2022/06/18

液体白金

豪州の研究チームが、常温で液体の状態のプラチナを開発した、というニュースがあったのだ。
金属だから熱で融けるんだけど、プラチナは融点が1,700℃超と高いので、簡単には液状にはできないのだ。
それが常温で液体になるのがすごいんだけど、液体になること自体がすごいわけじゃないんだよね。
プラチナは金と同様に極めて安定的な元素で、腐食されないし、王水以外には溶けないのだ。
このために貴金属として扱われるんだけど、宝飾業界だけでなく、化学業界でも人気。
それは、この化学的に安定的な性質が高い触媒機能を示すから。
排ガスの浄化作用なんかが有名だけど、化学工業では、水素を添加する還元反応の触媒としてよく使われているのだ。
でも、非常に高価な金属なので、通常は、担体の上に白金の微粒子を並べて可能な限り表面積を稼ぐ、という使われ方なんだ。

今回の液体白金は、30度弱で融けるガリウムに溶かし込む、という手法。
液体の金属と合金を作って液体状態を維持する、というけっこう伝統的な方法なんだけど、この状態の白金でも触媒機能を示すんだって。
しかも、ガリウムに対して0.01%未満の含有量で触媒機能が発揮されるとか!
これまでの白金触媒では単体に対して10%程度のプラチナが必要だったというから、触媒反応に影響する表面積を考慮しても、これは非常に画期的で、扱いやすく、かつ、低コストになる可能性が高いのだ。
ただ液体にした、というのではなくて、この点が注目を集めているわけ。

液体金属というと水銀が思い浮かぶけど、そのむかしは水銀にほかの金属を溶かし込んで液状にし、それを塗料のように塗ることでメッキをしていたのだ。
無機水銀はすぐに蒸発するので、塗った後に放置しておくと溶かし込んで金属だけが表面に残るというわけ。
例えば、奈良の大仏は金メッキだったのだけど、青銅で作った大仏の表面に水銀と金の合金の液体を塗り、水銀を飛ばして作成されたのだ。
なので、できた当時は金ぴか。
でも、無機水銀がそこら中に発散されたので、製造現場の労働者には水銀中毒とおぼしき症状が出ていたことが確認されているよ・・・。
今では水銀はそこらにぽいと捨てるわけにもいかず、全部回収しないといけないから、こういう方法は採れないよね。

ちなみに、金属を液体どころか、来たいにして扱いやすくする、というのもあるんだよ。
それはウランの濃縮。
天然ウランの場合、そのほとんどはウラン238という核分裂しにくい同位体で、ほんの少しだけ核分裂しやすいウラン235という同位体が入っているのだ。
黒鉛炉や重水炉のような原子炉だと天然ウランのまま燃料に使えるんだけど、日本でも採用している軽水炉の場合はある程度ウラン235の濃度を高めた濃縮ウランを燃料に使うのだ(通常は濃縮度20%未満の低濃縮ウラン、それ以上の濃縮度の高濃縮ウランは主に核兵器に使われるものだよ。。)。
その濃縮はどうしているかというと、いったん気体にして遠心分離機で軽いそう(ウラン235をより多く含む)と重いそう(ウラン238をより多く含む)に分ける、という手法があるのだ。
日本では青森県六ヶ所村にある日本原燃の濃縮工場がこの遠心分離法でウラン濃縮を行っていたんだけど、現在は運転中止中なのだ。

金属ウランを完全にガス化しようとすると4,000度近い温度にしなければならず、これは現実的ではないのだ。
でも、ウランの化合物のうち、6フッ化ウランは60度弱で昇華するのだ。
なので、少し熱をかけてあげると気体になるし、そこから少し冷ますとすぐ固体に戻るので扱いが容易なんだよね。
取り出した濃縮ウランは今度は二酸化ウランに変換し、これをセラミックのように焼き固めたのがペレット(オセロの縊死のような円盤状のもの)。
そのペレットを被覆材の中に入れていって核燃料ができるのだ。
ちなみに、濃縮ウランの副産物として、天然ウランよりウラン235の存在比率が著しく低下したものが「劣化ウラン」だよ。
液体金属というのもすごいけど、このいったん気体にしてから、という話を知ったときは本当にびっくりしたよ。
そんなこともできるのか、と。
 

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