2023/11/04

100時間後に食べるワニ

 広島県の山間部には「ワニ料理」というのがあるのだ。
かつてヤクルト・スワローズにいたパリッシュは本物のワニの肉を食べていたけど、こっちはサメの肉。
サメは古語で「ワニ」と言うんだよね。
記紀神話の「因幡の白兎」に出てくるやつ。
これももともとは出雲の話だけど、山陰地方ではワニを食材として獲っていたみたい。
ただ、なぜ山間部?

答えは単純で、サメやエイなどの軟骨魚類は体内の浸透圧調整のために尿素を用いているんだけど、これが死後に分解されて出てくるアンモニアが身を腐りにくくしているのだ。
アンモニアが発生すると臭くはなるけど(世界で最も臭い料理のひとつであるホンオフェはエイの肉をツボの中で発酵させたものだよね。)、これにより身がアルカリ性になるので、腐敗菌の繁殖を妨げるのだ。
なので、可能などせず、生の肉のまま比較的長距離運べるのだ。
若狭湾でとれたサバを京都に届ける鯖街道というのが有名だけど、輸送に丸一日かかるので、塩をしてから運んだんだよね。
そうすると京都につく頃ちょうどよいつかり具合で、それを使って京料理の代表でもある鯖寿司が作られたりしたのだ。
京の都は海に面していない内陸なので、川魚以外の魚介類は基調で、非常に丈夫で生きたまま運べるハモが珍重され、塩サバや身欠きニシンのような加工食材が京料理によく使われていたんだよね。

サメを食べる習慣は実は栃木にもあって、こっちでは「モロ」とか「サガンボ」と呼ばれるんだよね。
普通にスーパーでサメ肉が生で売っているほど。
ちなみに、栃木で売られているサメ肉の「モロ」は、気仙沼で水揚げされたサメのフカヒレをとった後のものが流通しているみたい。
無駄がないけど、宮城はほかに雄々しい魚介がたくさんあるから自分たちは別のものを食べるのだ(笑)
今は冷蔵輸送ができるので臭くないけど、当時はちょっとアンモニア臭がするけど生で食べられるサメ肉は貴重な食材で、臭みけしにショウガを薬味に使ったりしたみたいだよ。
川魚はサケ・マス類を代表に寄生虫がいて生食がきついから、どうしても刺身を食べたい場合はサメになるんだよね。
北海道まで行けば半分凍らせて「ルイベ」のような形で食べることはできるのだけど。

で、その頃の食習慣が現在も残っている地方が山間部に残っている、というわけなのだ。
サメ肉は低脂質・高たんぱくでヘルシーなんだけど、火を通すとパサつきがちなので、伝統的な食べ方は刺身か湯引き(ちょっと臭みが抑えられる)にするか、いっそよく煮込んで煮凝りにしたんだよね。
現在ではフライなんかの揚げ物にもするみたいで、あまり火を落としすぎないとプリッとした良い歯ごたえの白身フライになるそうなのだ。
工業的には練り物の材料に使われているくらいで、臭みがなければ白身魚としては優秀な食材なのだ。

実は、サメはわりと簡単に獲れるものなので、むかしから食べられてはいるみたい。
三内丸山遺跡からもアブラツノザメを食べていた痕跡が見つかっているくらい。
他の魚を取る場合も「外道」として一緒に取れてくるので、干物にしたり、山間部に流通させたりと無駄なく食べていたようなのだ。
特に食味が良いのは、「サガンボ」と呼ばれるアブラツノザメと、「モロ」と呼ばれるネズミザメで、臭みが少なく身がおいしいとされているよ。
こういうのを聞くと、見かけたら食べてみたくなるよね。

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