2013/06/29

氷をかじって病を防ごう

いよいよ6月も終わり。
これで半年が過ぎ去ったのだ。
で、この時期神社に行くと、大きな茅の輪があったりするんだよね。
これは「夏越しの祓え」と呼ばれる行事で、この茅の輪を「水無月の夏越しの祓えする人は千歳の命延ぶと言ふなり」と言いながら8の字に回ると無病息災が約束される、というものなのだ。

もともとは宮中行事にも取り入れられていた「大祓」のひとつで、正月から半年が過ぎる水無月の末(夏越しの祓え)と年末である師走の末(年越しの祓え)にそれまでの半年間の「ケガレ」を祓う行事なんだ。
古代日本では、「ケガレ」によって病気になったり、不幸が起きたりと考えていたので、これをなんとか身から落とすことが必要だったのだ。
その方法のひとつが茅の輪くぐりであり、紙で作った人型の依り代に名前や年齢を書いて川に流すようなこともしたんだ。
それが現代の夏越しの祓えにも続いているというわけ。
(旧暦の行事のはずだけど、お盆と一緒で新暦で行われるようになってしまっているけど。)

なぜ茅の輪が病除けにつながるかというと、それは「蘇民将来」の神話に由来していると言われているよ。
鎌倉時代の「釈日本紀」に引用されている「備後国風土記」の逸文によると、旅の途中で乞食のような人が一晩の宿を乞うたとき、裕福な弟の巨旦(こたん)将来は断ったが、貧しい兄の蘇民将来は快く受け入れ、もてなしたのだ。
この乞食のような人が実は神様である武塔神(むとうのかみ)で、巨旦の妻になっていた蘇民の娘に茅の輪の目印をつけさせ、それをつけていない巨旦の一族を滅ぼしたというのだ。
以来、茅の輪を目印にし、「蘇民将来之子孫也」の護符を門口に掲げておくと疫病による難を免れる、と言われるようになったんだ。
おそらく、先に茅の輪を作る風習があって、そこからこの話ができたような気もするけど、茅の輪は災厄を祓うイコンとなっているのは確実なんだよね。
(注連縄と同じように、神として崇拝される蛇を表しているとかなんとかあるのかもだけど。)

この神話に出てくる武塔神の正体は実は素戔嗚尊で、素戔嗚尊は牛頭(ごず)天王と同一視されているから、全国の天王社、須賀神社等々で護符や茅の輪守りが配られているよ。
中でも大きいのは祇園様こと京都の八坂神社。
祇園祭ももともとは疫病除けを祈願するお祭りで、やっぱり夏のお祭りなのだ。
どうも日本では夏に疫病除けを祈願する風習があるんだよね。
で、調べてみると、赤痢は夏の季語なのだ!
夏に流行することが多かったのかな?
また、衛生状況が悪かったので、梅雨明けでじめじめと暑くなる旧暦の水無月から長月にかけては食中毒も相当多かったんじゃないかと思うんだよね。
なので、疫病対策が重要な課題だったと考えられるのだ。

実は、年越しの祓えと同じように年末の宮中行事だった追儺(節分の原型と言われるけど、年末の行事なのだ!)は、疱瘡の疫鬼を石を投げて追い払うものなんだよね。
疱瘡は今で言う天然痘。
感染力の強い天然痘は基本的には時期を問わずに流行するから、疱瘡は季語にはなっていないみたい。
だからこそ年末にまとめて追い出したのかもしれないけど、むしろ、こういう時期を選ばないものは「祟り」や「怨霊」のなせる技と考えられるので、「御霊信仰」や「御霊会」によって鎮められるべきものになっていったんじゃないかな?
また、正月の七草がゆを作るときの囃し歌では「唐土の鳥が渡らぬうちに♪」と歌うけど、これは冬に感染症が流行することを想定していると考えられるんだよね。
乾燥した冬の時期だとやっぱりメインはそっちになるのだ。

で、夏越しの祓えの時期に京都で食べられる和菓子と言えば「水無月」。
そのままの名前だけど、白いういろうに粒あんがのっているお菓子だよ。
これがなかなかおいしいのだ。
冷ややかな見た目とさっぱりした甘さ。
これを夏越しの祓えに食べると無病息災がにつながると言われるのだ。

このういろう部分は氷を表しているようで、もともと旧暦の水無月の朔日に氷室から氷を出してそのとけ具合からその年の豊作・凶作を占うという行事があったようなのだ(氷の朔日の節句)。
春がどれだけあたたかかったのかを示すことになるから、けっこう科学的かも(笑)
で、このとき出してきた氷のかけらを食べると病気にならない、と言われていたんだって。
それが時期の近い疫病除けの夏越しの祓えと習合し、氷をかたどったお菓子を食べるようになったわけ。

粒あんの部分は氷室から出してきた氷についている砂や土という考え方もあるようだけど、より一般的には、小豆の魔除けの効果を狙ったものと考えられているよ。
日本ではむかしから赤や朱という色が悪いものを防ぐと考えていて、鳥居を赤く塗るのもそのため。
ついなの儀式では疫鬼を避けるのに赤いものを身につけていたらしいよ。
で、小豆もその色から魔除けの食材として重要だったのだ。
氷室の氷と魔除けの小豆で疫病除けの効果もパワーアップということだね!

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