2020/06/13

あぶらっけのぬけたやつ

高級な醤油で、「丸大豆醤油」というのがあるよね。
ボクはてっきり、「丸大豆」という大豆の高級品種をつかっているのだと思っていたのだ。
普通の大豆より球体に近い形状なので「丸大豆」みたいな。
ところが、これは「まるごと」とか「まるのまま」の「まる」で、大豆全部を使ってと言う意味だったのだ!
逆に言うと、「丸大豆」と書いていない醤油は何を原料にしているのか?
それは、「脱脂加工大豆」というやつだったのだ。

音的な響きだと「脱脂乳(スキムミルク)」に似ているよね。
脱脂乳は生乳を遠心分離して乳脂肪の多いクリームを完全に取り除いたもの。
じゃ、大豆からはどんな油脂をとるのか、というと、そのままの「大豆油」。
日本で使われている食用油の4割くらいは大豆油だって。
ごま油なんかは香りを楽しむものだけど、大豆油は色も透明で香りも薄いので、いわゆる「サラダ油」に向いているそうなのだ。
ただし、江戸時代から日本の油の主流である「菜種油」にはかなわないみたい。

ゴマや菜種は油分が多いので、圧搾法と行ってそのままぎゅっと締めて油を搾り取るのだ。
低温で絞った方が油が酸化せず、香りも飛ばないのでよいとされいるよ。
「玉締め」なんてのが有名だよね。
一方、大豆は同じように圧搾して油がとれないわけじゃないんだけど、もともとそこまで油が多くないので、極めて効率が悪いのだ。
そこで、現在採用されているのが、抽出法という方法。
原料を砕いたりした後に揮発性のある溶媒(大豆油の場合はヘキサンが使われるみたい。)とまぜ、そこに脂分を溶かしこむのだ。
溶媒と混ざった油はこの後に蒸留装置に通すんだけど、溶媒は揮発性なので、ここで分離できるのだ。
で、残った液体の油が大豆油というわけ。
この後も食用油としては生成過程があるんだけど、今回注目したいのは、溶媒に脂分を溶かした後によけられた「かす」の方。

これは「大豆粕」と呼ばれるのだけど、これこそが「脱脂加工大豆」なのだ。
確かに脱脂加工は受けているよね・・・。
脂分の抜けた、おからのようなものなんだけど、これと小麦や麹、塩などの他の原料を混ぜて発酵させて醤油や味噌が醸造されるよ。
この「大豆粕」を使わず、そのままの大豆を原料にして醤油を作った場合、「丸大豆醤油」となるのだ。
でも、もともと脂分を取り去った「大豆粕」で醤油ができるくらいで、醤油の醸造過程ではこの脂分は必要ではないのだ。
すると、「丸大豆醤油」の醸造過程ではどうなっているかというと・・・。

発酵させて「醤油粕」を取り去った後の「生揚げ醤油」にこの脂分が含まれていて、これを整地しておくと油の層が醤油の表面にできるんだ。

これは「醤油油(しょうゆあぶら)」と呼ばれるもの。
って、「油」の時が重なってる!
これは醤油として出荷するときには不要なものなので、副産物として取り去るんだけど、古くはこの油が行灯の燃料に使われたりしたんだって。
行灯の油には魚油なんかも使われたらしいけど、燃料の油によって行灯からはいろんなにおいがしたんだろうなぁ。
醤油はけっこう香ばしくてよい方だよね。
魚油はすっごいくさかったと言うから。
現在は、石けん原料や機械油に使われるほか、カーボン/ニュートラルなバイオ燃料としても使われているらしいよ。

「丸大豆醤油」の場合は、そもそも原料に大豆そのものを使うのでそこで少しコストが高くなり、さらに、醸造過程で後で油を取り除く手間が課かかるので、さらにコストが増すのだ。
これが「丸大豆醤油」が高級な理由。
後で除去するんだから最初から取り除いた大豆を原料にしても同じような感じはするけど、風味とかは変わってくるんだろうね。
それと、やっぱり「大豆粕」と言われると産業廃棄物的なイメージがあるから、「低級」という受け取られ方なってしまうよね。
そういうのもあって、「大豆粕」ではなくて「脱脂加工大豆」と呼んでいるんだろうけど。」
最後に、大豆油の生成過程では、脂肪酸だけを残して、リン脂質が取り除かれるのだ。
このリン脂質が「大豆レシチン」で、今では健康食品としてありがたがって買ってもらえるようになっているよ。
ビールの絞りかすのビール酵母がけっこう高い値段で売られているのと同じように・・・。
醤油を絞った後の「醤油粕」は古くから燃料や肥料、家畜用飼料なんかになっていて、これは今もあまり変わっていないみたい。
けっこう栄養にトムものなので、家畜用飼料としては優秀らしいよ。

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