2019/03/16

フォンジュ

仏教の五戒の一つに「不飲酒(ふおんじゅ)戒」というのがあるのだ。
読んで字のごとく、お酒を飲んではいけない、というもの。
お酒がダメなのはイスラム教もそうだよね。
実は、ヒンドゥー教もお酒を飲むことを忌避する傾向があるんだって。
なので、どうしても東南アジアや南アジアの「地酒」と言われるとよくわからないのだ。
タイやベトナム、インドでは今はビールが有名のような気がするけど、これは暑くて蒸しているからだよね・・・。
キリスト教のように酒(ワイン)が宗教儀式と一体化していれば古代から伝わるものが残ったんだろうけど、そうはいかなかったのだ。

一方で、お釈迦様の時代の紀元前5世紀の原始仏教においてすでに「お酒を飲んではいけない」なんて戒律が作られているくらいで、何かアルコール飲料はあったはず。
それがあまりよろしくないということで禁止しているはずだよね。
では、それが何かが気になるのだ。
ヒントは、インド神話にあるみたい。

インドの神話には、どうも2種類の「酒っぽいもの」が出てくるんだよね。
ひとつは、神々の飲料である「ソーマ」。
何かの植物の汁から作るようなんだけど、詳細は不明。
古代インドの祭祀に用いられていた興奮性のある飲料のようで、「ソーマ」というのは原料となった植物に由来する名前みたい。
栄養と活力を与え、寿命をも延ばすという霊薬なのだ。
インド神話のヴェーダによれば、植物の知ると牛乳やバターを混ぜて攪拌して作るらしいんだけど、どうもアルコールっぽくはないんだよね。
高揚感や幻覚作用が主なようなので、ドラッグ系に近いのかも・・・。
効用的にはエナジードリンク的だけど。
植物の汁というのがポイントで、おそらく、カフェインやコカイン、興奮性、神経刺激性のある植物アルカロイドを含むものだと思うのだ。
後に、神々の飲み物で、飲んだものに不死を与えるアムリタ(仏教の漢語訳では「甘露」)と同一視されているので、神聖で、貴重で、素晴らしいもの、というニュアンスがあるよ。

もうひとつは、スラーと呼ばれるもの。
こちらは人々を酩酊させる飲み物で、特に悪性の酔いをもたらすものとされているのだ。
なので、スラーを飲むことは忌避される傾向もあったみたい。
これは今のアルコール忌避につながるかも。
ただし、古代インドの一部の祭祀ではソーマのように使われることも。
でも、飲み方を誤ると良くないなんて伝承があるそうなので、やっぱり悪いイメージがつきまとっているのだ。
おそらく、これが古代インドの酒なんだよね。

今となっては詳細は不明なんだけど、原料は、穀物系のデンプン、糖蜜(サトウキビの汁)、花の蜜なんかが想定されているよ。
東アジアだともっぱら穀物系の複発酵酒(デンプンを糖化し、その後アルコール発酵させるもの)がメインだけど、南インドまで来ると熱帯性気候なのもあって、糖蜜や花の蜜のようなものがそのまま自然発酵してできた酒があるようなのだ。
欧州には蜂蜜酒(ミード)があるけど、東アジアにはそこまで糖度の高い液体が手に入らなかったのかな?
果物が自然発酵する「猿酒」みたいなのはあったけど。

そこで注目したいのが、ネパールのどぶろくの「チャン」。
インド北部にも同じものがあるようだけど、コメ、ムギ、ヒエなどの穀物を煮た後、種麹となるムチャ(餅麹、穀物の粉と植物の汁を練って団子状にしてカビ=麹をはやしたもの)と混ぜ、発酵させるのだ。
発酵してきたら壺に移し加水するんだって。
比較的アルコール度数の低い微発泡性のどぶろくだよ。
どぶろくは甘くて飲み口がわりとよいのに、悪酔いしやすいから、イメージ的にもぴったりなのだ。
古代日本でも「口噛み酒」が神事に使われていたから、古代インドでも新たに収穫した穀物でどぶろくを作って神に捧げるとともに、自分たちもお祝いで飲んで騒いだんじゃないかなぁ?

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