2013/06/01

これでカンダタも安心?

山形のベンチャー企業が人工クモ糸の量産化に成功したらしいのだ。
もともとは慶應義塾大学で研究されていたもので、その成果をもとに山形県鶴岡市で起業したんだって。
ここにインタビュー記事もあるのだ。
六本木ヒルズに人工クモ糸で織ったドレスも展示されていたらしいよ。
2015年からは実際に人工クモ糸製品が市場に出るみたい。
なんかクモ糸って言われると女性からは避けられそうだけど・・・。

虫の出す糸と言えば、カイコの作る絹はメジャーだよね。
古代から人類とともに生きているよね。
日本では天皇家も養蚕をするくらい、文化に密着した存在だし。
木綿、麻と並ぶ天然繊維としては極めて重要だったんだよね。

クモではなくてカイコの糸を使ってきた理由は、飼育・生産が可能だから。
えさは桑の葉なのでこちらも栽培可能だし、繭という形で大量に糸を吐き出してくれるので、量的な確保もできるのだ。
一方で、クモの場合はそもそも肉食なのでえさを確保するのは大変。
クモの巣から糸を絡め取るにしても、たいして量がないんだよね・・・。
なので、クモの糸自体が優れた繊維であることは知られていたんだけど(鋼鉄より堅く、ナイロンより伸縮性があって、引っ張り強度でもとにかく丈夫なのだ。)、使われることはなかったのだ。
逆に言うと、何らかの手段で量産化できれば、実用化できるはず、ということで研究を始めたのが今回の成果のきっかけだよ。

クモの糸もカイコの糸も、その主成分となっているのはフィブロインというタンパク質。
特徴的な構造をもっているタンパク質で、グリシンとアラニンという小さいアミノ酸の含有量が高いことで知られているのだ。
グリシンは約1/3に当たる35%、アラニンは約1/4に当たる27%で、この2つのアミノ酸で全体の6割以上を占めているのだ!
次いで多いのはセリンとチロシンで、4つ合わせると9割を超えるようだよ。
シルクの場合、この偏った種類のアミノ酸が3000~4000個つながった鎖状のタンパク質が、分子量が35万~37万くらいになるまでくっついたものがフィブロインの分子になっているんだって。

このフィブロインの分子も特徴的な形をしていて、緻密に規則正しく分子が並んでリジッドに構造が保存されている結晶性の部分と、分子の並びが不規則で緩くなっている非結晶性の部分があって、それが交互に並んでいるんだって。
結晶性の部分が全体の4~5割程度で、この結晶性の部分には側鎖の小さいグリシン、アラニン、セリンが非常に多く含まれているみたい。
逆に緩いところにはチロシンなどの側鎖の大きいアミノ酸がいるんだって。
イメージで言うと、結晶性の部分はでこぼこの少ない鎖が密にからみあっていて、緩い部分はときどき大きな出っ張りがあるのでそこまで鎖がからみあっていない、というところかな?

この結晶性と非結晶性の2つの部分からなる構造がフィブロインの繊維としての特徴を生み出していると考えられていて、独特の引っ張りや伸び、吸水性、染色性に関係していると言われているのだ。
例えば、結晶性の部分はがっちり結合しているけど、その間に比較的ゆるい非結晶性の部分がからみあっているので、この部分が伸縮するときの「伸び」のもとになるのだ。
また、フィブロインは多孔質になっているんだけど(非結晶性の部分が穴になるのだ。)、分子量が小さい水や水蒸気は通すものの、大きな水滴は通さないので、通気性はあって蒸れないけど防水性もある、という便利な特性につながるのだ。
また、多孔質であることによって表面で光を乱反射し、光沢を持つことにもつながっているんだ。
これで着心地と肌触りがよい上に見た目もきれい、という絹の特性が出るのだ。
クモ糸の場合はもっと丈夫になるみたい。

フィブロインは液体の状態で体内にためられているんだけど、外にはき出されるときに繊維化するのだ。
これは不可逆な反応なので、一度繊維になったものをもう一度液体状にはもどせないみたい。
つまり、やり直しがきかない、ということ。
これが人工クモ糸の繊維化に当たっても技術がいるところみたいだよ。
タンパク質自体は、遺伝子を解析してアミノ酸配列を決定すれば、多少改変をした上で大量生産ベースに載せることは可能なのだ。
問題は、できたタンパク質をどうやって繊維の形にするかなんだよね。
繊維の三次元構造で引っ張り強度や伸び、通気性、吸水性などの特徴が変わってくるので、ここにこそ技術が必要になるんだよ!
実際に紡糸技術が一番難しかったみたいで、なかなか天然クモ糸ほどの伸縮性が出なかったりと技術的課題が多かったようなのだ。

今回の成果では、タンパク質の大量生産技術と、強くて丈夫な糸にする紡糸技術の2つが結実したことで量産化ができるようになったというわけ。
他にも、染色技術もいるし、まだまだ必要な技術はあるんだけど。
さらに、このベンチャー企業では、糸にするだけでなく、フィルムやナノファイバーなどの様々な形に加工することで、軽くて丈夫な材料への展開を目指しているみたい。
すごいことになってきたねぇ。
もともと地獄から罪人を引き上げるくらい強い材料だしね(笑)

というわけで、この人工クモ糸は夢の材料として注目を集めているのだ。
最近は「ほこ×たて」で日本の中小企業が持つすごい技術が再び着目されているけど、こういう技術開発ベンチャーもがんばっているんだねぇ。
うれしい限りだよ♪
日本はやっぱり技術立国の国なので、これからもばんばんこういう事例が出てほしいものなのだ。

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