2015/03/28

塗ってパワーアップ

最近はTOKIOの鉄腕DASHでもおなじみだけど、日本古来の防腐剤に「柿渋」というのがあるのだ。
ひどいにおいのある、茶色い液体で、漆器の製造過程で漆を塗る前の下地に塗ったり、布や紙に塗って耐水性・耐久性を高めたりするのだ。
柿渋を塗った茶色いうちわが渋うちわで、ウナギや焼き鳥を焼くときに手でたたきながら使うやつだよね。
柿渋を塗ると紙が破けにくくなって丈夫になるのだ。
時代劇で浪人が傘張りの内職をしているけど、このとき骨組みに張る紙も柿渋を塗ったもの。
丈夫になるだけじゃなく、耐水性が高まるからなんだよね。
柿渋染めなんてのもあって、まさに渋い茶褐色に染まるんだけど、これも布の耐久性が高まるのだ。

これはすべて柿渋に含まれているタンニンのなせる技。
タンニンは皮なめしに使われる成分だけど、ポリフェノールの一種で、空気中では酸素と反応し、酸化重合して高分子になるのだ。
柿渋を塗ったり、しみこませたりすると、その部分で柿渋中のタンニンの重合が起こり、高分子の皮膜ができるんだよね。
これが水をはじくとともに、耐久性を上げることにつながるのだ!
さらに、柿渋タンニンには強いタンパク質凝集作用があるので、防腐剤にもなっているんだ。
古くは即身仏を作る際にも塗っていたとか。

漆も同じように空気中で重合して高分子の皮膜を形成するんだけど、柿渋との違いは、固まった後の硬さ。
漆はプラスチックのように硬質化するんだけど、柿渋は弾性のあるこんにゃく様に固まるんだ。
これが水にもアルコールにも溶けないものなので、耐久性や耐水性が向上するのだ。
これは漆と柿渋をそれぞれ空気中に放置しておくとわかるんだけど、漆はかちっと固まってしまうのに対し、柿渋はとろみが出て、ゼリー状になってからこんにゃくのように固まるのだ。
この皮膜の硬さの違いが使い方の違いで、最終用途の差にもなるわけだよね。
ある程度の柔軟性が求められる布や紙への塗布は柿渋が向いているし、むしろ、食器とか刀のさやとかリジッドなものには漆が向いているのだ。
ただし、防腐効果は柿渋にしかないので、漆器を作る際はまず木地に柿渋を塗って、その上に漆となるわけ。

柿渋は平安時代には使われていたと考えられていて、非常に古いものなのだ。
作り方は割とシンプルで、まだ青いうちに渋柿を砕いてつぶし、水にひたひたに浸して発酵させるのだ。
この発酵過程で青渋柿に含まれていた可溶性タンニンが水の中に溶け出すんだって。
熟す過程で可溶性タンニンの量が減ってしまうので、未成熟の青いうちに取り出すことが重要なんだよ。
しばらくすると泡が出てくるので、発酵が進んでいるかどうかはわかるよ。
ある程度のところで一度搾り取ったものが「生渋」。
これをさらに2~3年熟成させると茶褐色のとろんとした柿渋ができあがるのだ。
柿渋は発酵過程で酢酸や酪酸などの有機酸が発生するので、強烈な悪臭があるんだよね・・・。
今ではこれらの有機酸を除去した無臭柿渋なるものもあるらしいけど。
ちなみに、絞りかすに更に水を加えて「二番渋」を取ることもあるのだ。

この熟成の過程では徐々に柿渋中のタンニンが縮合して、大きな分子になっていっているんだよね。
これが茶色い色の正体。
ポリフェノール系の物質は重合して分子数が大きくなると茶色くなってくるのだ。
甘柿や渋抜き柿の黒い点々も可溶性タンニンが重合して、不溶性になったものだよ。
塗布するにはこれくらいの方が扱いやすいんだけど、生渋を好む人もいるみたい。
ちなみに、あまりに無造作に放置しておくと重合がどんどん進んでしまってこんにゃくのように固まってしまうのだ。
ちょっととろみが出てきたくらいなら水を加えて加熱すると元に戻るそうなんだけど、かっちり固まってしまうともうそれは使えないんだって。
ただ、どうしたら固まりにくくなるのかなどはよ正直よくわかっていないみたい。
あらかじめ加熱すればいいとか、ナスと一緒に煮てアントシアニンを溶出させとくとよいとか、いろいろあるみたいだけど、これといった決定打にはなっていないようだよ。

ちなみに、生渋を熟成させるには「悪臭」が重要で、発酵の過程でできた有機酸のおかげで液性が酸性に傾くので、微生物が繁殖しづらくなっているのだ。
なので、腐敗することなく、熟成が進むわけ。
また、熟成させていく過程では同時に発酵も進んでいるので、柿渋中に含まれている糖やペクチンのような成分は軒並み分解され、有機酸に変わっているのだ。
糖やペクチンといった可溶性の成分を抱えたまま高分子の皮膜ができると、可溶性成分のあるところは皮膜が薄くなったり、穴が空いたりしてしまうわけだけど、これが分解された有機酸だと、水と一緒に飛んでくれるので、皮膜が安定的にできるという利点もあるみたい。
科学的に余計な成分を取り除いているのならいいけど、フルーティな香りが残っている生渋でなく、悪臭のある柿渋を使うのにもちゃんと理由があるのだ。
昔の人はこれを経験値で技術として高めたんだからすごいよねぇ。
くさくてもがまんして塗っていたわけだし(笑)

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