2019/04/13

つけこんで、つけこんで

日本ではわりと有名なシャリアピン・ステーキ。
でも、これって日本オリジナルなんだって。
あらかじめタマネギのみじん切りに肉をつけておくことでやわらかくするんだよね。
来日していたオペラ歌手のフョードル・シャリアピンさんの求めに応じて作られたそうなんだけど、歯の調子が悪くて柔らかいステーキが食べたかったそうな。
そんな状態でも肉なんだね・・・。

欧米では、基本的には肉は赤身が好まれることもあり、基本的にはかたいもの。
それをがしがしと食べないと食べた気がしないとか。
日本に来ると薄い肉ばかりで肉を食べた気がしない、という感想も出るほど。
でも、最近は和牛が出回っていて、霜降りでやわらかいのもあるから、意識は変わっているのかなぁ?
でも、肉を事前に処理してやわらかく焼く、というのはあまりない発想のようなのだ。

一方で、酢やつけ汁につけ込む、という調理法は一般的なんだよね。
フランス料理で言う「マリネ」がそれだよ。
これはフランス語のマリネにするの過去分詞から来ているようなんだけど、フランス語では、つけ込んだものは「marinade(マリナード)」と呼ばれるのだ。
酢漬けだけじゃなくて、レモン汁でも塩水でも油でも、なんでもいいみたい。
香草や香辛料と液体で下味をつけたり、香りをつけるのもマリネなんだって。
日本的な感覚で言うと、お酢ベースのつけ汁で漬けたものがどうしても頭に浮かぶけどね。

酢で漬けた場合、まずは殺菌作用で長期保存が念頭にあるんだよね。
これが野菜類の酢漬け=ピクルスだよ。
日本のなますもそうだよね。
肉の場合は、酢を入れた水で煮ると軟らかくなることが知られているのだ。
これは、筋肉と筋肉をつないでいる結合組織のコラーゲンがが熱により変性し、酢の効果により水に溶け出しやすくなるため。
変性コラーゲンは酸性条件下で水に溶けやすくなるんだよね。
ちなみに、水に溶け出したコラーゲンを集めたのがゼラチンだよ。

塩水などの塩分を含むつけ汁の場合は、浸透圧の違いで過剰な水分を取り除いてくれるんだよね。
野菜の場合は水分が少なくなってしゃきしゃきに(キャベツの塩もみなど)、肉や魚の場合は身が引き締まってぷりぷりに。
肉や魚の場合は、余計な水分が輩出されるときに水に溶けやすいくさみ成分も一緒に出て行ってくれるので、くさみ取りにもなるのだ。
ステーキを焼く前に塩を振るのはこのためだよ。

インドのタンドーリチキンなんかの場合だと、ヨーグルトにつけこむんだよね。
この場合は、くさみをとると同時に、ヨーグルト中の乳酸菌の働きでタンパク質がbんかいされてアミノ酸が遊離し、肉が軟らかくなってうまみも出るのだ。
実は、お酢やレモン汁でつけ込んでも肉はやわらかくなるんだけど、この場合は、肉の中が酸性になって、肉本来が持っているタンパク質分解酵素の活性が上がり、自己融解で筋繊維が切れていってやわらかくなるのだ。
最初は酸性条件下で加水分解が起こっているのかと思ったんだけど、加水分解って胃酸のような強酸の存在下でしか起こらない反応で、酢やレモン汁に含まれるクエン酸のような弱酸ではダメなのだ・・・。
そうだよね、そうでないとお酢を触っただけで手がただれることになってしまうから!

シャリアピン・ステーキの場合は、タマネギに含まれるタンパク質分解酵素の力で肉をやわらかくしているよ。
青パパイヤやパイナップルでも同じようなことができるのだ。
熟成肉の場合は、外の酵素でなく、じっくり時間をかけてもともと中にある酵素でタンパク質の分解を進めるんだけど、そのまま放っておくだけだと腐敗するので、冷涼で湿度の低いところで熟成させるのだ。
原理的には、日本の干物と同じで、乾燥と熟成が進んでうまみが増すんだけど、なんかイメージが違うよね(笑)

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