2021/04/17

さんこいち

復興庁が作ったキャラクター「トリチウムちゃん」があっという間に撤回されたのだ。
正直なところ、センスを疑うものだったので、早めに引き上げたのはよかったと思うけど。
もともと、福島のアルプス処理水の海洋放出の是非の問題があって、その理解を助けるために、と作られたものなんだろうけど、なんだかねぇ。
昭和のにおいのする広報のやり方なんだよなぁ。
けっきょく、こうして話題になっても、テレビなんかで報道するときは、そもそもトリチウムとは何か?、というのには行き着かないんだよね。
ただただおそろしい放射性物質という印象しか与えないのだ。
わざとかもしれないけど。

トリチウムは、和名では三重水素。
この名前からもわかるとおり、最も単純な構造の元素である水素の同位体なのだ。
陽子ひとつでできた核のまわりをひとつの電子が回っているのが水素原子。
陽子ひとつと中性子ひとつでできた核のまわりをひとつの電子が回っているのが重水素(デューテリウム)。
そして、陽子ひとつと中性子ふたつの核のまわりをひとつの電子が回っているのが三重水素(トリチウム)なのだ。
陽子と中性子はほぼ質量が同じで、電子は陽子・中性子に比べてきわめて質量が小さいので、いわゆる普通の水素の三倍近い重さを持った特殊な水素ということになるよ。
なお、中性子が三つ以上入った核を持つ水素の同位体もあるんだけど、いずれもものすごく短い半減期で崩壊するので、天然では見られないのだ。

質量という物理的な性質は大きく違うわけだけど、反応性などの化学的性質はほぼ同じ。
なので、普通に酸素と結合して水になったりするのだ。
重水素でできた水は重水、トリチウムができたミスはトリチウム水(三十水素水)だよ。
ただし、重水素でも存在比率は1%ほど、トリチウムは天然ではごくごく微量にしか存在しないので、自然界には、ふたつtomoが重水素又はトリチウムになったような水はあまり存在せず、ふたつの水素の内野どちらかが置き換わったものがあるのだ。
そうすると、水としての分子量は、普通の水(H2O)が18、半重水(DHO)が19、重水(D2O)が20、トリチウム水が20(THO)、21(TDO)又は22(T2O)となるんだけど、最大の22と最小の18を比べても、2割強増しくらい。
水素原子単独で見るより差はかなり小さくなるよね。
※実際には、酸素にも同位体がいるので、もっとバリエーションがあるよ。

トリチウムは、半減期12.32年でβ崩壊(電子を一つ外に放出)してヘリウム3になるのだ。
天然ヘリウムの多くは、陽子×2+中性子×2の書くからなるヘリウム4なので、それより少し軽いヘリウム原子になるわけ。
質量数が小さい原子にしてはわりと長い半減期で、ごく微量ながら天然にも存在しているのだ。
それは、宇宙船の中性子又は陽子が大気中の酸素や窒素と反応し、原子番号を2落とした元素とトリチウムが生成されるから。
窒素14の場合は炭素12とトリチウム、酸素16の場合は窒素14とトリチウムだよ。
こうして次々に自然界でも供給されていて、それが水の中に溶け込むので、常にほぼ一定の比率で自然界に存在しているんだ。

今回問題視されているのは原子力発電所由来のトリチウム。
自然界でもできているんだけど、それよりも遙かに多くの了が原子炉の中でできているんだよね。
で、他のもっと有害な核種(放射性同位体)を除いた後でも、水の中に混じり合ってしまうトリチウムは除ききれないので、福島のアルプス処理水の中にはトリチウムが大量に入っているのだ。
これを十分に希釈した上で海洋放出する稼働がもんだいだったわけ。
現実的には、トリチウムは生体濃縮はないと考えられていて、普通に見ずとして代謝されていってすぐに体から抜けていくのでそこまで危険視はされていなくて、基準値以下まで希釈して海洋放出mというのが各国の原発で行われてきているのだ。
今回もその考え方にならっているんだけど、事故由来のものであるということ、事故時に海に一部の放射性物質が漏れ出てしまってそれが問題視されてたことなどのもろもろの経緯が積み重なって、原発の排水と全く同じようにはできなくなっているのだ。

つまり、十分に希釈されていれば科学的には問題ないはずなんだけど、事故由来の「汚染された水」がまた海洋を汚染する、ととられかねないことが問題なわけ。
したがって、「風評被害」を抑える必要があって、隣国に声高に騒がれたくないし、「親しみやすい」キャラクターを作って理解を促したい、となったと思われるのだ。
これはうまくいかなかったわけだけど、
地手レアシーの問題は結構深刻で、こういうときにクリティカルにきいてくるんだよなぁ。

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