2021/10/16

超選抜のエリート

 最近かなり収まってきたけど、まだまだコロナが報道の話題の中心なのだ。
感染が治まってきた原因がよくわからないとか、第六波が来るとか来ないとか、ワクチンの3回目のブースター接種をやるとかやらないとか。
この1年半くらいの間でかなりウイルスに関する知識も深まった気がするよね。
でもでも、そんな中、ちょっと気になる表現があったのだ。
それは、「ウイルスが変異してこうなった」みたいな説明の仕方。

これはほ乳類を含む生物の進化でもそうなんだけど、こうなろう、こうなりたい、という目的の下に努力した結果が進化ではないのだ!
あくまでも変化は常に起こっていて、そのうち、生存競争に有利な変化は構成にも伝えられ、そうでないものは消えていくだけ。
これが自然選択、自然淘汰による適者生存。
たまたま現在の環境により適した変化を遂げたものが生き残る、という結果が積み重なったのが進化だよ。
キリンは高いところの葉っぱを食べるために首を伸ばしたのではなく、たまたま首が長くなった個体は他の動物が食べられない高いところにある葉っぱを食べられるようになり、生存競争上有利になったのだ。
なので、その形質を持つものが生き残り、キリンになったのだ。

ウイルスは生物ではないけど、基本的には同じ。
コロナウイルスのようなRNAウイルスは、遺伝情報の本体がDNAより不安定なRNAであることもあって、変異が入る確率は高いんだよね。
これは遺伝情報の複製におけるエラーで、確率的に起こることなんだけど、どこにどういう変異が入るかはまったくのランダム。
そもそもウイルスとしての形を保つことができなくなるような致死的な変異(例えば、カプセルタンパクが作れなくなる、逆転写酵素の活性がなくなるなど)もあれば、遺伝情報としては変異が入っているけどそれがタンパク質に翻訳されるときにはほぼ影響がないような変異(3つの核酸塩基によるコードとアミノ酸の対応は1:1ではないので、変異が入ってもアミノ酸レベルでは変化がない場合もあるし、アミノ酸1個が変わったところでタンパク質の機能には問題がない場合も多いのだ。)もあるよ。

こういう変異は複製されるたびに起こっているんだけど、少なくともウイルスの活性に大きな影響のないものだけが増殖していくのだ。
これがいわば第一次選抜。
まわりの環境に変化がなければこれだけなんだけど、実際にはまわりの環境も刻一刻と変化していくわけ。
季節が変われば気温・湿度が変わるし、人間はウイルスに対抗するためにワクチンとか開発するし。
で、変異が入った結果、従来以上に感染力が強くなったり、増殖能力が高くなったりするものが勢力を拡大していくんだよね。
これがウイルスの世代交代で、いわば第二次選抜。
デルタ株などの変異株もこうした第二次選抜を突破したもので、人間が一定の感染予防対策をした上でも感染力や増殖能力を発揮できるウイルスが勝ち残って蔓延しているのだ。
逆に言うと、これらの対策で防げるものは感染できない・増殖できないので消えていくわけ。


ほんの少しの飛沫にごく短時間接触しただけでも感染できるほど感染力が強くなったり、ワクチンにより獲得された抗体で無効化されなくなったりとかの、ウイルスにとって有利な変化が起こるような変異をしたものが残るというわけ。
いたちごっこになるわけだけど、じゃあ、いつまでたってもこれが終わらないかというと、実はそうでもないのだ。
どこかで収束するのだ。
それはなぜか?
それは、ウイルスは自分では増殖できないから。
ウイルスが増殖するためには、感染して宿主の中で増やしてもらわないといけないんだよね。
なので、十分いウイルスが増える前に宿主が死んでしまうほどの感染症状が出るようになってしまうなどの、強力になりすぎたウイルスはそれ以上増えなくなるのだ。
これが時々報道で言及される「自壊ルート」というやつ。
ウイルスが増えるためには人間との共生が必要なので、必要以上に人間にダメージを与えるようなウイルスは爆発的な感染にはなりにくいのだ。
そのまえに感染した人が死んでいってしまうから。

最初の頃にコロナウイルスが脅威とみられたのも、致死率はそれほど高くないけど感染力が強くてすぐに広まるから。
そして、最初期の脅威は、感染してからの潜伏期間が長く、自覚症状のないキャリアがウイルスを広めていたかもしれない、という事実。
自覚症状はなくても体の中でウイルスは確実に増殖していて、それが飛沫として外に放出されていた可能性は高いのだ。
一方で、変異に変異を重ねた結果、今現在はやっている変異株では、感染から発症までの感覚が短くなっているようで、無自覚にウイルスを広めてしまっている可能性が低くなっている可能性があるんだよね。
これは時間かけて統計学など目視して分析すべきだけど、これが本当だとすると、潜伏期間が短くなったというのはひとつの「自壊ルート」ということになるのだ。

で、この先またウイルスがぶり返すかどうかだけど、これはよくわからないんだよね。
ウイルスに起こる遺伝情報の変異は全くのランダムで、その結果として生じるウイルスの変化も未知数なので、なんとも言えないのだ。
感染力だけは強いけど発症してもたいしたことのないような、「ただの風邪」みたいになるかもしれないし、インフルエンザのように致死率の比較的高い、季節性のある流行感染症として定着する可能性もあるのだ。
今の時点で言えることは、これからどうなるかわからない以上はm当面はウイルス対策をそれなりに継続せざるを得ない、ということだね。
少なくとも、なぜ今世界中で感染が治まってきたのかがある程度わかってこないと、次打つべき手は見えてこないんじゃないかなぁ。

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