2021/10/02

カガクの子

 最近はまた受け止めが違ってきているけど、一時期、化学調味料(うま味調味料)への風当たりがすごく強かったのだ。
とにかく体に悪い、という風聞が広まって、使うのが悪みたいな雰囲気があったんだよね。
おそらく、A級戦犯は某グルメ漫画で、化学調味料を摂取し続けると下がバカになって味がわからなくなる、みたいな話が広まったのだ。
基本的には「出汁」の中から単離された「うま味成分」なので、おかしな話ではあるのだ。
塩でも砂糖でも大量にとれば体に悪いわけで、それと同じようなもののはずだよね。

味の素に代表される化学調味料・うま味調味料は日本発祥のもの。
唐代の池田菊苗博士が、コンブに含まれるうま味成分がグルタミン酸であることを発見したことを皮切りに、鰹だしのうま味成分であるイノシン酸、しいたけのうま味成分であるグアニル酸が、「酸・甘・塩・苦」に続く第五の味覚として認識される「うま味」のもととわかったんだよね。
そうなると、コンブや鰹節、干し椎茸で出汁を取る代わりに、これらの物質を足せばいいんじゃね?、ということで開発された調味料なのだ。
最初に調味料として販売されたのがグルタミン酸ナトリウムを主成分とする味の素だよ。

悪い噂が立ち始めたのが60年代終わりの米国。
中華料理を食べると頭痛や疲労感などの症状が出る、といわれるようになり、その原因が、中華料理に大量に使われている化学調味料が原因じゃないかと言われたのだ。
これが「中華料理症候群」と呼ばれるもの。
これは後に濡れ衣であったことが科学的にわかるんだけど、こういう風聞は一度たって浸透してしまうと、なかなかぬぐえないんだよね・・・。
米国でもいまだに批判は続いているそうなのだ。

日本もその流れをくみつつ、日本独自の「嫌悪感」も醸成されていったんだよね。
それが「化学調味料」という名称。
もともとは商品名を言うことができない公共放送が使い始めた言葉。
最初期は小麦粉中のグルテンを加水分解して作られていたグルタミン酸は、やがて石油由来成分から化学合成されるようになったのだ。
こうして、化学的に合成された調味料、ということで「化学調味料」になるんだけど、「天然じゃない」というネガティブなとらえられ方をしてしまった結果、人工的な体に悪いもの、という印象を与えるに至ったのだ。
こうした経緯もあって、現在は「うま味調味料」と呼ぶようにしましょう、と業界が呼びかけているわけ。

ちなみに、現在は化学合成はされてなくて、精糖過程で出てくる廃蜜糖を発酵させて作られているんだ。
サトウキビの搾り汁をそのまま濃縮すると黒砂糖になるわけだけど、その搾り汁の中から白砂糖を結晶化させ、遠心分離して取り出すと、黒っぽい液体成分が残るのだ。
それが廃蜜糖。
かつてはラム酒の原料にされたりしたんだけど、現在は協和発酵の発見した微生物の力でアミノ酸発酵に使われるのだ。
その中にグルタミン酸を作る微生物もいるわけ。
実は、味の素は世界でも有数のアミノ酸製造会社でもあるのだ!
グルタミン酸以外のアミノ酸も様々な微生物を使って作り出しているんだ。

というわけで、現在のうま味調味料は主に発酵により微生物が作り出しているのだ、あまり「化学的」ではないんだよね。
生成過程は化学的だけど、それは精糖や製塩でも同じだよね。
しかも、原料は完全に天然由来。
本来は、口に入るものなのに石油化学関連というネガティブなイメージは払拭されてもいいわけだけど、なかなか一度根ざしたものはぬぐいきれないんだよね・・・。
味の素は広告なんかで「発酵で作っていること」をすっごいアピールしているけど、まだまだ化学合成で作っていると思っている人が多いのだ。
そのためにも、早めに「化学調味料」という名称をなくさないとまずい、と業界は感じていると言うことだよ。

この「うま味」成分は、互いに混ぜ合わせると相乗効果があることが知られているんだ。
コンブと鰹のそれぞれで出汁を取った場合は、合わせ出汁にした場合とでは、味の深みが違うことはむかしから知られていたのだ。
で、その概念はそのまま調味料の世界にも導入されていて、基本中の基本の味の素はほぼほぼグルタミン酸ナトリウムなんだけど、その後に発売されるハイミーはそこにイノシン酸ナトリウムがけっこうな割合で混ぜられているのだ。
現在では、そこに「風味」をつけることで粉末出汁の素(「ほんだし」など)として売られているよ。
味の素は使っていなくても、こういう出汁の素は使う家庭も多いんじゃないかな?
化学調味料ではなく、出汁の素と言われるとネガティブなイメージを持ちにくいからね(笑)

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