2022/03/26

全員野球で停電を防げ

先日の震度6強の地震の影響で東京電力管内の火力発電所の一部が稼働できない状況なのだ。
そんな中、開花宣言とともにやってきた「花冷え」の強力な寒気団により、関東地方は雪も降るような冷え込み・・・。
このために暖房による電力需要が一気に伸び、需給逼迫の危機が訪れたのだ。
このため、経済産業省や東京電力パワーグリッドは国民に節電を要請したんだよね。
このまま需要が供給力をオーバーすると大規模停電になるよ、と。
なんとか大規模停電は回避できたけど、かなりぎりぎりのところでふんばったようなのだ。

もともと電気の安定供給の大原則は「同時同量」。
消費している分だけ発電して供給して、需給のバランスを常時一致させる必要があるのだ。
多少のずれは周波数の乱れ程度で済むんだけど、大きく過不足が生じるとネットワークで障害が起こって大規模停電になるのだ。
電気回路で過電力が生じるとショートするけど、そういうイメージ。
実際、20世紀に米国で生じたカリフォルニア電力危機では、電力需要に対して供給が追いつかず大規模停電になったんだよね。
仮定のブレーカーとは違って、需要を抑えて再起動すればもとにもどるわけではなく、需給バランスが崩れた上でのネットワーク障害は送配電線が切れたり、発電所側にダメージがあったりと、すぐに復旧できないのだ・・・。
なので、実際にそんな事態になるとけっこう長期にわたって不自由することになるのだ。
なんでも電気を使う現代ではかなりきついよね。

この米国の電力危機は電力自由化による影響と言われていて、日本でも電力の自由化を進める上でその分析を行い、同じ過ちを犯さないように慎重に議論されたのだ。
そういうのもあって、一気に全面自由化するのではなく、大規模需要家から徐々に自由化範囲を広げていくという段階的な自由化になったんだよね。
で、現在完全自由化に移行したわけ。
ここで問題になったのは、「電力の安定供給」を担うのは誰なのか、という論点。
公益事業として規制されつつ各電力会社に地域独占が認められていた旧電気事業法の世界では、電力会社=一般電気事業者に対して「供給義務」が課せられていて、電力会社は電力の安定供給に努めなければならず、何か問題があれば経済産業大臣から必要な命令などが出せるようになっていたんだ。
具体的には、供給予備力をきちんと確保することが大原則。
過去の電力需要動向から予測して、それに見合った供給力を確保する、ということ。

この際、十分な「余裕」を持って供給力を確保することになっていて、通常は需要予測の8~10%程度の余力が必要と言われているんだ。
この需要予測を超える分が「予備力」で、需要予測に占める割合が「予備率」だよ。
最近の報道でよく聞く言葉になったよね。
この予備率が3%を切ると非常にまずい状況で、今回のように「需給逼迫警報」が出るということなのだ。
ここで言う「供給力」というのは発電所の発電能力=発電容量とは同じではない点が重要。
常に発電所が100%出力で発電できるわけじゃないし、定期メンテも必要なので、そういうのももろもろ含めて実際に発電できる能力で供給力を確保することが求められるんだ。
需要が甘利にも大きくて発電能力が足りない場合は、やはり今回よく聞くようになった「揚水発電」で、夜中に貯めておいた電気を昼間に回すなどの工夫が必要なのだ。

で、自由化前の世界だと、各電力会社がそれぞれの供給区域において一元的に供給義務を負っていて、社内で発電部門と送配電部門(ネットワーク部門)が協力して調整していたのだ。
で、自分の供給区域内だけでどうにもならなそうな時(真夏のピーク時など)は、隣接する電力会社から融通を受けるため、中央電力協議会で協議していたのだ。
でも、各電力会社の供給区域内のネットワークは基本的には独立していて、かつ、東日本と西日本では電気の周波数が異なるので、周波数が異なる区域間の融通には周波数変換所(全国で2カ所)を通すことが必要なこと、北海道電力と東北電力の間は直流連系しかないなど制限も多いんだよね。
なので、よほどのことがない限りは自分でなんとかする、というのが基本だったのだ。
※とはいえ、北海道電力や東北電力の原子力発電の電気の多くは東京電力に流れていたし、春の雪解けでどうしても放水しないといけない黒部ダムの水力発電の電力は北陸電力から関西電力に流れるのは「いつものこと」だったのだ。

電力全面自由化後は、電力会社に課せられていた供給義務が撤廃されるんだよね。
地域独占を認める代わりに規制を課していたのであって、その前提が崩れるからそこまで求められない、ということなのだ。
そこでどうなったかというと、新電力を含む小売電気事業者全体に「供給力確保義務」を課し、自分が売電契約を結んでいる顧客の需要を十分に満たすだけの供給力を確保することを売電事業者に求めたのだ。
加えて、電力ネットワーク全体の調整を図る機関として電気事業法に基づき設立されている電力広域的運営推進機関に対し、安定供給の確保のために需給状況を監視し、必要に応じて電気供給事業者に指示等を行うことを求めているんだ。
これはかつて中央電力協議会が調整していたようなネットワーク間融通だけでなく、ネットワーク内の需給バランスの調整も含まれるよ。
電力ネットワークの場合、入力と出力で数字が合っていればいいというわけではなく、ネットワークで電気の供給と消費のバランスがとれていないと障害が起こるので、それも見ないといけないのだ。
で、発電する事業者に対しては発電量の増減を指示し、売電する事業者に対しては筆王yに応じて需要抑制をするよう勧告することになるよ。

今回はなんとか乗り越えたとしても、大震災以降原子力発電所がなかなか再稼働しない中では予備力が厳しい状況は続くんだよね・・・。
夏のピーク時にはまた危ないかもしれないのだ。
ウクライナへの侵攻で原油価格や天然ガス価格も上がっていて火力発電もコストが上がっているし、電気の安定供給への課題は増えているね。
でも、こういう具体的な危機意識があると、節電への意識が高まるかも。

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