2019/02/02

雨水を吐く怪物

パリの街ではカサをさす人が少ないんだよね。
さーっと降ってすぐにやむことが多いのもあるんだけど。
なので、基本は雨宿りか、フードをかぶるか、そのまま歩くか。
ボクはカサを持っていればさす方が多いけど、小雨ですぐやみそうなときなんかは、軒下から軒下へと雨宿りしつつ移動しようとするんだけど・・・。
思わぬところから水が降ってくる!
これは、雨粒ではなくて、バルコニーなどからしたたってくる水滴なのだ。

よくよくバルコニーの構造を見てみると、日本のような雨樋がしっかりと着いていないことが多いんだよね。
屋上に水がたまらないようにする雨樋はついていることもあるけど、バルコニーに至っては、何もないか、あってもそのままバルコニーから水を吐き出す管が出ているかだけ。
パイプで地面近くまで導くような雨樋はないのだ(>_<)
このため、雨が降ったいる最中や、雨がやんでからのしばらくの間は、建物の突起部分から水がしたたってくるんだよね。
これは地味にいらつくのだ。

どうも、ローマ時代には雨樋(rain gutter)はすでにあったそうだよ。
雨水を効率的に集めたいというニーズと、壁面や柱に自由に雨にぬれると傷みが早くなるので、それをさけるために「雨の通り道」を作りたいというニーズがあったようなのだ。
ところが、問題となったのはデザイン性。
どうしてもとってつけたようなものになるので、それをいかに工夫するか、ということで発達するみたい。
解決法は二つで、壁の内側に見えないように作る、というのと、開き直って装飾的に作ってしまう、というもの。
ま、フランスの場合は、鉄筋コンクリートなら雨で痛むこともないからいっそのことつけない、という選択肢があるようだけど・・・。

そんな流れで出てきたのが、大聖堂と呼ばれるようなよく大きな教会などで見る「ガーゴイル」。
あれは水の吐き出し口に悪魔のような形の像をつけ、その口から雨樋で集めた水が吐き出されるようになっているのだ!
出てきたのは12世紀のゴシック建築の時代。
なんと、フランス発祥だって。
ま、この「ガーゴイル」は地面まで水を導くわけではなく、かなりの高さのところから水を吐き出すだけなので、建物の近くに行くと思わぬところから水が降ってくる、というのは変わらないのだけど(笑)

ガーゴイルはフランス語ではガルグイユ(gargouille)。
これはラテン語の「のど(gurugulio)」から来ていて、もともとは水が流れるときのゴボゴボ言う音から来ている言葉なんだって。
「うがいをする」の「gargle」もここから来ているそうだよ。
ゴボゴボと集めた雨水をはき出すからガーゴイルなのだ。
ゴシック様式の建物とともにこの装飾が欧州十に広がったそうだよ。

ところが、ルネサンス期になってゴシック様式が廃れると、ガーゴイルも作られなくなってくるんだって。
これが復活するのは18世紀後半からの「ゴシック復興期」の時代。
ちょうどパリのノートルダム大聖堂の修復のときに活躍した、フランスの建築家のヴィオレ・ル・デュクさんなどが大きな役割を果たしたのだ。
こうして、18世紀~19世紀にかけては、中世の教会を修復したり、新しい教会を作るときにゴシック風に建造されたんだ(これを「ネオ・ゴシック」と言うよ。)。
さらに、いつしかガーゴイルは雨樋の水の吐き出し口という機能も失われ、塔の四隅にある、デザインにアクセントを与える突起状の装飾物になってしまうのだ!
これは米国に建てられた高層ビルなんかに見られるそうだよ。
っていうか、やっぱり欧米人はまじめに雨樋を作って雨水を集める気はないのか・・・。

ちなみに、「ノートルダムの鐘」に出てくる「ガーゴイル」は本当はガーゴイルではないのだ。
あれは単なる彫像で、雨樋の吐き出し口にはなっていないんだよね。
これはガーゴイルの意匠から発展した装飾物だよ。
19世紀の修復の時に加えられたもので、フランス語では「シメール(いわゆる「キメラ)」とか「グロテスク」と呼ばれているのだ。
形から「ガーゴイル」と呼ばれてしまっているけどね。
これもヴィオレ・ル・デュクさんが付け加えたもの。

というわけで、ゴシック様式で雨樋は装飾に進化したのはいいんだけど、いつしかその機能が失われ、ただの装飾品になってしまったのだ・・・。
やっぱりフランス人には雨樋の必要性というのがいまいちぴんときていないのかなぁ。
でも、建物の近くによれば上から水が降ってくるし、建物から離れればイヌの「落とし物」がいたるところにあるし、パリの街は歩きにくいところだ(>_<)

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