2021/06/26

季節の味覚

 電車内広告で「夏越ごはん」なるものを見かけたのだ。
6月末の「夏越しの祓え」の行事食だという触れ込みなのだけど・・・。
これまで聞いたことがない!
ともって調べてみたら、2015年に公益社団法人の米穀安定供給確保支援機構というところが夏越しの原絵の時期の行事食にしようと提唱しているものなんだって。
だから広告なのか。
ものとしては、丸く上げた夏野菜のかき揚げを雑穀米の上に載せたかき揚げ丼だよ。
「夏越しの祓え」というと茅の輪くぐりのイメージしかなかったけど、あと十年くらい経つとメジャーになっているのだろうか?

思い返してみれば、現在は当たり前のように節分時期に見かける「恵方巻き」ももともとは関西の一部地方の風習。
これが流通産業のビジネスチャンスとなって全国拡大されたんだよね。
コンビニで売ればそうなるし。
かつてのバレンタインデーのチョコレートと同じ。
もっと古く言えば、「土用の丑の日のウナギ」も、江戸時代に平賀源内が生み出したキャッチコピーというから、こういうものには言い出しっぺがあるものなのかも。
今は一生懸命に、仙台近辺で発症した「七夕そうめん」を広めようとしているよね。
こうして行事食が生まれ、それが根付いて続くと伝統になっていくのかもしれないのだ。

ちょうどその途上にありそうなのが、かなり一般に広まっているこの時期の和菓子の「水無月」。
三角形に切ったういろうの上にアズキがのったもの。
まさに夏越しの祓えの時期にいただいて、残り半年を無病息災で過ごす、というものだよ。
結構古いものかと思っていたら、実は昭和になってから広まったものらしい・・・。
もともとは京都の和菓子屋さんが考案して売り出したものが人気が出て広まった、というものみたい。
でも、このお菓子も、荒唐無稽なものでは決してなくて、いくつかの伝統的な習俗が合流してできあがったもののようなのだ。

そのひとつが、「氷の朔日(ついたち)」と呼ばれるもの。
古代中国の風習が日本に伝わったものらしいんだけど、旧暦六月の朔日に、朝廷が臣下に氷室の氷を賜る「賜氷」という宮中行事があったのだ。
もらった人はさらに茅人為分け与えたりするらしいんだけど、この氷を口にすると、夏やせせず、夏重病気にかからないと言われていたんだって。
奈良時代にはかくりつしていたらしいんだけど、鎌倉時代にはすでに宮中行事としては廃れたらしいのだ。
そうだよね、幕府ができて政治の実権が武家に移るから、朝廷の財力も衰退しているし・・・。
しかし、民間習俗の中には残ったようで、旧暦6月1日に氷室から氷を出してきて食べるような風習ができたみたい。
氷室の氷は高級なものなので、庶民ではなく、あくまでも富裕層のものだと思うけど。
こうしてできあがったのが「氷の朔日」というもののようなのだ。
江戸時代には、本物の氷ではなく、氷をかたどった氷餅(冬の間寒中にさらして凍らせることで水分を除いた餅、いわゆる「凍み餅」)に変わって、これをかき餅にして食べたりするようになったんだとか。
で、この風習は、旧暦6月に氷をかたどったお菓子を食べると病気にならない、というような形で根付いたようなのだ。

もうひとつは、すでに出てきている「夏越しの祓え」。
これはもう古い古い時代から、それこしお乞食にも記述があるくらいの伝統なんだけど、旧暦の6月と12月の晦の日に「大祓」をして、半年の間でたまった汚れを祓い、リセットスrう、ということが行われていたのだ。
そのための方法が茅の輪くぐりだったりするわけ。
ただし、こちらは6月の末日だよ。
で、この「夏越しの祓え」をすることで、前半半年間の汚れを祓い、残り半年間を無事に過ごす、という願いが込められていて、「氷の朔日」にちょっとかぶるところが出てくるのだ。

で、室町時代になると、夏越しの祓えの時期には、「夏越ごはん」ではなく、小麦で作った蒸餅が食べられていたようなのだ。
小麦は春に収穫するのでちょうどよいわけだよね。
イメージ的には、くず粉を使っていない方の「くず餅」(東京や川崎で名物のもの)に近いんじゃないかと思うよ。
ただし、形は三角形ではなく、なんかねじり棒のようなものだったらしいのだ。
江戸時代になると、この小麦の蒸餅は「水無月餅」と呼ばれていたようなのだ。
この頃には大角豆なんかも材料になっていて、今の見た目にも近づいているみたい。

こういう土台の上で、あると気胸との和菓子屋さんが思いついたのだ。
夏越しの祓えで食べている「水無月」というお菓子を「氷の朔日」と結びつけてはどうだろうか。
小麦の蒸餅がういろうになったのがよくわからないけど、おそらく、ういろうで作った方が艶があって透明感も出るので、より「氷」のイメージに近かったんじゃないかと思うんだよね。
さらに、そこに邪を払う「アズキ」を加えることで「祓え」のイメージを強化。
こうして、氷をイメージした▽のういろうの上にアズキが載った水無月になっていくのだ、。
今となってはういろう部分が黒糖ういろうで黒かったり、抹茶ういろうで緑だったりするけど・・・。
濁った氷だね(笑)

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