2022/06/04

劣化でぼろぼろ

 
日本だと、平気で1000年以上前の文書が残っているので、むしろ丈夫くらいのイメージだけど、神は劣化してすぐぼろぼろになるので、記録メディアとしてはそこまで優秀ではないのだ。
俗に、フェニキア文字が刻まれた粘土板が一番優秀とか言うよね(笑)
それこそ、4000年以上前のギルガメッシュ叙事詩が刻まれた粘土板とかが残っているわけだし。
これは、粘土板自体が安定的なもので、そのためにそこに刻まれた情報が失われないため。

記録メディアの寿命の問題は、主に2つの要因があって、1つは記録している手法によるもの。
例えば、石碑に刻まれた文字は表面が摩耗して薄くなることはあっても、それ自体が消えることはないのだ。
ところが、インクで書かれた文字は徐々に薄れていくよね。
さらに、フロッピーディスクやフラッシュメモリなどの磁気で情報を記録するタイプのメディアは、外部磁場の影響でその磁気情報が狂ったり、徐々に磁気情報が読み取れなくなったりするのだ。
書き込まれた情報が読み取れなくなる、ということ。
インクの場合は保存状況にもよるけど数百年もつこともあるけど、磁気情報の場合はたいてい5~10年なのだ。

もうひとつは、記録媒体自体が劣化してしまって情報が失われるもの。
例えば、けっこう前に話題になったけど、CDやDVDなどの光ディスクは、そこに刻まれている情報自体は50年くらいは余裕でもつのだ。
ところが、これらの記録媒体の票mんのポリカーボネート(透明のプラの部分)は、紫外線等による劣化により、下手すると数年で曲がってしまって情報が読み取れなくなるのだ・・・。
保存状態が割ると磁気ディスクより寿命が短くなることも。
これは記録媒体自体の問題で、石碑であってもそれが破壊されれば情報は読み取れなくなるし、紙も劣化してぼろぼろになるよね。

でも、最近の紙はけっこう丈夫になったので、むかしほどはぼろぼろにはならなくなったのだ。
これは紙の製造工程の違いだよ。
むかしの大量生産の用紙である「酸性紙」は、木材などからパルプを作り、そこからセルロースの繊維を取りだして固めて作るんだけど、そのまま乾燥させただけだとインクがにじんで使い物にならないのだ。
そこで、にじみ防止剤のサイズ剤というのを添加するんだけど、これに使われていたのがロジン(松ヤニ)。
やっきゅうのピッチャーの滑り止めのあれだよ。
そのまま混ぜただけだと均一に混ざらないので、硫酸アルミニウムを添加することで錯体を形成させ、セルロース繊維に化学的に定着させているのだ。

ところが、これをしてしまうと、紙の中に硫酸イオンが残るのだ。
これが酸性を示すので「酸性紙」というのだけど、なぜ酸性化というと、水分の存在かでは硫酸が生じてしまうため。
この硫酸はセルロースを徐々に加水分解してしまうので、紙の本質であるセルロースが細かく分断されるのだ。
紙を紙たらしめているのは、セルロース繊維が互いに絡み合ってシート上の構造を形成しているからなんだけど、その繊維が細切れにされるのでぼろぼろになるというわけ。

西洋ではいち早く用紙の大量生産が始まっていたので、1970年代には酸性紙の劣化が大きな問題になったのだ。
古い本がみんなぼろぼろになっていくからね。
そこで出てきたのが中性紙。
ロジンと硫酸アルミニウムを使うと硫酸が出てきて紙を劣化させるので、それとは別の方法でにじみを抑えればいい、という発想。
この場合、できあがった紙は中性~弱塩基性なので、セルロースの加水分解が起こりづらく、酸性紙の3~4倍の寿命になったのだ。
今では上質紙と呼ばれるものはみんなこの中性紙だよ。
新聞や雑誌、読み捨てるためのペーパーバックなんかは劣化してもいいので安い酸性紙が使われているけど。

でもでも、中国で紙が発明されたときは、この劣化はさほど問題にならなかったので。
それよりも虫食いなどの方が問題だったんだよね。
それは単純にそういう化学的手法でにじみを抑えていたわけではないから。
さらに、和紙の場合、使っている繊維はコウゾやミツマタをとにかくたたいて取りだした繊維で、もとから相当長くて丈夫なのだ。
このため、紙のpHの問題以前に丈夫なんだよね。
なので、鎌倉時代の本とかが残っていたりするのだ。
伝統的な和紙は大量生産には向かないけど、その精神と伝統を引き継いでいる(?)のは、日本の紙幣(日本銀行券)に使われている紙だよね。
あれもミツマタをベースにしたものだけど、選択しても寄れる程度でぼろぼろにならないというのは、紙界では相当の強者なのだ(笑)

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