2013/04/27

アナタの見えない世界

春になって天気予報でも紫外線情報が出されるようになってきているのだ。
UVカット製品もここからが売りどころだしね。
紫外線というのは、「紫の外」と書くけど、これは人間が見える可視光領域の「赤(620-750nm)~橙(590-620nm)~黄(570-590nm)~緑(495-570nm)~青(445-495nm)~藍(420-445nm)~紫(380-420nm)」(括弧内は波長で目安)の外側にあるから。
波長が380nmより短いのが紫外線で、逆に波長が750nmより長くなると赤外線なのだ。
さらに、可視光にすぐ近い、ちょっとだけ波長が短い/長い光を特に近紫外線/近赤外線と言うよ。

驚いたことに、昆虫にはこの近紫外線が「見えて」いるらしいのだ!
昆虫だけじゃなく、鳥やネズミ、トカゲなんかも見えるらしいんだけど。
可視光領域って人間が見えるかどうかで勝手に定義しているからあれなんだけど(笑)、昆虫の世界は人間には見えない世界で溢れていることになるのだ。
よく紫外線が撮影できるカメラで昆虫の視界を再現するような写真があるよね。
実際には、昆虫は可視光も見えているので、もっと次元の違う視界が広がっているはずなのだ。
(ヘビなんかはピット器官を通じて近赤外線を感知しているから、蛇の世界では赤外線が「見える」ということなんだよね。)

昆虫が見えている紫外線は波長で言うと300-380nmの近紫外線。
UVAというやつだね。
実は、人間の視細胞もこの光には反応しているらしいんだけど、角膜で吸収してしまうので、水晶体・網膜まで届かないらしいのだ。
瞳の色は虹彩のメラニン色素の量で決まるけど、目の青い人でも茶色い人でも黒目の中央にある角膜部分は黒くなっているのだ。
ここで紫外線はフィルターしてしまっているわけだね。

紫外線も含めて見えた方が便利なような気もするけど、実はデメリットもあるみたい。
ひとつは、角の日焼けが肌にとって有害なように、紫外線が水晶体や網膜を傷つける可能性がある、ということ。
紫外線はDNAやタンパク質を傷つける(変成させる)作用があるので、それで細胞がダメージを受けてしまうのだ。
昆虫はせいぜい数年の寿命なのでそのリスクは相対的に低いけど、ヒトのように数十年~百年近く生きる生物にとっては重要な問題なのだ。

カメラ的な原理でもデメリットがあって、それは遠くの景色がよりかすんで見えるということ。
可視光とその近傍領域では、波長が短い光ほど空気の分子に散乱されやすい性質があって、そのために遠くの景色は青っぽくかすんでみるのだ。
昼間の空が青く見えるのも青い光がよりよく散乱されているからで、朝焼け・夕焼けが赤いのは青い光が散乱される結果、光が届くまでの距離が長いと赤い光の方が届きやすいからなんだ。
近紫外線は青い光よりさらに散乱されやすく、円形ではより紫外線が散乱されていて、ぼやっと明るく見えるというわけ。
これもヒトのような大型のほ乳類にとってはちょっと困るよね。
むかしのカメラのレンズは紫外線を十分に反射できなかったので、紫外線カットのフィルターをつけないと晴天下では遠景がくっきり撮れなかったそうだよ。

さらに、色収差という問題があるのだ。
視覚のメカニズムでは、角膜で絞って水晶体で屈折させて網膜に像を結ばせるんだけど、実は、光は波長によって微妙に屈折率が変わるのだ。
これはレンズ側の材質によってどれくらいのズレが生じるかは異なるんだけど、例えば、ガラス製のレンズの場合、近紫外線や近赤外線まで含めるとこの屈折率のズレにより生じる像のブレ(=色収差)が大きくなってしまって、像がかなりぼやけてしまうのだ。
これが目の中の水晶体でも起こるだろ、ということ。
近くのものならズレは小さいけど、遠くのものだとズレが大きくなるので、かすむ上に像がぼやけるのだ。

そんなこんなで紫外線が見えないことにも一定の意義があるんだけど、見えたら見えたで違う世界が開けるのも事実。
有名なのはモンシロチョウの羽根の色で、ヒトの目で見ると白地に黒のワンポイントが入ったシンプルな柄で、雄も雌も区別がつかないけど、昆虫の目で見ると違うのだ。
実は雄と雌の羽根では紫外線の吸収率が異なるので、雄は黒っぽく、雌は白っぽく見えるんだ。
花の色も同じで、タンポポの花はヒトの目には単一色の黄色に見えるけど、昆虫が見ると中央が暗く、周辺部が明るく見えているんだって。
これも紫外線の吸収率の違いで、多くの花は蜜のあるところを黒っぽく見せることで昆虫を引き寄せているみたい。

誘蛾灯というのは、昆虫が光が来た方向に進む性質(正の走光性)を利用しているんだけど、昆虫は紫外線も見えているので、紫外線で明るくしてやるとそこに昆虫が寄ってくるのだ。
普通の蛍光灯でもいいけどそれでは明るすぎるから、ヒトの目には見えない紫外線を使えば周辺をそんなに明るくせずとも昆虫を呼び寄せられるわけ(誘蛾灯の場合は紫の光も必要だよ。)。
遊園地のアトラクションの中になんかあるブラックライトも紫外線を照射している照明器具で、ヒトの目には暗い中で紫外線を吸収してより波長が短くなった(=可視光領域になった)蛍光を発しているほこりとかだけがきらきら光って見えるのだ。
逆に、昆虫からすると、紫外線で明るい中、ヒトの目できらきら光って見えるところは紫外線を吸収する黒い点に見えるはずなのだ。

特殊なカメラを使えばなんとなくのイメージはつかめそうではあるんだけど、まったくの異質の世界なんだろうなぁ。
今見えている世界にアドオンで紫外線が加わるわけだから、紫外線だけ見た映像とはまた異なるんだよね。
紫外線も見える世界ってちょっとだけ体験してみたいような。

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