2021/02/13

死人に口あり?

フジテレビのいまの月9ドラマは「監察医朝顔」。
もともと漫画が原作で、漫画とは少し設定を変えた形でドラマになっているようなのだ。
第2シーズンをやっているくらいだから人気なんだろうね。
で、タイトルのとおり、主人公は大学の法医学教室に勤める監察医で、警察からの依頼で犯罪性のある遺体を解剖して謎を解き明かしていく、その合間合間に家族のドラマも入れていく、みたいな感じ。

むかしっから監察医はわりとミステリーで取り上げられるよね
どうしても死因を追求しなくちゃいけないし、凶器の特定や死亡時刻の推定は犯人を追い詰めるのに必要なので。
王道は刑事や探偵が主役で、監察医はそういった主人公のサポート役なんだけど、ミステリーも多様化してきて、監察医を主人公に据えたようなものが出てきているのだ。
ドラマだと関東監察医務院(架空の組織)が舞台の「きらきらひかる」(やっぱり漫画が原作)なんてのもあったよね。
海外ドラマでもあるみたいなので、必然の流れなのかも。
もともと深くコミットしている関係者だから、「スチュワーデス刑事」とかそういうのよりは話は自然だよね(笑)

もともと監察医制度は、死因が不明な死体を解剖して死因を究明することを目的に作られた制度で、死体解剖保存法第8条第1項の規定に基づくもの。
実は、日本全国が対象ではなくて、政令で定められた特定の地域のみ(監察医を置くべき地域を定める政令によって、東京都の23区、大阪市、横浜市、名古屋市及び神戸市となっているのだ。)。
これらの地域では、監察医務院を置くか、大学の医学部の法医学教室に委託して解剖を実施するんだよね。
これが「行政解剖」。
基本的に、病院で医師に看取られながら死亡しない場合は、念のためも含めて死因の特定が必要で、交通事故のような目撃者もいてわかりやすいものを除けば、この解剖に回されるのだ。
老人の孤独死とか、砂浜に打ち上げられた水死体とか。
よく報道でも「死亡が確認された」という言い方がされるけど、これが「死体とおぼしきもの」が発見された段階では死んでいるかどうかは決まっていなくて、医師又は獣医師が死体を検案して死亡を確認するとはじめて「死体」という扱いになるから。
即死に近いものでも、白骨化・ミイラ化したものでも、検案というプロセスが必要なんだ。

この検案にはもう一つ意味があって、その死因が「異常」かどうかの鑑別があるんだよね。
で、少しでも怪しいと思ったら検察に連絡が行って、検察官(又はその代行の警察官)が死体を「検視」するのだ。
これは当該死体の異常状況の捜査のことだよ。
その後、死因がよくわからない、ということになるとまた医師の出番で、解剖に回されるのだ。
これが「司法解剖」。
こちらは刑事訴訟法に基づいたプロセスで、「異常」=「犯罪性あり」となった場合に発動。
ただ単に死因がよくわからない、という場合は「行政解剖」になるよ。
監察医はこの「行政解剖」をする医師なんだけど、東京では「監察医務院」が「司法解剖」も行うことがあるのだ。
「監察医朝顔」の世界はまさにこれ。

「司法解剖」の場合は事件性があるので、基本的に解剖すべきとの判断が下ったらいい俗の承諾無しに解剖ができるし、「行政解剖」についても、死因究明に必要と認められるときは遺族の承諾なしに解剖できるんだ。
一方で、監察医制度のない地域(っていうか、日本の多くの地域だけど)の場合は、死因究明のためであっても原則として遺族の承諾が必要なんだよね。
これは感情的なものだけど、「死んでからも切り刻むようなことはしてほしくない」と思う遺族は多いので、解剖されないまま荼毘に付される例も多いのだとか。
ただし、食品衛生法や検疫法においては、どうしても原因調査をする必要があると認められる場合は遺族の承諾なしでも解剖できることになっているんだ。
これは公衆衛生上重大なもの、ということ。
感染や食中毒被害が蔓延すると社会的に重大なリスクになるからね。

こうした解剖の他、普通に病院で病理学的に行われる解剖もあって、それは「病理解剖」と呼ばれるのだ。
学生が学ぶために献体を解剖する場合もあるけど、多くは、病死であることはわかっていてもさらにその詳細な原因を調査したい場合などに行われるのだ。
例えば、多くの場合は心停止で死亡が確認されるけど、なぜ心臓が停止するに至ったのか、体の中ではどういうことが起きていたのかの詳細はわからないことも多いんだよね。
逆に、そのプロセスを薬や処置で止めることができれば延命につながるかもしれないわけで、病理学的に調査したい、というのはあるのだ。
これもなかなか遺族の承諾が得られないみたいだけど。
ま、病気でさんざん苦しんできたのだから、死んでからも切り刻むようなことはやめてあげて、ということなんだろうね。
御自身の意思・遺志で解剖を望む患者さんもいるみたいだけど。

ただ単に死体を傷つけてしまうと刑法の死体損壊に当たるので、死体の解剖についてはこうして法的な枠組みがかかっているのだ。
「死んでしまえばただの物」という考え方もあるけど、やはり死体にも尊厳はあって、それは社会的に合意されている事項なので、死体をむやみやたらに切り刻む、というのはいただけないわけ。
一方で、死因の特定は社会秩序の安定や公衆衛生の向上の観点から必要なものでもあるわけで、その場合にだけ認める、ということだよ。
ドラマとかだとこの辺のプロセスはそんなに出てこないけど、なんでもかんでもすぐに解剖されるわけでもなさそうなのだ。

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