2016/01/09

元素の名は?

昨年の大晦日に、うれしいニュースがあったのだ!
113番元素の「発見」について日本の理化学研究所の功績が認められ、我が国の研究グループに命名の提唱権が付与されることとなったのだ!
英語版だけど、国際純正・応用化学連合(IUPAC)のHPでもその旨の発表があるよ。
お正月はニュースが少なかったのが、元日の新聞には大きく取り上げられていたよね。

「発見」とは言うものの、どこかにあるものを見つけてきたわけではないのだ!
人工的に合成しているんだよね。
天然に存在するのは、基本的には原子番号92番のウランより原子番号が小さい元素のみ。
(もっと細かいことを言うと、43番のテクネチウム、61番のプロメチウム、85番のアスタチンは天然には存在しないのだ。)
93番のネプツニウム以降は人工的に作られるもので、超ウラン元素と呼ばれるんだよね。
その多くは原子炉の中で生成され、比較的安定的なものもあるのだ。
94番のプルトニウムのように、半減期が万年オーダーのものもあるしね・・・。
でも、104番のラザホージウムから先は極めて不安定な元素が多くて(半減期はいずれもミリ秒から秒単位)、しかも、原子炉の中では容易に作られないので、別の方法で作るしかないんだよね。
なので、104番から先はさらに別にカテゴライズして「超重元素」と呼ばれるのだ。

今回理研がとった方法は、83番のビスマスの標的に光速の10%の速さまで加速した亜鉛イオンのビームを当てるもので、世界的にも珍しい方法。
電気的な反発力を乗り越えて原子核同士を衝突させるんだけど、勢いが強すぎないので原子核が破裂することなく、結合する絶妙なバランスなんだとか。
亜鉛の原子番号が30番なので、83+30=113なのだ。
埼玉県和光市のRIビームファクトリーという大型研究施設を使った実験だよ。
実験を始めた当初は、112番元素(コペルニシウム)までしか成功していなくて、113番は未踏の領域だったのだ。
ちなみに、研究代表者の森田博士が奮闘する様子は、漫画にもなっているよ。

でも、米露のグループも競合していて、実は数ヶ月先行して米露のグループが成功したと発表していたのだ!
今回日本に「発見」の栄誉が与えられたのは、113番元素ができているかのどうかの確認の実験において、より確実な証拠をつかんでいるため。
米露のグループは、95番のアメリシウム又は98番のカリホルニウムの標的に20番のカルシウムのビームを当てる「ホットフュージョン」という方式で、この場合、ちょっと大きな質量数の元素ができた後、中性子やα粒子を出しながら徐々に崩壊していく過程で種々の超重元素が出てくる、というもの。
一気にいろいろな元素ができるのもお得なんだよね。
でも、すでに報告されている元素にはつながらない、独自の崩壊過程なんだよね。
一方、理研の手法は「コールドフュージョン」と呼ばれていて、平成24年の三回目の合成の時には、4回α粒子を出した後に、すでに知られていた105番のドブニウムにつながったため、より確実な証拠と評価されたそうだよ(α粒子は陽子×2+中性子×2のヘリウムの原子核なので、ひとつα粒子が出ると原子番号が2つ減るのだ。)。
このため、時系列的には「後」なんだけど、日本に軍配が上がったのだ♪
ただし、今回113番は日本がとったけど、同時に米露のグループは115番、117番、118番を持って行っているので、まだ一矢報いた、という感じなんだよね(>o<)

今後正式に新元素の名称と記号の提案依頼が来て、半年の期限内に申請することになるんだって。
それが審査され、妥当だったら正式に決まるのだ。
なので、これから1年くらいかかって決まるわけ。
再来年度の教科書なら間に合うのかな?

むかしは発見者が論文で発表するときに勝手に名前をつけてしまっていたんだけど、104番のラザホージウムで問題が生じたんだよね。
米国のグループはラザホージウムとしたんだけど、先に発見していたと主張しているソ連(当時)のグループはクリチャトビウムを名付けたのだ。
この混乱は30年近く続いて、平成9年になてIUPACが裁定を下し、米側に軍配を上げたのだ。
で、命名のルールが整備され、競合するグループがいる場合は、IUPACと国際純粋・応用物理学連合(IUPAP)の合同作業部会(JWP)が裁定を下すことになっているのだ。
今回の113番もけっこうもめたので、時間がかかったんだよね・・・。
さらに、研究グループに与えられるのは「新名称及び記号の提案権」であって、それをIUPACが審査するプロセスにもなっているのだ。
申請がなかったり、妥当なものと認められない場合は、IUPAC主導で決めるみたい。

このあたりの話は、IUPACの公表資料で引用されているルールを見ると書いてあるよ。
で、命名に当たっても決まりがあって、基本的には、①神話に出てくるもの、②鉱物等、③地名、④元素の性質又は⑤科学者の名前にちなんで名付けなくてはならなくて、新元素についてはすべて「-ium」で終わらないといけないのだ。
ちなみに、地名で言えば、米国発のアメリシウム、カリホルニウム、バークリウム(いずれもUCバークレーの成果なので)、ドイツ発のダームスタチウム(重イオン研究所のあるダルムシュタットから)、ロシア発のドブニウム(ドゥブナ研究所から)が有名。
科学者では、アインシュタニウム(アインシュタイン)、ラザホージウム(ラザフォード)、ボーリウム(ボーア)、レントゲニウム(レントゲン)、コペルシニウム(コペルニクス)なんかがあるよ。
神話とか鉱物とか元素の性質というのは過去の名称との整合のためのもので、ウラン(ウラヌス)、ネプツニウム(ネプチューン)、プルトニウム(プルート)は神話から、鉄や銅、銀、金などの金属類の名前は鉱物から、水素、酸素、塩素なんかは性質から、ということ。

ちょっと重要なのは、過去に非公式で使っていた仮称をい転用してはいけない、というルールがあるのだ。
競合相手に負けた場合、それまで使っていた名称を別の元素に改めてつけて敗者復活を図ることはできないのだ。
これは混乱をさけるためなんだけど、そういう意味では、下手に変な仮称をつけない方がいいってことだよね(笑)
ちなみに、IUPACの命名ルールでは、原子番号から機械的にラテン語又はギリシア語読みの数詞を並べる三文字表記の系統名を仮称としてつけることになっているので、今ではそれを使う例が多いよ(ラテン語とギリシア語を交ぜているのは音がかぶらないようにするため。)。
今回の113番は、「いち・いち・さん」なので「ウン・ウン・トリ・ウム」なのだ。
これが正式に名前がつくと、二文字の元素記号になるわけ。
はてさて、どんな名前になることやら。
せっかくだから、世界に誇れる名前がいいよね!

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