理だったみたい。
本場のメキシコ料理とはちょっと違うんだよね。

一番の大きな違いはタコス。
日本でもそうだけど、海外進出しているタコスには「ハードタコ」が多いのだ。
U字状に折り曲げられて揚げられた、固い皮に具を乗っけて食べるんだよね。
でも、メキシコのものは、焼きたての軟らかいトルティーヤで巻いて食べるんだよね。
このトルティーヤも、米国のものはほとんどの場合小麦粉のやつだけど、メキシコではトウモロコシの粉で作ったものなのだ。
それはちょっとぼそぼそしているから、小麦粉で作ったトルティーヤの方が食感はおいしいんだよね。

トウモロコシの場合、そのまま乾燥させた粒を砕いても、小麦粉のようには使えないんだって。
粘りが出ないので、生地にできないのだ。
なので、乾燥トウモロコシの粒を挽いたコーンミールを粥状に煮るイタリアのポレンタのようにして食べたり、小麦粉を混ぜてグルテンを補ってコーンブレッドにしたりするんだよね。
トルティーヤの場合も、食感をよくするために小麦粉を混ぜることがあるみたい。
日本国内で売られているトルティーヤ用の粉は多くの場合トウモロコシと小麦をまぜたものだって。

トウモロコシを伝統的に主食としてきたメソアメリカでは、小麦を混ぜるなんてことはできないので、別の方法をとっていたんだよね。
それがアルカリ処理。
乾燥させたトウモロコシの粒をアルカリ水溶液(消石灰を溶かした石灰水や、木灰と水を混ぜたものの上澄み液)で10~20分煮てから一昼夜放置して冷却。
これを何度も水洗いするそうだよ。
そうすると、白っぽかったトウモロコシの粒が黄色くなるのだ。
これを粉にしたものは、粘りけも出てくるので、薄くのばして焼いてトルティーヤに加工できるんだ。
小麦の場合でも、かん水を入れて麺を打つと黄色い中華麺になるけど、それと同じような反応が起きているんだよね。

このトウモロコシのアルカリ処理は「ニシュマタリゼーション」と呼ばれているんだけど、アステカの言葉であるナワトル語で「挽きわりトウモロコシから作った食物」を意味するネシュタマリ(nextamalli)に由来するそうだよ。
実は、このアルカリ処理には、粘りけを出して加工しやすくするという以上に大きな意味があるんだ。
それは、必須アミノ酸のトリプトファンやビタミンB3(ナイアシン)の吸収率を上げるという効果。
もともとトウモロコシはトリプトファンの含有量が少なく、そのために、そのまま食べるだけだとトリプトファンが不足してしまうのだ。
ナイアシンは生体内でトリプトファンから生合成されるので、トリプトファンが欠乏すると、同時にナイアシン欠乏症にもつながるんだ。
その欠乏症状は「ペラグラ」と呼ばれているよ。

メソアメリカの原住民は時間をかけてアルカリ処理という方法に行き着いたので、トウモロコシを主食にしても問題なかったんだけど、これを欧州に持ち帰ったスペインではアルカリ処理をしなかったので、ナイアシン欠乏症が多く発症したんだって。
最初は栄養失調疾患とは思っておらず、伝染病ととらえられたので、「イタリアらい病」と呼ばれていたそうだよ。
イタリア北部の山岳地方は寒冷な気候で小麦の生産に向いておらず、新大陸からもたらされたトウモロコシが主食になっていったんだけど、そのためにトリプトファンが欠乏するに至ったのだ!
野菜や果物を食べればかなり改善するはずだけど、むかしはそういう商品作物はあまり流通しないし、食生活としても、主食ばかり食べるような感じだから、防げなかったんだろうね。

メソアメリカでは、トウモロコシは紀元前5000年以上前から栽培種になっていて、およそ主食の4/5を占めていたようだけど、それもこれもアルカリ処理を発明したおかげなんだ。
おそらく、最初はおいしく食べるためにやったんじゃないかと思うけど、栄養学的にも効果がったんだろうね。
ただし、伝統的な方法だと、アルカリ性の廃液が出るし、水洗いで大量の水を消費するので、環境には優しくないのだ・・・。
今のようにトウモロコシで莫大な人数を支えようとすると、ちょっとこの方法じゃ難しいんだよね。
トウモロコシ自体はおいしく食べるにしても、主食以外からトリプトファンや内亜snが摂取できるようにしないとダメなのだ。

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