2009/10/02

つける方も食べる方も元は一緒?

日本人にとってごちそうというとすぐに思い浮かぶのが「寿司」。
うちの実家ではそうでもないんだけど、今でも法事や祝い事があって人をもてなすときにはよく出てくるよね。
で、同じ「すし」と名前がついていても大きく違うのが、滋賀の名物の「鮒鮨」。
強烈なにおいで苦手とする人が多いことで有名だけど、これはだてに「すし」の名がついているだけではなくて、「すし」という食べ物の歴史を物語っているものなのだ。

もともと「鮨」というのは魚を保存のために塩漬けにしたもののことで、「すし」というのは「酸し」で酸味があることを指しているのだ。
いわゆる「塩辛」のことで、自己消化や内在している微生物によって乳酸発酵が起きて、体内のデンプンが分解されてブドウ糖ができ、それが乳酸に参加されて酸味が出てくるのだ。
古代の保存食品と言えば、酢漬けの「なます」と塩漬けの「すし」が二大勢力だったとか。

時代がもう少し進むと、よりおいしく発酵させるために、炊いたお米である「めし」と一緒につけ込むようになったのだ。
そうすることによって、「めし」の中で麹菌が繁殖し、より発酵が進み、乳酸発酵だけでなくタンパク質の分解も進むようになるので、アミノ酸が出てきてうまみが増すのだ。
これがいわゆる「なれ鮨」で、鮒鮨はまさにその一種。
他にも、日本では鯛や鯖、鮑なんかをつかったなれ鮨があるそうだよ。

これらのなれ鮨は、一緒につけ込んだ「めし」がどろどろの粥状になるまで発酵させるので、つけ込んだ魚だけを食べるのだ。
当然、それだけ発酵が進んでいるのでかなりにおいも強烈になるというわけ。
このなれ鮨は漢字で言うと「鮓」の字に当たるそうで、ただの塩辛だった「鮨」と、なれ鮨の「鮓」が混同されて、今では両方が「寿司」の意味に使われるようになったそうだよ。
どちらにしても、全国的に普及するほどのメジャーな食品にはなれなかったので、そういう混同が起こってしまったみたい。

さらに時代が下ると、そんなに発酵する前に引き上げて、「めし」ごと食べる、ということが行われるようになったんだとか。
これは「半生」な状態で引き上げることから「生なれ」と呼ばれる食べ方で、逆に従来のなれ鮨は「本なれ」と区別されるようになったのだ。
中間状態の「半なれ」というのもあるみたい。
「生なれ」の場合、「めし」の部分は甘酒を作る際に使う「米麹」のようになっていて、ほのかな甘み(デンプンが分解されてできる麦芽糖やブドウ糖によるもの)とさわやかな酸味(ブドウ糖が乳酸発酵してできる乳酸に由来するもの)があって、なかなかおいしいんだそうだよ。
こうして酸味がついた魚とご飯=「めし」を一緒に食べる「寿司」の基本形態ができたのだ。

江戸時代になると、発酵させて酸味を出すのがまどろっこしい、ということで、酢で酸味をつけるようになったのだ。
で、「めし」の方に酢で酸味をつけておいて、それと魚や貝をあわせて食べるようになったのだ。
これが現在の寿司の直接の御先祖になる「早鮨」で、熟成させないで食べるから「早」なんだよ。
最初は関西にあるいわゆる「箱鮨」や富山名物の「ますの寿司」のような「押し寿司」の形態で、塩漬けにしたり、酢でしめたり、調味ダレにつけ込んで「ヅケ」にしたりして多少保存性を上げた魚介類と酢飯の組み合わせだったみたい。
これが江戸に移ると、江戸時代から食べられ始めた刺身の文化と融合し、にぎり寿司が生まれるのだ。
にぎり寿司を江戸前鮨というのは江戸で生まれた食べ物だからだよ。
こうして、発酵食品から、刺身と酢飯の組み合わせの寿司へと大変換をとげたのだ。

で、寿司を食べるのに欠かせないのは醤油。
この醤油も実は魚を発酵させたものに由来があるんだよね。
今でもしょっつるやいしるなんていう魚醤が日本にもあるけど、ヴェトナムのニョクマムやタイのナンプラーはメジャーな調味料だよね。
これらはもともと「醤(ひしお)」と呼ばれる肉や魚、穀類なんかを塩漬けにして発酵させたものからにじみ出た液体成分で、「醤」の液体成分=油だから「醤油」という名前のようなのだ。
「醤」の場合は、塩辛よりもさらに発酵を進ませて、タンパク質をアミノ酸に分解し、うまみを出すんだよね。
で、そのうまみがにじみ出た液体にも溶け込んでいるので、調味料となるわけ。
時代が下って調味料をとるのが目的になると、保存食品として食べるわけではなくなるので、原形を留めないほどになるまで発酵させるのだ。
ミソがまさにそうだよね。

日本では仏教の伝来で肉食が禁止されたので、大豆や麦を使った味噌が中心となっていくのだけど、この味噌を造るときに出てくる液体成分の「たまり」が現在の日本の醤油の御先祖というわけ。
江戸時代になると、液体部分だけを調味料として使うために今につながる醤油の製法が開発されるのだ。
押し寿司は基本的に味が付いているので何もつけずに食べることが多いけど、刺身と酢飯を組み合わせたにぎり寿司は刺身を醤油につけるように、寿司を醤油につけて食べることになるよね。
こうして、寿司と醤油が切っても切れない縁となることに。
で、この寿司も醤油もどちらも最初は塩漬けにして発酵させた食品由来。
そういう意味では相性ばっちりな組み合わせなのかもね(笑)

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