2023/02/18

江戸で花開く

 今では日本料理の代表のような顔をしているけど、今の「寿司」って江戸中期以降に出てきたものなんだよね。
かつての寿司は近江の鮒寿司、加賀の蕪寿司のような「熟れ鮨」で、米と一緒につけ込んで発酵させることで保存性を高めたものなのだ。
これは単純に、海産物には旬があってとれない時期があるし、流通も発達していないので生のままでは遠くまでは運べない、という制約条件の中で生まれた文化なのだ。
塩漬けとか干物とかもあるけど、もう少し生っぽいものが食べたかったのかも。
発酵によりにおいはきつくなりがちだけど、うまみが増すのもあるし。

酢飯の上にネタを載せるような寿司が出てくるのが江戸時代。
大阪では箱の中に酢飯を敷き詰め、その上にネタを並べるタイプの箱寿司が出てきたけど、江戸では、俵型に固めた酢飯の上にネタを載せる江戸前寿司が出てきたのだ。
今では高級な感じを醸し出すけど、江戸時代は屋台で提供されるファストフードで、さっと出されたものを手づかみで食べる、というものだったのだ。
なので、今でも高級寿司であろうが出されたものを手づかみで食べる、という食べ方になるのだ。

このタイプの寿司の普及に一役買ったのが、安価な醤油の普及。
それまでは、醤油的な液体の塩味の調味料は味噌を造る過程で出てくる副産品の「たまり」。
味噌の醸造糧腕出てくる上澄み液だよ。
でも、これはかなり貴重なもので、超高級品だったんだけど、江戸時代に今のタイプの醤油の大量生産製法が確立され、庶民にも行き渡るようになるんだよね。
それまでは酢や塩、煎り酒(清酒に梅肉、鰹節などを入れて煮詰めたもの)などが使われていて、生の魚介類とあえて「なます」にされていたのだ。
でも、この「なます」という食べ方の場合、白身の魚だと問題なんだけど、脂の多い青魚やマグロやカツオのような赤身の魚にはあまり合わないんだよね。
青魚は味噌と一緒にたたいて「たたき」にして食べられるし、干物とか塩漬けでもいけるので問題なんだけど、マグロなんかは塩漬けや加熱調理があまり合わないので、食べようがなかったのだ(鰹は鰹節に加工していたよ。)。
なので、江戸初期は「下魚」扱いで、猫も食べない、なんて言われたのだ。

ところが、醤油が登場すると、醤油、酒、昆布と一緒につけ込む「漬け」にすることで本領発揮。
改めておいしいもの魚であることが認識され、人気の食材になるんだ。
で、江戸時代にはやった寿司ネタとしても、漬けマグロは人気のネタになるのだ。
この醤油漬けにするという調理法は、保存性も高まるので、一石二鳥でもあったんだ。
ただし、特に傷みやすいトロの部分は、そもそも漬けにしてもおいしくないこともあり、江戸時代には捨てられるような部位だったんだよね。
ま、当時の技術じゃなかなか食べようがないから仕方ないんだけど。

こうして、江戸中期からはやり始めた寿司は、赤身の魚の漬け(マグロ、カツオなど)や、昆布締めの白身の魚(タイ、ヒラメなど)、酢締めの青みの魚(サバ、コハダなど)で、生のまま、ということではなかったんだよね。
やっぱりそこは流通に問題が宛て、目の前に海がある江戸でさえ、そこまで新鮮な取れたての魚が食べられるというわけではなかったのだ。
今のような生のネタがのった寿司になるのは、さらに時代が下って、氷などで冷やしながらわりと高速で運べるようになってから。
今なんかは海なし県でも寿司が食べられるんだから、それを考えるとすごいことだよね。


ちなみに、この醤油漬けや酢締めの場合は、多少保存性が高まるというだけで、寄生虫対策にはなっていないんだよね
当時どこまでアニサキスが広がっていたかは不明だけど、そのリスクはあったのだ。
寄生虫リスクのさらに高いサケ・マス類なんかだと、蝦夷地で発達した「ルイベ」に加工することで、規制ちゅを死滅させていたんだ。
極寒の中につるして冷凍し、それを溶かしてから食べることで多少の水気も抜けて味も引き締まる、というわけ。
さすがに本土だとそこまで寒く名からこの方法は採れなかったわけだけど。
なお、越中富山名物の「鱒寿司」は伝統的には川に遡上してきたサクラマスを使うんだけど、塩漬けにしたものを酢飯に載せりので、実は寄生虫リスクはあるのだ・・・。
今は寄生虫フリーの養殖物を使ったりしているみたいだけど。

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