2022/05/07

日本のエバーグリーン

大型連休突入!
そして、5月のこの連休と言えば、こどもの日の柏餅。
けっきょくはただのあん入りの餅なんだけど、なんとなく季節ものとして食べたくなるよね。
これも柏の葉の存在が大きいかな?
香りは移っていてさわやかだけどね。

「カシワ」は、ブナ科の植物で落葉広葉樹でありながら冬になっても葉が落ちないので古代日本では申請なきとされてきたんだ。
神が宿る木とも。
そして、葉にはよい香りがあって、厚手で丈夫。
その特徴から、お皿の代わりに食べ物を載せたり、ものを包んで蒸したりするのに使われたんだ。
ここから「カシキハ(炊葉)」と呼ばれるようになり、それがいつしか言いやすい「カシワ」になった、と言われているよ。
なので、餅のようなものを包むのもむかしから行われてはいたんだけど、皐月の「端午の節句(菖蒲の節句)」に縁起物として柏餅が食べられるようになるのは、江戸時代の武家文化。

カシワはブナ科なので、秋に葉が枯れ、落ちるには落ちるんだけど、それは翌年新芽が出てから。
つまり、次の葉が出てくると、前の葉があとを譲って落ちるというわけ。
これが子々孫々代を重ねていくように見えて、武家社会では尊ばれたのだ。
もともと「菖蒲(しょうぶ)」は「尚武」につながるなんてありがたがっているくらいだから、こういう連想は重要なんだよね。
もとは18世紀後半くらいに江戸で始まった文化のようだけど、当時は参勤交代で各地の大名が江戸と地元を行ったり来たりしたので、全国区に広がっていったみたいだよ。
ちなみに、柏の葉は香りはつけてくれるけど、それ自体は硬くて食べられないのではずすのが正解。
桜餅のように葉っぱも一緒に食べるものではないのだ(笑)

ところが、問題はこの「柏」という字なんだよね。
カシワ自体は中国にもある木なんだけど、中国で「柏(はく)」というと、ヒノキ科の常緑針葉樹を指すのだ。
つまり、落葉広葉樹のカシワとは正反対!
日本で言うと、コノテガシワ、シダレイトスギ、イブキ、アスナロなんかがこれにあたるんだって。
中でも、柏槙(びゃくしん)と言われるイブキは、「松」と並んで「松柏」と称され、常緑樹の代表選手なのだ。
そう、この「松柏」のときの「柏」も「カシワ」ではなくて、中国の方の「柏(はく)」なのだ。
そして、日本のカシワを表す場合は、正式(?)には「槲」というむずかしい字を使うようだよ。
この字の場合は中国でも「カシワ」を指すのだ。

では、なぜこうした誤認が生まれたのか。
それこそ想像の域を出ないんだけど、調べた限りでは、樹木としての携帯は全く違うのだけど、その樹木の持つイメージが似通っているので、書物のテキスト情報でしか海外の情報を知り得ない古代においては混同されてもおかしくなかったのではないか、ということ。
中国の「柏(はく)」は、
①常緑樹であって、縁起物として門前などに植えられる神聖なきとして扱われた。
②葉や木材によい香りがして、木の葉を酒につけて香り付けをすることもあった。
という特徴があって、日本の「柏(かしわ)」は、
③冬になっても葉が落ちないことから神聖視され、大きな邸宅や字者などに植えられた。
④葉が大きくよい香りがし、酒食の際に打つわとして用いられた。
という特徴があるんだよね。
で、よくよく見てみると、①と③、②と④はちょっとずつイメージがかぶっていることがわかるのだ。
①と③は冬でも葉が落ちない神聖な木というイメージ、②と④はよい香りがして酒食の際に供されるというイメージ。
それこそ命がけで遣唐使を送っていたわけで、知識人といえども中国本土で「柏(はく)」という樹木の実物を見たことがあるわけではなく、知識としてこういうものというイメージを知っているだけなんだよね。
そんなときに、似たようなイメージを持つ日本の別種の樹木があった場合、混同してもおかしくないのだ。

ちなみに、この「柏」の日中問題はけっこう古くからどうも違う木を指しているようだとはわかっていたようだけど、「槲」という字は難しいし、熟語として出てくる「松柏」なんかの場合の「柏(はく)」は正しい方の植物で認識されていたので、日本人間だけでコミュニケーションしている分には全く困らず、直されなかったようなのだ・・・。
知る人ぞ知るで、漢籍を学ぶ人たちが、漢文に出てくる「柏(はく)」は日本で言う「柏(かしわ)」ではないよ、ということを語り継げばよかったのだ。
そんないい加減な、と思うけど、日本ではいまだにゲームに使うカードのこと「トランプ」と呼ぶけど、英語でのトランプの原義は「切り札」というものでは、カードそのものはカードと呼ぶんだよね(笑)
同じようなことは現代でも普通にあるというわけなのだ。

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