2022/04/09

熱くない火

江戸時代くらいまでの日本では、火には2種類あって、いわゆる普通の火である陽火と、触っても熱くなく青白く光る陰火があると言われていたのだ。
陰火は墓場などに出る鬼火などのこと。
陰陽五行説もまじって、陽火は陰気を持つ水で消せるけど、陰火は陽気を持つものでないと消せないから,水をかけても消せない、とか言われていたよ。
これは、鬼火が雨の日によく見られるということも関係していると思うのだ。

今の視点で見ると、そんな馬鹿な、と一笑に付されそうだけど、墓場などで雨が降っている,或いは、降りそうなどんよりした天気の時に青白い発光体が見られるという現象は洋の東西を問わずに存在しているんだ。
中国はもちろん日本と同じような鬼火があるしこれが欧州に行くと、ウィルオウィスプやセントエルモの火なんかが有名なのだ。
日本だと、有明海の不知火や狐火なんかもあるよね。
ゲゲゲの鬼太郎を見ているだけでも、天火、釣瓶火、姥が火などなど火の妖怪がけっこう出てくるよ。
で、そこまで普遍的なので、そらくこれは実際の自然現象と結びついたもので、よくわからないけどなんか発光体を目撃することがあって、その正体がわからないので、そういう妖怪のようなものとして説明している、ということなのだ。
では、それはいったい何なのか?

端的に言えば、よくわからない(笑)
っていうか、おそらくいろんな現象が発光という形で目撃されているだけなので、これが正体、というものがあるわけじゃないんだよね。
不明の発光をそうなづけているだけで、蛍を知らない人が夜に蛍が光りながら飛んでいるのを見れば、「すわ、何か光るものが空中を漂っている!」とか思うはずだよね。
一時期早稲田大学の大槻教授は何でもかんでもプラズマのせいにしていたけど、プラズマが正体であることもあるし、そうでないこともあるはずなのだ。
なので、それぞれの目撃談や現象を個別に見ていく必要があるんだよね。

例えば、セントエルモの火なんかはもう科学的に解明されていて、これは「プラズマ放電」というものなのだ。
雷が鳴っているような大気が不安定なとき、とがったものの先端で静電放電が発生し、その際ほのかに青く光るのだ。
このときに流れている電流はごく微量なのでほぼほぼ熱は発生しないから、帆柱のてっぺんでセントエルモの火が光ったとしても船が燃えるようなことはないんだよね。
でも、火が見えているのに燃えないのはおかしい、と認識するわけで、昔の人からすれば不可思議な現象だったのだ。

湖沼や墓場などで天気の悪い日に丸く光るものがふらふらと漂っている場合、多くは球電というものと考えられているのだ。
これは名前のとおり、雷が丸くなったようなもので、多くの場合は暖色系の色なんだって。
なので、人魂とかの正体とされているのだ。
この球電は熱を持っているので、触れると熱いし、火がつくよ。
同じような場所で青白い発光が見られる場合は、地中から吹き出すリン化合物やメタンが陰火したものとも言われるよ。
墓場で見られるのは、土葬した死体が腐敗していく中で発生するメタンだったり、骨だけ埋めた場合も骨髄からしみ出てきたリン化合物だったりと言われるよ。
これらは確かに火をつけると高温で燃えて青白い光にはなって、しみ出てくるのは微量なのでそれがちろちろとぼんやりと見える、というわけ。
これも燃えているので熱い火だよ。
ただし、これらはそういうのではないか、と言われているだけで、確かめられているわけじゃないよ。

不知火は夜に漁をしている漁船の漁り火が蜃気楼現象で全く別の場所で見えている、らしいのだ。
こんなところで夜漁は行われていないはず、なんだあの火は、ということなんだけど、別の場所で漁をしている火が大気の屈折で本来見えないはずの場所で見えるようになっているんだよね。
なので、不知火の場合は出る時期と場所がしっかり決まっているのだ。
複雑な条件がすべてうまく整わないと見えないから。
ちなみに、最近は夜にも電灯の灯りがあったり、海水が汚染されありであんまり見られなくなっているそうだよ。

日本には青鷺火とか五位の光といって、夜に鳥が光る現象も知られているのだ。
これは夜行性のゴイサギのことなんだけど、ぬれた白い羽毛が月明かりを反射してきらきら見えた、とか、水中にいる発光するプランクトンが体表面についていた、とかいろいろ説はあるんだけど、いずれにせよ、夜に鳴き声や音がしてそっちの方を見やると鳥がいて青白く光っている、ということのよう。
セントエルモの火と同様のコロナ放電は飛行機でも起こるそうなので、ひょっとしたらゴイサギがコロナ放電で光っていることもアルかもしれないよね。
光るという話だけが誇張されて、夜に飛んでいる火球を弓で射てみたら果たしてその正体はサギだった、みたいな伝説もあるんだけど、さすがにそこまでは光らないよね(笑)

こういう不可思議な発光現象で非常に重要な点は、多くのものはほのかにちらちらと光っているということ。
つまり、まわりに月明かり、星明かりくらいしかない真っ暗な夜だからこそ観測できるくらいの光ということなのだ。
最近は町中だと夜でも明るくて、普通にカラスが行動していたりするけど、そういう世の中ではもうこういう現象は観測できないんだよね・・・。
不知火とか青鷺の火みたいな派見てみたい気もするんだけどなぁ。

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