2017/07/01

夏にこそ温かいものを!

この前、日本酒のプロモーションのイベントを少しお手伝いしたのだ。
日本酒について簡単にレクチャーした後、試飲してもらうもの。
もちろん、来ている人たちは試飲が目的だよね。
フランスでもけっこう日本酒の人気は高まっているようで、日本食材店に買いに来るフランス人もいるくらい。
で、このとき、参加者になかなか理解されなかったのが、「燗酒」なのだ。

参加者からの質問は、「なぜ燗にするのか」や「冷や酒で飲むものと燗酒にするものの違いは何か」というもの。
なにやら、専門的には酒の中に含まれる酸味成分の違いで、クエン酸系の酸味が多いものは温めないで飲む方がよく、リンゴ酸系の酸味が多いものは温めた方がおいしいんだって。
いずれにせよ、燗をすることで揮発性の香味成分が外に出てくるので、いわゆる「香りが立つ」ということになるのだ。
これは赤ワインのデカンタージュと同じだって。

でも、科学的にはもう少し違いがあるんだよね。
実は、温度によって味覚の感じ方は変わってくるので、それも影響するのだ。
酸味の場合はほとんど影響を受けないのだけど、甘味にについては温かいと感じやすく、熱すぎるとまた感じなくなってくるという特徴があるのだ。
冷たいときも十分甘いけど、ぬるくなったコーラがより甘く感じるのはこのため。
フランスのオランジーナは常温で飲むことが多いけど、日本では冷たくして飲むので、日本のオランジーナはより甘いとか。
さらに、うまみ成分のアミノ酸や核酸も、温かいときの方が感じやすいんだよね。
冷たい味噌汁よりも温かい味噌汁の方がうまみを感じやすいのだ。
一方、渋味・苦味は単純に温められると感じにくくなるみたい。
冷たいお茶の方が渋味を感じることが多いのもこのためかな?

というわけなので、もともとそんなに甘くない、辛口の日本酒なんかは、温めると甘味が引き立つんだ。
そういえば、冷やで飲んでほしいと言われる地酒系の日本酒には甘味が強いものが多いような。
そして、渋味や苦味のような「雑味」がある場合は、温めるとそれがやわらぐことになるよ。
なので、最近では、あまり「よくない」お酒を燗にするというように受け取られているように感じるよね。
地酒の多くが冷や酒(常温だけでなく、氷で冷やすようなものも)で飲まれていて、いわゆる大量生産系の昔ながらの灘の酒が燗にされるのでそういう受け止めになってしまうみたい。
それに、燗をすると香りが強くなるんだけど、大吟醸のようなもともと香りが強いものは、温めると強烈になり過ぎてよくなんだって。
大吟醸=高いお酒だから、高いお酒は燗にしない=安いお酒を燗にする、という構図ができてしまっているのもあるかも。

ただ、むかしのサザエさんなんかを見ていると、日本酒は燗酒で出されているんだよね。
これは、江戸時代に清酒が庶民にも流通した頃からの伝統だって。
平安時代には、秋冬シーズン(重陽の節句から桃の節句まで)にはお酒を温めて飲んでいたことがわかっているんだけど、あくまでも貴族などの上流階級でのお話。
安土桃山時代くらいに清酒の製法ができて、江戸時代に一気に広まった頃から、燗酒にされるようになったようなのだ。
当時は、醸造された酒量に対して税金がかかったので、アルコール度数がほぼ最大の20度くらいの原酒を造ってそれを出荷し、仲卸や小売りの段階で水で薄めていたんだって。
庶民の口に入る頃には4~5度とかいう話もあるから。ビール感覚だったのかも。
それを温めて飲んでいたのだ。
ちなみに、今でも日本酒の多くは20度くらいの原酒を少し薄めて、14~15度くらいにして出荷しているんだよ。
これを加水調整というのだ。

当時の日本酒は雑味が多かったのか、薄めているが故に甘味が感じにくかったのか、とにかく温めて飲むが主流。
貝原益軒さんも、日本酒は温めて飲むがよい、と書いているそうだよ。
もともと日本人はお酒にあまり強い人種じゃないから、その方がアルコールもさらに少し飛んでよかったのかも。
それに、燗酒は、吸収もよいので、飲み過ぎることがあまりないんだって。
逆に、冷酒の場合は、吸収されにくいので、ついつい飲み過ぎてしまうそうなのだ・・・。
これは気をつけないといけないね。

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