2024/07/20

里帰りの国産

 近所のウナギ屋さんで、「シラスウナギの価格高騰により値上げします、すんません」という張り紙を見たのだ。
先般、水産庁が完全養殖のコスト御幅削減につながる技術の開発に成功した、という報道もあったけど、これは「伸びしろ」の話であって、卵のふ化からの完全養殖への道はまだまだ遠いのだ。
詳細は水産庁のこちらの資料
で、実際の養殖では、幼体であるシラスウナギをとってきて、それを養殖池で半年から1年半肥育して出荷しているんだよね。
それが、愛知産や鹿児島産、宮崎産と表記されてスーパーで売っているウナギたち。
浜松の名物だけど、浜名湖は汽水湖なのでカキの養殖はしているけど、ウナギの養殖はそのまわりにある淡水の養殖池で行っているよ。
でも、むしろ愛知の一色の方が生産量は多いのだ!

スーパーなどで売られている加工ウナギ(「長焼き」など)で「国産うなぎ」と書いてあるのはこれ。
ここでいう「国産」は国内で肥育された、というような意味なんだけど、複数個所で養殖がおこなわれている場合、国内での肥育期間が最も長ければ「国産」と表記でいるのだ。
これは国産牛も同じ。
つまり、まずはコストの安い中国などで半年ほど養殖して、ある程度大きくなったのを日本に持ってきて半年を超える期間養殖すれば「国産うなぎ」になるのだ。
日本で水揚げされたシラスウナギが中国に行ってから日本に戻ってくるので、俗に「里帰りうなぎ」と言うらしい。

実際問題としては、生物の体は常に新陳代謝をしていて、構成要素は時々刻々と入れ替わっているので、国内での養殖期間が長ければ基本は国内で与えたエサ由来の元素に置き換わっているはずなんだよね。
例えば、生物の基本構成要素として最も重要な炭素は、約40日で入れ替わることが分かっているので、1か月半もすれば中国で与えていたエサ由来の炭素は半分未満になっているはず。
仮に8か月=240日養殖した場合、1/2の4乗で1/16=6.25%まで減っているのだ。
ただし、骨にあるカルシウムのような元素はこの生物学的半減期が長くなるのでかなりあとまで残るけど。
それと、仮に重金属汚染があった場合なんかは、なかなか抜けていかないので、けっこうシビアなのだ。
さすがにそこまでひどい汚染があれば検査で引っかかるとは思うけど。
おそらく、体の構成要素でいえば、この「国産」の定義でもさほど問題はないはず。

むしろ、ウナギの場合の問題はその種類なんだよね。
日本で食べているウナギはニホンウナギ。
これがマリアナ海溝にいるというやつ。
一方で、欧州で燻製にしたりして食べているのはヨーロッパウナギ。
ニホンウナギに比べて太く短くて、脂がのっているといわれているよ。
これはサルガッソーでふかして欧州やアフリカに行くらしいけど、このシラスウナギをとってきて中国で養殖しているのだ。
それが多くの「中国産うなぎ」。
「中国産うなぎ」として売られている長焼きが「国産うなぎ」の長焼きより大きいのはそもそも種類が違うから。
もちろん、種類が異なるので味も違うはずで、養殖地の違いで味が大きく異なるわけではないんだよね。

この「中国産うなぎ」はずっと中国で養殖され、長焼きなどに加工されてから輸出されるのだ。
で、気をつけるべきは、やはり汚染問題。
かつて残留農薬が多いことが判明しているんだよね。
「里帰り」の場合は日本の養殖池にいる期間が長いのでそのリスクは下がるわけだけど、すでに加工品として輸入する「中国産うなぎ」は養殖の状態がブラックボックスなので、よくよく気を付けて検査しないといけないんだよね。

0 件のコメント: