2020/10/17

渋いうちはダメ

 秋になって、柿のシーズンになったのだ。
ボクは昔から柿が好きなんだよね。
生食も干したのもどっちも。
でも、古来から日本人は柿を食べるために様々な工夫をしてきたのだ。

そのままおいしく食べられる「甘柿」は突然変異と考えられていて、基本は渋いものなのだ。
品種改良の過程で甘柿同志を掛け合わせても渋柿になることもあるらしいから、実は渋みは柿のアイデンティティに関わるものと言っても過言ではないのだ。
でも、この渋みは柿が完熟して「熟柿(じゅくし)」という実がとろっとろの状態になると感じなくなるんだよね。
つまり、本来はその状態が食べ頃ってこと。
柿的には渋いうちは食べられたら困るのだ。
これは柿の生存戦略上重要で、中にある種がしっかり熟す状態になるまでは食べられても困るということだよね。
熟した状態で種ごと食べてもらって、鳥や動物に遠くまで運んでもらってそこで種を出してもらうことで生息域が広がるのだ。

この渋みの正体はタンニン。
お茶なんかの渋みもこのタンニンだけど、お茶の場合はそこまで量が多くないのでそのまま楽しめるのだ。
でも、渋柿をガリッとかじると口の中がしびれるほどの渋さだよね・・・。
未成熟の渋柿の中にあるタンニンは水溶性で、それが唾液に溶けて粘膜に付着すると渋みを感じるという仕組み。
なので、タンニンが溶け出さないようにしてあげれば、いいわけ。
むかしはこういう科学的な部分はわかっていなかったわけだけど、いろいろと試して、経験的に、いわゆる「渋抜き」の方法が確立されてきたのだ。

一番単純なのは干し柿。
実がとろとろになるまで熟せば渋はなくなるものの、そこまで行くとほぼ流通はできないし、日持ちなんかもしないわけだよね。
またかたいうちに収穫して追熟、というのもあり得なくはないけど、同時にいたんでも来るわけで、きちんと保管して、適切な時期に食べなくちゃいけないのだ。
※現代なら、リンゴと一緒に袋に入れておくとリンゴから出るエチレンガスの効果で追熟が促進され、すぐに甘くなるよ。
そこで、他の多くの果物で行われているのと同様に、干して水分を飛ばす、という方法がとられるわけ。
干し柿にすれば運搬もしやすくなるし、日持ちもするようになるし、何より、水分が飛んで甘みも増すので、これはかなりよい方法なのだ。
なので、基本は、完全に熟すのを待つか、干し柿にするのが選択肢だったわけ。

でもでも、生食で甘い柿を食べたいという欲望は捨てきれなかったようで、そのために更なる工夫がなされたのだ。
それが今にも残る渋抜きの方法だよ。
有名なのは、焼酎に漬けるというもの。
これは樽柿というやつ。
つけ込まないまでも、アルコール度数の高いお酒を吹きかけ、外気に触れないように密閉して1週間ほど放置する、というものもあるよ。
温泉地なんかでは、お湯につけておく、というのもあるのだ。
これらはみな、柿の中にアルデヒドを発生させ、それがタンニンと結合することでタンニンが水に溶けなくなる、という原理を使っているのだ。
もちろん、そんな仕組みがわかったのは後のことだけど。
で、仕組みがわかった後に編み出されたのは、炭酸ガスの充満したところに億というもの。
柿は酸素がない状態に置かれると中の頭分がアルコール発酵され、それがさらにアルデヒドに変わるのだ。
お湯につけておくのと基本は同じ反応が起きているみたい。

こんな感じで工夫して、普通に食べたら渋い柿をおいしく食べてきたのだ。
今では最初からそのまま食べられる甘柿があるわけだけど、実は甘柿より渋抜きした渋柿の方がおいしい、という話もあって、渋抜きも続いているんだよね。
富有柿や次郎柿は甘柿だけど、平核無(ひらたねなし)や刀根早生(とねわせ)のような渋抜きした柿も関東では好まれるんだよね。
ちなみに、柿は糖分が多いので敬遠されがちだけど、カリウムやビタミンCの含有量も多く、果物として非常に優秀なものなのだ。
今は値段もそんなに高くないし、なんと言っても、日本が誇る果物なので、秋は柿を食べよう!
なお、フランスでは、とろとろに熟した柿を冷凍庫で凍らせてから少し溶け出したものをスプーンですくって食べるのがはやっているみたい。

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