2013/11/23

ふところもあたたまる

11月になって一気に寒さも増してきた気がするなぁ。
昼間はまだ日差しがあるとあたたかいんだけど、朝晩が冷え込むよね・・・。
こういう時期にほしくなるのはあたたかい缶コーヒー!
寒さでかじかんだ手がじわじわ、ほわほわとあたたまるのだ♪
でも、それでも足りないときは、もう使い捨てカイロしかないね。
一生懸命もんで、発熱させるのだ。

「かいろ」は「懐炉」で、もともとはふところに入れておく暖房器具。
古くは「温石(おんじゃく)」と言ってあたためた石を入れたらしいけど(懐石料理の懐石なのだ。)、江戸時代に入ると、印籠くらいの大きさの通気孔の空いた金属容器の中に木炭末と灰を入れて、ゆっくりと燃焼させるタイプの懐炉が出たのだ。
懐の中で燃やしているからまさに「懐炉」だね。
この灰式懐炉にはなすの茎や麻殻の灰なんかが使われたんだけど、桐の灰もメジャーだったのだ。
使い捨てカイロのメーカーでもある桐灰の名前はここから来ているみたい。
今でもカメラレンズの結露防止用に使われていて、現役の器具なんだって。

対象になって出てくるのが白金触媒式懐炉。
金属容器の中で白金触媒による炭化水素燃料の酸化発熱を起こさせるものなのだ。
ベンジンを使うハクキンカイロが有名だよ。
燃焼ではなく、触媒を介したゆるやかな酸化反応なので、300~400度という低温域で反応が進むのだ。
今でも金属ライター状の回路を使っているナイスミドル、というか、老紳士はいるよね。
オイルラーたーのように燃料を補充する必要があるので、今の使い捨てカイロになれてしまった世代には使いにくいのだ。
ちょっとかっこい感じはして、あこがれはするけど。

昭和も50年代に入ってから登場するのがおなじみの使い捨てカイロ。
もともとは米陸軍が朝鮮戦争時に使っていた携帯保温機(フットウォーマー)らしいのだ。
基本特許は明治の頃にもあったようなんだけど、直接は米軍の器具にヒントを得ているみたい。
仕組みは簡単で、鉄がさびるときに熱であたためるというもの。
鉄粉とおがくず、塩を混ぜ、水を垂らすと鉄粉がさびて熱が発生するのだ。
これは小学生でもできる実験だけど、それを袋の中で起こるようにしているわけ。
化学式で言うと、Fe+3/4O2+3/2H2O=Fe(OH)3+96kcal/mol
いわゆる赤さびはFe3O2で、黒さびはFe3O4だけど、このカイロの反応でできているのは、黒さびと同じ酸化数の水酸化鉄(III)なのだ。
1モル(鉄は原子量は約56だから、約56g)で96kcalの熱を発することになるよ。

使い捨てカイロの場合、不織布の袋の中に、さびて発熱する鉄粉、さびを進行させる水と塩、空気中の酸素を吸着して反応を早める活性炭、保水作用を持つバーミキュライト(観葉植物の保水土にも使われる人工土)なんかがまざっているのだ。
袋の通気量と中身の配合比率で発熱量や発熱持続時間が変わるので、そこを工夫して様々な製品が出ているのだ。
テレビで使い捨てカイロを作っている工場を見たことあるけど、中身を混ぜるところからすでに発熱は始まっているんだって!
で、それを袋に詰めて、真空包装したり、無酸素包装することでやがて反応が止まり、開封されたときにまた発熱反応が始まるというわけ。
あらかじめ発熱しないように作っているのかと思いきや、途中で発熱していようが、さっさと混ぜて空気に触れないようにして反応を止めているだけなんだね(笑)

この使い捨てカイロは、低温やけどの恐れはあるけど発熱量も低く、袋から出せば勝手に発熱するので、子供でも扱えるし、何より安価なので広まったのだ。
湿布式に貼るタイプとか、靴の中に入れるタイプとか、用途も広がってきているよね。
袋に粉が入っているだけの構造なので、大きさや形が変えやすいというのも大きな利点なのだ。
ただし、「使い捨て」と言われるように再利用はできないのだ・・・。
さびて酸化した鉄をもう一度還元してあげれば再利用できないことはないけど、鉄を還元するのは大変で、この袋に入ったままでは無理なので、そういう製品はできていないのだ。
(製鉄はまさに酸化鉄として採掘される鉄鉱石を還元して鉄を作るけど、大型の炉でコークスと反応させてたりと大変な工程が必要だよね。)

で、最近では使い捨てでないカイロも出てきているのだ。
ひとつは、電子レンジでジェルをあたためるタイプのもの。
日本では湯たんぽとしてよく使われているのだ。
もうひとつは、充電式の電池式カイロ。
使いたいときだけスイッチを入れてあたためられるのが利点。
技術の進歩で大容量で軽い充電池ができたので実現したのだ。
車のバッテリー並みに重い充電池じゃ持ち歩けないしね(笑)

そして、最後に登場してきたのがエコカイロと呼ばれるもの。
酢酸ナトリウムの凝固熱(液体が固体に変わるときに発生する熱)を利用したもの。
酢酸ナトリウムは高濃度で過飽和を起こしやすく、かつ、室温以上の凝固点で過冷却状態も安定なんだけど、過冷却状態でどろどろっとしている酢酸ナトリウムの高濃度溶液に刺激を与えると、一気に結晶化が進行して熱が発生するのだ。
この熱を使うんだけど、放熱後にまたお湯であたためてあげると過冷却状態が復活し、再び使えるようになるというわけ。
ただし、使い捨てカイロほどの発熱量はないみたいなので、取って代わるほどのものではないかな?
ボクはまだ見たことないんだけど、ちょっと興味あるねぇ。

というわけで、カイロも進化してきたのだ。
でも、よくよく見てみると、灰式懐炉、白金触媒式懐炉、使い捨てカイロはどれも酸化熱を利用したものなんだよねぇ。
多くの発熱反応は酸化反応だからかもだけど。
今ではその酸化反応を飛び越えた技術が出てきているみたいだから、この先さらに進展があるのかもね。
使い捨てカイロが過去の遺物になる日は来るのか!?

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