2022/04/02

もっとも単純なアミノ酸

日本は「不眠大国」と呼ばれるほど、不眠に悩んでいる人が多いそうなのだ。
単に寝付きが悪い、眠りが浅い人から、病気のレベルで不眠症の人まで。
国民皆保険で処方せにゃ管と医療費負担が少ないというのもあるのだと思うけど、睡眠薬(睡眠導入薬を含む)の売り上げも世界トップレベルで高いみたい。
最近は町中の薬局で買える市販薬のドリエルのようなものもあるしね。
そんな中、「医薬品」ではなく「機能性表示食品」としてグリシン(味の素の商品名は「グリナ」)というのもあるのだ。
グリシンはアミノ酸の中でももっとも単純な構造をしたもので、中心の炭素の4つの結合のうち、2つが水素、ひとつがカルボニル基、残りひとつがアミノ基というもので(H2N-CH2-COOH)、20種類の必須アミノ酸の中でもっと分子量が小さく、また、唯一光学異性体を持たないものなのだ。

この商品説明などを見てみると、偶然寝る前にグリシンを服用すると眠りが深くなり、翌朝すっきり起きられることがわかって、睡眠の質の向上に繋がっているのではないか、ということがわかったんだって。
もともとは二重盲検法(ダブルブラインドテスト)で、何か効果がありそうな化合物の対照物、つまり、偽薬効果(プラセボ効果)を評価するための「効果がないはずのもの」として選ばれていたんだって。
ところが、どうもグリシンの方が効果がありそう、ということでいろいろと調べてみたんだって。
これまでにわかっているので、グリシンを服用して寝ると、睡眠の導入が速やかになり、かつ、深くて質の高い睡眠が得られやすい、ということ。
これをどう評価しているかというと、ひとつは体温、もう一つはレム睡眠とノンレム睡眠のバランスなのだ。

一般にヒトというか恒温動物は、睡眠時に体温が下がるのだ。
これは代謝が落ちて発熱量が下がる(インプット減少)のと、体表などからの放熱が盛んになる(王とプット増加)ことによるんだ。
寝汗をかくのは放熱が盛んになっているからで、一般には毛細血管が広がっているので、寝付いたヒトの手などを触るとあたたかいと感じるのだ。
体がほてって眠れない、手足が冷たくて眠れない、というのはこの裏返しで、睡眠時の体温調節がうまくいっていないからだとか。
ここで言う体温というのは、体の中の温度である深部体温のことで、通常は外的要因に左右されずに一定に保たれているもの。
体表面温度だと、風が吹けば下がるし、日が当たれば上がるけど、そういうのには左右されず、あくまでも体の中の調節機構のみによって上下するのが深部体温だよ。
でもでも、深部体温の調節がうまくいかないから眠れないのか、うまく眠れているから深部体温が下がっていくのかは本当はわからないと思うけどね。
深部体温は外から冷やしたり暖めたりしてもほとんど影響がないので、なかなか確かめようがないからわからないのだ。
現象として、睡眠と深部体温の調節は関係があることだけは確かなんだけど。

で、グリシンを服用すると、深部体温の調節がずれが是正されるようなのだ。
味の素の研究によれば、実際にグリシンを服用した場合と層でない場合で深部体温の変化を調べると、グリシンを服用した場合は、いわゆる「睡眠の質が高い」パターンの深部体温の変化になるみたい。
この研究はあくまで現象を追っているだけで作用メカニズムの解明にはつながらないのだけど、グリシンの服用が睡眠時の深部体温の変化に影響を及ぼしていて、かつ、その影響は質の高い睡眠をしているときの変化に近づけるような方向であるらしい、ということはわかるのだ。
睡眠薬ってちょっとこわいけど、ただのアミノ酸であるグリシンで本当にこういうよい効果が得られるのであれば、それはうれしいよね。

でも、どうもこれ以上はわからないようで、だからこそ、「機能性表示食品」にとどまっていて、医薬品には至っていないのだ。
作用メカニズムが不明だと何か副作用が出た場合も対処できないし、よい効果といっても、さっき見たように因果関係が本当にそうなのかがわからないので、薬事承認は通せないんだよね。
睡眠薬だと、睡眠の質はどう荒れ、眠れなかった人が眠れるようになる(副作用で悪夢を見る、うなされる、寝てもすっきりしないなんてのもあるけど・・・・)ので、わりとクリアカットに効果が評価できるんだよね。
でも、睡眠の質については、、深部体温変化やレム睡眠・ノンレム睡眠のバランスなどで状況証拠は集められるけど、質が上がったかどうかと言うこと自体は評価しづらいんだよね。
まさに、信じるものは救われる、の世界なのかもしれないけど。

ちなみに、グリシン自体は中枢神経でよく整形の神経伝達物質になっていることは知られていて、仮に脳内に直接投与すれば、鎮静作用があるはずなのだ。
多くの睡眠薬も神経の興奮を抑える薬なのだ。
そこからすると、似たような効果があってもよいとは思うけど、どうも効果は違うんだよね。
睡眠薬は文字どおり、飲むと眠くなる薬なのだ。
一方で、グリシンは飲んだら眠くなるんじゃなくて、寝付きがよくなる、睡眠の質がよくなるものなんだよね。
なので、神経の過剰興奮を抑制するから効く、というよりも、体内時計の狂いの是正とかそっち方面に影響してそうな気はするんだよなぁ。
これはそのうち解明されるのだろうか?

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