2020/02/29

すーっと殺菌

新型コロナウイルスの関係で、マスクだけでなく、消毒用アルコールも品薄状態らしいのだ。
職場や公共の場においてある消毒用アルコールが盗まれるなんて事件も報道されているね・・・。
そして、消毒用アルコールが買えない人たちは、「スーフリ事件」で一躍有名になったスピリタス(ポーランド原産のウォッカで、世界最高のアルコール度数96度のお酒)も売り切れ続出なんだって。
とにかくパニックになりつつあるよ。

消毒用アルコールは、一般にはエタノールを水で希釈したもの。
生物学実験に使われる消毒用エタノールは、70%エタノールというやつで、これは容積比率で70%。
このあたりがもっとも消毒力が高いと言われているのだ。
例えば、1Lの70%エタノールを調整する場合は、先に700ml無水エタノール(99.5%以上の濃度のエタノール)を用意して、そこに水を足していって1Lにするのだ。
単純に300mlの水を足せばいいわけじゃないところに留意。
実は、水は300ml以上必要なのだ!
一方、日本薬局方で規定されている消毒用アルコールは、容積比率で76.9〜81.4%。
なんか中途半端な数字だけど、実はこっちの方が作りやすいのだ。
普通に700mlの無水エタノールに300mlの水を足すだけ。
水とアルコールを混ぜると少し容積が減るので、70%より少し大きな数字になるのだ。
ちなみに、いわゆるアルコール度数と言われる重量比率だと、80度くらいだよ。

エタノールの殺菌効果は、エタノールという液体が水にも油にも混ざりやすいという性質から来るもの。
これは界面活性剤も同じだよね。
エタノールの場合は、水分子と競合することで水素結合を壊し、生体高分子の高次構造を壊すことで細胞膜やそこに埋まっている膜タンパク質を変性させるのだ。
エタノールの場合、浸透力があって殺菌作用が短時間で表れ、かつ、アルコールが蒸発してしまうと何も残らないので、洗い流す必要がないんだよね。
石けんをはじめとした界面活性剤は後で洗い流さないといけないので、さっとテーブルの上を吹く、などの用途には使いにくいのだ。
手の場合も、界面活性剤を使う場合はしっかり洗うわけだけど、エタノールの場合は手をこすり合わせれば終わり、というわけ。

この作用だけ見ると、実はエタノールでなくても、低級アルコール(炭素数の少ないアルコール)であればいいんだよね。
実際には、エタノールのほかに、イソプロピルアルコール(2-プロパノール)というものが使われるよ。
これは炭素数が3のアルコールで、CH3CHOHCH3という構造式で表されるもの。
端の炭素にアルコール基(-OH)がつくと、1-プロパノール、真ん中の炭素にアルコール基がつくと2-プロパノールなのだ。

独特の芳香を持つ無色透明の液体で、エタノールより少し殺菌力は落ちるのだけど、エタノールだけしか使わない場合、酒税法により税金が高くなってしまうので、飲用に適さないように加えられるのだ。
工業用アルコールの場合はエタノールに炭素数が1のメタノール(メチルアルコール)を加えるんだけど、メタノールはヒトへの毒性があるため(「目散る」といって、目の網膜や視神経を代謝物のホルムアルデヒドやギ酸が損傷させて失明するのだ。)、外用といえどもヒトに使う場合は毒性の低いイソプロピルアルコールが用いられるわけ。

ちなみに、炭素数が多いこともあって、イソプロピルアルコールの方がよく油になじむのだ。
なので、機械類のアルコール洗浄にもよく使われるよ。
一方で、エタノールの方が親水性が高いので、ノロウイルスなどの水中に分散しているウイルス類への殺菌力はエタノールの方が強いと言われているのだ。
これが殺菌力の違い。
普通に売られている消毒用アルコールの多くは、エタノールに少量のイソプロピルアルコールが混合されたものだよ。

というわけで、これを踏まえると、度数の高いお酒から消毒用のエタノールは作れなくもないのだ。
スピリタス800mlに水200mlを加えればいいくらい。
これを実践している人もいるのかな?
実際には、そのまま消毒用に使っているような気もするけど。
ちなみに、40%を超えるエタノールは消毒作用を持つので、スピリッツと言われる蒸留酒やウォッカのような強烈なやつは消毒に使えることになるよ。
傷口にブーッとお酒を吹くのはこのため。
一般的なウイスキーやブランデーだと使えなくはないけど、少し薄いくらい。

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