2020/02/15

織らずにシート

新型肺炎のせいでマスク不足が発生しているよね。
ここでいう「マスク」は、むかしながらのガーゼのマスクではなくて、使い捨ての不織布のマスクなのだ。
ボクは大学生の時に実験動物のマウス君のお世話をしていたんだけど、その頃からのなじみ。
ここ最近は花粉症対策でマスクが使われるようになって、一気に不織布のマスクが広まったんだよね。
咳が出るわけでもない、花粉症でもないのに府だなkらマスクをする人なんかも出てきているのだ。
そんな人たちにとってはマスク不足はかなり大変な事態だよね。

で、気になったのが「不織布」。
字のごとく、織らずに作られているシート上のもののことを指すわけだけど、これだとわかるようでわからないよね。
一般には、繊維を織らずに絡ませてシート上にしたもので、紙やフェルトを除いたもの、となっているみたい。
逆に言うと、繊維を撚って糸にし、それを追って作られるのが布。
そうやって規則正しく縦横に糸を織って絡ませるのではなく、ランダムな方向を向いている繊維を熱をかけたり、接着剤を使ったりしてシート上に加工したものということなのだ。
繊維の状態だけ見るとフェルトや紙もそうなっているので、フェルトや紙を除いたそういう製品のカテゴリーとして不織布があるんだよ。

フェルトは古代から作られているもので、伝統的には羊毛などの動物の毛を圧縮してシート上に加工したもの。
動物の毛の表面には鱗状のキューティクルがあって、それが互いに絡み合うとくっつくのだ。
織った布とは違って耐久性に劣るので何度も洗濯して、というのはだめなんだけど、逆に間隙が多いことでクッション性がよかったり、断熱・保温に優れているという特徴があるのだ。
日本最古のフェルトは、正倉院に所蔵されている毛氈(もうせん)だって。

シャンプーなどのCMでもおなじみだけど、毛のキューティクルは湿気があると開くのだ。
このときに圧縮してあげるとキューティクル同士がかみ合ってからむわけ。
ただの水ではなく、石けん水のような弱アルカリ性の水溶液を使うとよりキューティクルが開くので、動物の毛を集めて石けん水を含ませ、それを圧縮してから門代理巻いたりしてせんいをからませ、最後に乾燥させるとフェルトができるのだ。
これは夏休みの宿題とかでもできないことはなさそうだね。

一方、紙は、植物由来のセルロース繊維を水中で均一に分散させ、それをシート上に広げてすくい上げ、脱水したもの。
いわゆる「紙すき」の工程で作られるのだ。
わしなんかはイメージしやすいけど、大きめの繊維が見えることもあるよね。
それと、ただ繊維を分散させるだけだときれいにまとまらないので、「ねり」と呼ばれる粘着剤をふかしているのだ。
わしの場合は繊維が用紙に比べて長いので、これがないとうまくまとまらないよ。

フェルトでも紙でも、繊維がランダムな方向でなんらかの形で絡まって、結果としてシート上になっているのだ。
不織布は、いろんな材料でその状況を作り出したものの総称。
先にあったフェルトや紙を除き、工業的に新しく作れるようになったものをそう読んでいるみたい。
JIS規格(日本工業品規格)でも、わざわざフェルトや紙を除く、となっているようなのだ。
使い捨てマスクや紙おむつのようなセルロース繊維を使った不織布は紙と同じようなものなんだけど、一般に不織布として分類されるものはより繊維の長さが長いものなんだって。
つまり、昔の技術ではもっと繊維を細かくしないとシート上にできなかったものが、技術の進歩で繊維が長い状態でもシート上にすることができるようになった、ということなのだ。

不織布は織らずに作られるので製造工程が簡単で、安価に大量に作ることができる、というメリットがあるよ。
一方で、絡み合っているだけなので摩擦や引っ張りに対する強度は一般的に弱く、洗濯して何度も使うような衣料品には向かないのだ。
なので、使い捨てのマスクや紙おむつなんかに使われるわけ。
原発事故で一時期話題になった「タイベックススーツ」も不織布で作られたものだよ。
あれも使い捨てだよね。

不織布のもう一つの特徴は、ある程度「すき間」をコントロールして作ることができること。
つまり、みっちりとすき間なく作ることもできるし、通気性を確保してゆるく作ることもできるのだ。
汚染を防御するためのタイベックススーツはわりとみっちりと作るけど、紙おむつやマスクはある程度の通気性も必要なので、液体は通らないけど気体は通る、みたいな塩梅がほしいわけだよね。
不織布の材料でも吸湿性や通気性は変わってくるので、けっこういろんな用途に使えるよ。
それで広まっているのだ。

一方で、やはり弱点もあって、摩擦や引っ張りに弱いというのに加え、「透かし」ができないというのもあるのだ。
織物の場合は半透明の布地が作れるのだけど、繊維がランダムな方向に絡み合って積層されている不織布ではそれは無理なのだ。
間隙がたくさんあって光を通す、たとえば障子紙のようなことはできるんだけど、花嫁のヴェールのような半透明のシートは作ることができないんだ。
どうしても透明なものがほしい場合は、高分子の樹脂フィルムとかを使わないといけないんだよね。
ま、透明なマスクとかかみおむつはあまり想像したくないけど(笑)

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