2013/06/08

わらびもくずもかたくりも使ってない!

初夏に突入して暑い季節がやってきた!
こうなると、冷たい和菓子がおいしい季節だよねぇ♪
水ようかんやあんみつもよいけど、個人的にはわらび餅がけっこう好きなんだよね。
涼しげな見た目と、さっぱりな味がよいのだ。

このわらびもち、もともとは山菜のわらびの根からとったわらび粉で練って作ったものだったんだけど、今ではわらび粉は使っていないのだ。
というのも、わらび粉っていうのは数kgのわらびの根から数十gしかとれないという貴重なもので、今では高価な食材なんだよ・・・。
実際に見てみるとわかるけど、わらびって細く長い根が地中に張っていて、そもそも掘り出すのが大変。
で、この細い根からデンプンを抽出したのがわらび粉なのだ。
本物のわらび粉でわらび餅を作ると、少し赤茶けた灰色になるんだけど、和菓子屋さんで見かける多くのものは透明だよね。
これはわらび粉の代わりにサツマイモ由来のデンプンを使っているんだとか。

同じようなことは他でもあって、例えば、同じ和菓子のくず餅もくず粉が使われていない例が多いのだ。
関東のくず餅はもともと小麦粉デンプンを乳酸発酵させて作る別物だけど、関西のくず餅はくず粉から作るものだったんだよね。
でも、このくずも貴重なもので、やっぱり別のもので代用されているのだ。
本当にくずを使っている場合は、「本くず使用」なんてわざわざ書いてあるしね(笑)
奈良の吉野くずなんかが有名。
そして、日本の台所ではおなじみの片栗粉。
かつてはかたくりの根から作ったからそういう名前がついているんだけど、今ではジャガイモデンプンなのだ。

原料は違えどデンプンの抽出方法は基本的には同じで、細かく破砕して水にさらした後、濾過したものを整地しておくのだ。
すると、水に溶けないデンプンが沈んでくるので、上澄みを捨て、また水で懸濁して沈殿させ、と精製していくのだ。
わらび粉もわらびの根を細かく砕いてデンプンを抽出していくんだけど、そもそもの量が少ないし、精製が大変なんだって。
特に、デンプンの粒子が小さめなので、沈殿に時間がかかるのだ。
ジャガイモなんかはデンプンの粒子が大きめなので、短時間で精製できるんだけど。

植物由来のデンプンは、原料によってけっこう性質が違うのだ。
これはデンプンの粒子の大きさが違うだけでなく、デンプンの質自体がことなるため。
デンプンはブドウ糖が重合したものなんだけど、一本の鎖状に重合したアミロースと、枝分かれが多くて房状に重合したアミロペクチンの2つの高分子が混ざっているものなのだ。
懸濁液中にデンプンが分散しているときは、アミロペクチンでできたかごの中にアミロースが詰まっている「ミセル」の状態になっていて、これが顕微鏡で見えるデンプンの粒子なのだ。
アミロースやアミロペクチンの重合度(=長さ)とその比率でいろんな大きさ、形になるんだ。

デンプンの粒子が水中で加熱されると、アミロペクチンのかごが緩んできて、中に水分子が入り込んでくるようになるのだ。
これは、アミロペクチンの房状の構造の変化で、低温状態では折りたたまれているけど、高温では開いてくるから。
すると、中に入っているアミロースと水分子が水和していって粘りが出てくるよ。
これはゲル化した状態で、糊化と呼ばれる現象なのだ。
一般にアミロペクチンが多いと低温で糊化しやすく、粘度も高くなるのだ。
アミロースが多いと高温じゃないと糊化せず、さらっとしているよ。
これがそれぞれのデンプンの性質に大きく関わってくるわけ。

日本では、デンプンが糊化してねばりが出たた状態を「αデンプン」と呼んでいて、糊化する前の結晶状態のデンプンをβデンプンと呼ぶのだ。
一度α化したデンプンも冷えていくとしだいに再結晶かが進んで堅くなるけど、これを「老化」と呼んでいるよ。
芋の煮物はあたたかいうちはねっとりだったり、ほくほくしているけど、冷めるとかたくなるよね。
たきたての御飯がふっくらもちもちなのに、冷や飯がかたいのも、一度α化したデンプンが老化するから。
老化の場合はもとの結晶状態にもどるわけでもないので、加熱前の状態ともまた違うんだ。
再び加熱するとα化されるけど、これにも差があって、お米なんかは温めるとわりとたきたてに近い状態に戻せるけど、ジャガイモなんかはよほど高温でしっかり温めないとかたいままなのだ(>o<)

話はわらび餅にもどるんだけど、わらび餅の場合は、デンプンに水を加えて加熱しながら練って糊化させ、冷やしたものなのだ。
ということは、糊化したデンプンが老化してかたくなったらまずいわけ。
実際に本物のわらび粉で作ったわらび餅は井戸水なんかで冷やすのは大丈夫だけど、冷蔵庫に入れると白くかたくなるんだって。
まさに老化してしまうのだ・・・。
で、今店頭に並んでいるわらび餅なんかは、冷蔵庫に入れても老化しにくいサツマイモ由来のデンプンやタピオカ由来のデンプンを使っているようなのだ。
たしかに、ふかしたサツマイモって冷めてもそんなにかたくならないし(これはジャガイモに比べて、だけど。)、タピオカも冷たい飲み物に入っているくらいだから、老化しにくいんだろうね。
こういうところにも科学が生きているんだなぁ。

0 件のコメント: