2019/12/07

煮込んだ末に

寒くなってくると、あたたかい料理が恋しくなるよね。
熱々の鍋とか。
日本ではそうなんだけど、パリにいた頃は、フランス人が猫舌が多くて熱々のものが少なかったんだよね(>o<)
そんな中でもわりと熱々で出てくるのが、ブッフ・ブルギニョン(牛肉のブルゴーニュ風)。
いわゆるシチュー料理で、オーブンで加熱していた熱々の鉄鍋が出てくることが多かったのだ。
ま、持ってくるのが遅くなって冷めることもあるんだけど(笑)
これは牛肉の赤身肉を野菜とともに赤ワインでひたすら煮込んだ料理。
肉はたいていとろっとろになっているのだ。
脂が指しているとその部分が柔らかくなるんだけど、この料理の特徴は赤身肉がほぐれるくらい柔らかくなっていることだよ。

これは、煮込んで加熱することで、筋繊維の中のコラーゲンが変性するのだ。
コラーゲンは通常3つの繊維がらせん状に絡まっている構造なのだ。
これが熱変性するとその三重らせんがほぐれるんだ。
この変性したコラーゲンの中には水に溶けるものがあって、そうして抽出されたものがゼラチン。
温かいうちは液状だけど、冷めてくるとゲルになるのだ。
牛すね肉なんかを煮込むと煮こごりができるけど、それは固い牛すね肉の筋繊維の中からコラーゲンが溶け出して、それが冷めて固まるのだ。
魚の煮こごりなんかも同じだよ。

で、筋繊維は筋肉の形状を維持しているもので、すなわち、肉の固さの大きな要因なのだ。
それが熱で少しずつ変性して、一部が水の中に溶け出すと、その分だけ筋繊維はもろくなるわけ。
これが肉が軟らかくなる仕組みだよ。
とろっとろの牛シチューで肉が細かい繊維状にほぐれてくるのは、全体を筋肉としてまとめていたコラーゲンの構造が失われるため。
これが舌の上でとろける肉なのだ。
圧力鍋を使うとより高熱になるので、早く柔らかくなるのだ。
じっくりコトコト煮なくても、肉の中で同じような変化が起こるわけ。

逆に言うと、コラーゲンの構造が壊れれば肉は軟らかくなるわけで、それを化学的に起こしているのが、酵素による分解。
つまり、パイナップルやパパイヤ、タマネギなんかと一緒に肉を少し漬けて柔らかくする、という方法だよ。
これらの果物・野菜にはタンパク質分解酵素が含まれていて、それがコラーゲンを含めて筋繊維のタンパク質を細切れにするのだ。
その結果、肉がやわらかくなるわけ。
中心部まで柔らかくするためには、長時間漬けたり、事前に肉をフォークなどで刺して穴を開けたり、よく揉み込んだりすることが大事になるよ。

固いけど、じっくり煮込むと柔らかくなって出汁も出ると言われているのがすじ肉。
アキレス腱の部分や筋肉の間の筋のまわりの肉。
この部位はとにかくコラーゲンが豊富で固いんだけど、その分、じっくり熱をかけてコラーゲンを変性させてあげるとぷりっぷりで柔らかくなるよ。
ま、コラーゲンを抽出するだけなら豚の皮ぎしの方が楽なんだけど。
だからコラーゲン鍋には豚が使われることが多いような気がするけど、牛すじは本来捨てられることが多かったこともあって、庶民の食べる肉として食文化が形成されてきたのだ。

ただ、牛すじの難点はアクが大量に出て、しかも、くさいこと!
長時間アクを取りつつ、このにおいがしなくなるまでゆでる必要があるのだ。
そこまでが下処理で、さらに煮込むことになるんだよね。
なので、手間はかかるけど、安くおいしく食べられる肉だったわけで、それが牛丼に使われたりしたんだよね。
それにしても、こういうのって食への飽くなき探究心を感じさせるよね、
最初に、誰が長時間煮込んだらおいしく食べられると発見したのか、気になるところなのだ。

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