2024/01/20

食い止める

 東京も冬になってかなり乾燥してきた。
この時期は火事が怖いよねぇ。
特に、東京の下町は木造建築が密集しているから、被害が拡大しやすいんだよね。
うちの近所もそうなので、街全体で気を付けないといけないのだ。
で、江戸時代なんかはもっと状況がよくなかったわけで、しょっちゅう大火事が発生して、広範囲に被害があったようなのだ。
特に、歴史上最大規模の被害をもたらしたともいわれる、明暦の大火(振袖火事)は、本号で火事が起こって江戸市中に延焼し、ついには江戸城の店主まで燃えたんだよね・・・。
それだけ江戸という年は火事が燃え広がりやすいところだったのだ。

この明暦の大火の教訓を生かし、江戸では防災対策が進むのだ。
ひとつは、隅田川の架橋。
都市防衛上の理由で、もともと隅田川には千住大橋しかかかっていなかったんだよね。
でも、火で追れながらも隅田川を渡れずに亡くなった人が多く出たので、綱吉公の生母の桂昌院殿の進言もあり、隅田川に橋がかけられることとなったのだ。
それが両国橋(当時の名称は「大橋」)。
その後、その少し下流に新大橋、さらに下流に行って永代橋、最後は浅草の吾妻橋と江戸時代中に5つの橋がかけられることになったんだ。
永代橋は花火の見物客が多く載りすぎて落ちて大惨事になることもあったけど、江戸市中で火事があっても本所・深川の方に逃げられるようになったわけ。

江戸初期は隅田川を渡った先は下総だったけど、こうして橋がかけられ、人口の増えた江戸市中の新市街として本所・深川が都市開発されていくと、町奉行支配の「御府内」に組み入れられたんだよね。
いわゆる江戸市中である「御府内」は今の23区よりもう少しせまくて、東側は山手通りくらいまで。
つまり、中山道の板橋宿、甲州街道の内藤新宿、東海道の品川宿の手前までで、これら歓楽街を含めて「大江戸」になるのだ。
本郷や目黒がだいたい境界だよ。
なので、王子の飛鳥山は江戸をちょっとだけ出た行楽地になるのだ。
西側は明治通りくらいまでで、水戸街道の千住宿や行楽地だった亀戸からは江戸じゃない、という感覚。
かつては浅草は江戸の端だったので、明暦の大火後、日本橋付近にあった遊郭が移され、江戸随一の歓楽街になったのだ。
江戸の刑場があった南千住(小塚原)や品川(鈴ヶ森)はさらに端っこということだね。

で、旧江戸市中が手狭になったのは、人口問題だけではないんだよね。
都市計画の問題で、町家で起こった火事で江戸城が燃えるなんてのは問題外な分けで、延焼が広がらないように、「火除地」というのを設けたのだ。
わかりやすい例で言えば、ドミノを並べているときにわざと3~4個抜いておいてどっか倒れても全体が倒れないようにするのと同じ。
そこに空き地があれば燃えるものがないので火事がその先まで広がらない、ということ。
そのため、江戸城の内堀と外堀の間の町家は再整理され、一部は新田開発が進んでいた東部に移住させられるのだ。
それが見たカヤ吉祥寺、小金井の当たりの村。
吉祥寺はもともと本郷のお寺で、その門前町が移動した先が今の吉祥寺。
神田連雀町(今の須田町・淡路町あたり)の人が明暦の大火で焼け出されて移住した先が三鷹市の下連雀のあたりだよ。

さらに、江戸城の外側の大きな街区や隅田川の橋のまわりも火除地にされたんだ。
それが「広小路」と呼ばれるもので、銀座線の上野広小路駅に名前が残っているよね。
上野広小路(下谷広小路)には露天商なんかが多数出店していてにぎやかだったようなのだ。
建屋は垂れられないけど、原状復帰可能な仮設店舗はOKなので、そういう店が並んだみたい。
両国橋の周りも広小路になっていてこっちも大盛況だったらしいよ。
こっちは見世物小屋とかもあったとか。
もう一つは吾妻橋のたもとの浅草広小路。
北側は歓楽街の新吉原、南側は浅草寺の門前町として栄えていて、そこにさらに広小路があったというわけ。

明暦の大火以降は、火消も整備されていって、江戸中期の享保年間には、吉宗公が町火消を置くようにしたのだ。
暴れん坊将軍でもよく「め組」に新さんが出入りしているよね。
江戸の火消は、基本的には「破壊消防」で、それ以上火事が広がらないように、燃えるもの=建物を壊して火を食い止めるのだ。
火消のシンボルの纏は、ここまで壊せ、という目印だよ。
けっきょく、高圧放水のできるポンプ車があるわけでもなく、化学消化もできないから、延焼を食い止めるのが一番大事だったのだ。
なので、まずは火除地でもともと都市設計上隙間を開けておいて、さらに、実際に火事が起こったら火元付近の周りの建物を破壊して延焼を食い止める、ということだったんだよ。
乱暴な気はするけど、それでも、火事が無限に広がるよりはましなのだ。
実は、今でも森林火災なんかの場合は火を消しようがないので、周辺の気を伐採して燃え広がらないようにしつつ、あとは自然に消えるのを待つ、なんて感じなんだよね。

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