2020/01/04

北海名物を正月に

本来的にはお節料理には関係ないんだろうけど、最近のお節にはよく「松前漬け」が入っているよね。
スルメ(あたりめ)やコンブは縁起物でお正月飾りなんかにも使われるしね。
もともと保存食で日持ちもするし、他のお節料理と同じく、酒に合うというのもあって、常連と化しているような気がするのだ。
実際にお正月前には松前漬けの素をよくスーパーなどでみかけるようになるし。

この松前漬け、名前のとおり、北海道の郷土料理。
かつてコンブは「松前」と呼ばれることもあったように、北海道の名産。
スルメイカもよく獲れて、スルメも名物だったのだ。
さらに、江戸後期から昭和初期にかけては、北海道と言えばニシン。
大量に獲れたので、ニシンの卵である「数の子」も実は安価な食材だったのだ。
これらを塩漬けにして保存食にしたのが松前漬けの発祥だそうだよ。

これが戦前の昭和期に商品化される際、醤油ベースの調味液に漬けたものに変わったようなのだ。
それが現在普及している松前漬けになっているわけ。
調味液は、醤油、酒、味醂などを煮立てたもので、これに細切りにしたコンブ、スルメ、ニンジンを入れ、さらに、数の子を加えて数日冷暗所で味をなじませるのだ(ニンジンは入れない場合もあるよ。)。
この過程でコンブとスルメからはうまみが溶け出し、そして、コンブのぬめりで全体がとろっとするのだ。

似たような料理に福島の郷土料理の「いかにんじん」があるんだよね。
こちらは細切りのスルメとニンジンを醤油ベースの調味液で漬け込んだもの。
松前漬けの原型とも言われているんだけど、かつての松前漬けが塩漬けであったことを考えると、そう単純ではないのだ。
蝦夷地を所領していた松前藩は江戸後期にいったん福島の伊達のあたりに梁川藩に国替えになり、再度蝦夷地に戻ったんだけど、その際に福島のいかにんじんを家臣が持ち帰ったのでは、と言われているのだ。
同じ細切りのスルメを使う保存食なので、このときの醤油ベースの調味液でつけ込む、という手法が松前にもたらされたのではないかと思うんだよね。
元々塩漬けだったのが醤油ベースのものに変わっていったというわけ。
ただの塩漬けよりはそっちの方がうま味がありそうだしね。

「漬け」とは言っているけど、いわゆる発酵食品としての漬け物とは違うのだ。
浅漬けや醤油漬けなどと同じで、「漬け込んだ」というものであって、乳酸菌などで発酵はさせていないはずなんだよね。
初期の塩漬けのものはよくわからないけど、現在の調味液に漬けて味をなじませるものは発酵していないのだ。
その証拠に、まったく酸味は感じないよね。

京都名物の千枚漬けも、かつては乳酸菌発酵を使った漬け物で、塩漬けにして水分を除いたカブをさらにコンブと一緒に漬け込んで乳酸菌発酵させたもので、カブの甘さと発酵によるほのかな酸味を楽しんだものだったそうなのだ。
現在よく流通しているものは、カブのスライスの酢漬けになっていて、発酵させていないものもあるんだって。
買うときに気をつけないといけないよ。

ただし、ミソの場合も、耐塩性の乳酸菌によりほのかな酸味を加えることで味の深みが増すというから、松前漬けで全く発酵が起きていないとは言えないのだ。
特に、ニンジンが入っている場合は、ニンジン中に多くの糖質が含まれているので原料は多いわけだし。
でも、シューパーなんかで売っている「松前漬けの素」は、スルメとコンブと調味液の組み合わせだし、おそらく発酵させることに主眼はないのだ。

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