2012/10/13

アップルがプレイステーションを買収したわけじゃない

めでたいことに、今年は日本人のノーベル医学・生理学賞が出たのだ!
1987年の利根川進博士以来の快挙♪
もちろん、京都大学の山中伸弥教授だよ。
受賞理由は言わずとしれた「iPS細胞」。
最初の研究発表から6年という短期間で、50歳という若さでの受賞はその成果がすばらしさを物語っているのだ。

このiPS細胞というのは、成体の体の細胞に細工をしてあげると、体中の様々な種類のどの細胞にも分化できる能力を持つ細胞になるというもの。
induced Pluripotent Stem cellsの略で、日本語では「人工多能性細胞」とも呼ばれるのだ。
これまで再生医療の研究に使われていたのは受精卵由来のES細胞(Emryonic Stem cells)。
受精卵が細胞分裂を始めてから16細胞~32細胞くらいになったとき、単に細胞がくっついている桑実胚から中空の胚盤胞呼ばれる形状になるんだけど、球状の細胞の層の中にぽつぽつと細胞が転がっているイメージなんだよね。
その中の細胞を取り出して培養してできるのがES細胞で、受精卵を使わないと作ることができないのが難点だったのだ(実際的にも、倫理的にも)。
一方、iPS細胞は体の細胞を使って作れるので、その点はクリアできるし、何より、自分と遺伝情報が全く同じクローンの細胞が作れるのが魅力なんだよね。
ES細胞の場合は、どうしても核移植などをしないとクローンにできないのだ・・・。

ES細胞は受精卵から取り出して培養するだけなんだけど、iPS細胞の場合は細胞に処理をしないといけなくて、それが「induced」と呼ばれる所以。
2006年に山中教授がマウスでiPS細胞を樹立したときは、4つの遺伝子を導入することで実現しているのだ。
ES細胞に特異的に発言している遺伝子を導入すれば、幹細胞になるんじゃない?、という発想の下、そういう遺伝子を洗い出し、さらに組み合わせ実験で絞り込みをして、これだ!、という4つの遺伝子を突き止めたのだ。
その後、これは薬剤をうまく使えば3つの遺伝子でできることもわかったんだけどね。
この成果の後、世界で大競争が起こってヒトのiPS細胞の樹立が行われることになるんだけど、ここでも山中教授は実際に患者さんの細胞を使って樹立するという偉業を成し遂げるのだ。
今のところ、本当の意味で世界No.1の実力なんだよ。

iPS細胞やES細胞の「万能性」というのは、体に存在するどんな種類の細胞にも分化できる可能性を秘めている、という意味。
この先駆的な実験を行ったのが、今回の共同受賞者のジョン・ガードン博士なんだ。
ジョン・ガードン卿は、腸の細胞の細胞核を卵細胞の細胞核と交換する、という実験を行ったところ、腸細胞の細胞核を入れた卵細胞は普通の卵細胞同様に発生の過程を経てオタマジャクシになった、という発見をしたんだ。
これは、成体の体細胞であっても、発生の過程に必要な遺伝情報のすべてを持っていて、うまく発生という場に送り込めればひとつの個体を形作る「全能性」を獲得できる、ということを意味しているんだ(「全能性」という場合には個体まで発生できるポテンシャルを指し、すべての細胞に分化できるポテンシャルは「万能性」と呼ばれるのだ。)。
すなわち、どの細胞も基本的には遺伝情報は同じで、遺伝子の発現制御などの遺伝情報の使い方(こういうのを「エピジェネティック」というのだ。)で発生というプロセスがコントロールされていることを示したわけ。
(後に利根川博士は免疫細胞ではDNAの組替えをすることで多様性を確保している、という発見をし、すべての細胞が同一の遺伝情報を持っているわけではない、ということが証明されるのだ。)
ちなみに、ガードン卿のこの発見が論文になったのは1962年で、なんと山中教授が生まれた年の成果だよ!

で、このガードン卿の発見から、どうやったら成熟した細胞がいろんな細胞に分化する能力を取りもどせるか、という研究が始まるのだ。
イモリなんかは手がちぎれても再生するけど、ヒトではそうもいかないからね。
しかも、がんという病気は、もともと分化して成熟していた細胞が未分化な状態になり、制御不能な状態で勝手に増殖して起こるものなんだよね。
すると、逆に身勝手に増えるこの未分化の細胞を、うまく分化させ、成熟した細胞にもどしてあげれば治すことも可能なのだ。
その意味でも、ES細胞やiPS細胞の研究は重要なんだよ。
現在は、いろんな種類の細胞に分化させることには成功し始めているけど、一方で、中途半端な状態で人体に移植してしまうと、けっきょくそれががん細胞のようにアンコントローラブルに増殖してしまうおそれもあるので、その安全性の確保も急がれているんだ。
特に、iPS細胞は遺伝子導入をしているので、注意が必要だと言われているよ。

とにかく、また日本からノーベル賞が出たのは喜ばしいことなのだ。
これで19人目。
臨床応用まではもう少し時間がかかると思われるので、タイミング的には少し早いような気もするけど、この世界は日進月歩であっという間に進捗があるのもまた事実だから、これを機にまた一気に実用化に近づくかも。
まだ50歳だし、まだまだ最前線で活躍してもらいたいね

2012/10/06

揚げたら別物

ボクはもともと豆腐が好きなんだけど、その加工品も好きなのだ。
そう、厚揚げとか、油揚げだよ。
夏の暑い間は冷や奴がいいし、冬の寒い時期は湯豆腐がうれしいけど、春や秋なら少し焼いて温めた厚揚げなんかは最高なのだ。
生姜醤油で食べるとおいしいよね。

厚揚げと油揚げって、単に揚げる前の厚さの違いだけと思っていたらさにあらず!
厚揚げは水切りをした豆腐を一丁そのまま、又は半丁に切ってから、表面がきつね色になるまで揚げたもの。
仲間で火を通すことはせず、外はかりかり、中はなめらかな豆腐のまま、というものなのだ。
豆腐の食感が残ったまま香ばしくなっているのがポイントで、だからそのまま食べてもおいしいんだよね。
江戸時代には、厚揚げを網で焼いて縞状に焼き色を付けたものが酒の肴の定番で、青ネギをちらした「竹虎」、大根おろしをそえた「雪虎」として親しまれていたそうだよ。
表面を揚げてあることで煮くずれしづらく、味もしみやすいので、煮物にも使われるんだ。
しっかりと煮込まなくても表面に味が染みこむので、小松菜と炒め煮にしたりしてもおいしいよね。

一方、油揚げは専用の豆腐を作ってから、それを薄く切って揚げたもの。
仲間でしっかり火が通っていることがポイントで、独特の食感が出るのだ。
豆腐とはまったく違うよね。
厚揚げが高温の油でさっと揚げるのに対し、油揚げは低温で揚げて膨脹させてから、高温の油でもう一度揚げてかりっとさせるんだって。
よく膨脹するように、揚げる前の豆腐はもともと薄めの豆乳でしっかり堅めに作るようなのだ。
よく揚げることで中までスポンジ状になって、味がしっかりと染みこむわけ。
いなり寿司やきつねうどんの揚げなんかはおいしい汁を吸ってなんぼだからね(笑)
袋状に開くことができるのもミソで、それでいなり寿司や巾着などが作れるのだ。
でも、厚揚げに比べると油がよく染みこんでいるので、しっかりと油抜きをしないとしつこいよ。
ここで手を抜くとおいしくないのだ(>o<)
ちなみに、新潟名物の栃尾揚げは油揚げと厚揚げの中間のように感じるけど、中までしっかり火が通っているので、分厚い油揚げという位置づけなのだ。

豆腐の伝来自体は奈良時代と古いけど、食材として広く使われ始めるのは室町時代の終わりから。
実際に庶民の食卓に並ぶようになるのは江戸時代からで、そこから全国的に普及したみたい。
肉食をあまりしなかった江戸時代の人にとっては重要なタンパク源で、納豆や豆腐といった大豆加工品は重要な食材だったのだ。
油揚げはすでに江戸時代初期の文献にも登場しているそうで、同時期に料理として発達した天ぷらからの着想ではないか、という説も。
おそらく、もともとは豆腐をそのまま揚げてみて厚揚げが生まれて、その後、薄切りの豆腐をしっかり揚げて油揚げができたんじゃないかと思うのだ。

油揚げと言えばおいなりさんの好物だけど、もともとキツネが好きだったのはネズミを油で揚げたもの。
でも、そんなものはお供えしづらいので、精進ものの豆腐を揚げた油揚げが供えられるようになったんじゃないかと考えられているのだ。
さらに、そこから油揚げがキツネの好物に変わり、それで市にメタ油揚げが入ったうどんはきつねうどんとなっていくのだ。
でも、本当は稲荷神はインドの荼枳尼天(だきに)天なので、乗っているのは野干(やかん)。
野干は野狐などとも言われるけど、本来はジャッカルのことなのだ。
日本にはジャッカルが生息していないので似ているキツネが当てられただけ。
そういう意味では、稲荷と油揚げは実はそんなに関係していないのだ。

また、油揚げで巻いたものを信田(しのだ)巻き、きつねうどんの別名をしのだうどんなどと呼ぶことがあるけど、この信田というのは「葛の葉」伝説から来ているのだ。
平安時代に安倍保名(やすな)が信田の森を訪れた際、猟師に追われていた白狐を助けるのだ。
実はこのキツネを年を経て妖力を持つに至ったキツネで、「葛の葉」という女性に変じて、その際にけがをした保名の見舞いにやってくるのだ。
やがて二人は結ばれ、生まれた子どもが後の安倍晴明。
安倍晴明が5歳になる年に保名に正体を気づかれ、葛の葉は森へと帰っていった、という話だよ。
天下に名だたる陰陽師の安倍晴明の力の源を空かすエピソードとして有名なのだ(けっきょく人外の力、という整理なんだけど。)。
で、その連想で、キツネ=>信田、となるわけなのだ。

こういった言葉遊び的な名前が付けられるのも、それだけポピュラーな食材だったという証拠なんだろうね。
肉を食べるのもよいけど、たまには揚げでヘルシーにすますのもよいことなのだ♪
ただし、豆腐って意外とカロリーが高いし、油揚げや厚揚げは油で揚げた分さらに高いので、そんなにダイエット効果は期待できないよ(笑)
コレステロールなんかはだいぶ抑えられるけどね。

2012/09/29

しとしとぴっちゃん、ときにざあざあ

秋分が過ぎて涼しくなってきたねぇ。
で、天候も不安定になってきているのだ。
まさに「秋雨模様」だね。
この雨のおかげで北関東の利根川水系ダムの貯水率が上がっているようだからよいことなんだけど。

この秋雨、むかしは「秋霖(しゅうりん)」と呼ばれていたのだ。
「霖」はしとしと降る雨のことで、曇りが続いて降ったりやんだり、しとしとと降るから。
梅雨と違って始期も終期も明確でなく、なんとなく雨模様が続いて、いつの間にか秋晴れの天候になっていくんだよね。
なので、気象庁でも秋雨については、予報では「雨が続く」なんていう言い方で、天気の解説にしか用いないんだって。
季語にはなっているし、日本ではむかしからおなじみの現象なんだけど、なんか変だね。

この秋雨、実は梅雨と同じように、二つの高気圧のせめぎ合いの結果として発生するのだ。
梅雨の場合は北の湿ったオホーツク海気団と南の湿った小笠原気団(太平洋気団)がぶつかるところに梅雨前線が生まれ、この2つの高気圧の力が拮抗している間に日本に停滞するんだ。
でも、実際には、中国内陸から来る移動性の揚子江気団や、フィリピンあたりにある熱帯モンスーン性気団なんかもからんでいて、東南アジアから東アジアまで広域に発生するものなんだけど、秋雨は日本周辺のみで見られるものなんだ。

秋雨の場合、夏の間勢力が強く、日本に高温多湿な気候をもたらしていた小笠原気団がなんかすることから始まるのだ。
すると、そこに移動性の揚子江気団が通り過ぎるんだけど、移動性高気圧の間には気圧の谷というか、低気圧ができてしまうのだ。
それで天候が不安定になって、雨が降りやすくなるわけ。
これが8月の後半くらいで、秋雨のはじまり。

続いて、北半球で日照時間が短くなっていくと、乾燥したシベリア気団が強く張り出すようになるのだ。
すると、偏西風もなんかしてきて、オホーツク海気団も南下してくるのだ。
 これで停滞型の秋雨前線ができてくるんだけど、実際には停滞前線ができない場合もあって、ただ単に寒冷前線があるだけの場合もあるとか。
梅雨と違ってまとまった雨が降り続く、というよりは、弱い雨がしとしと降ったりやんだりで続く、と言うのが近いみたい。
むしろ、季節の移行に伴って天候が不安定になる時期ができる、とイメージした方がよいみたい。

10月に入ると、小笠原気団は完全に南太平洋に引っ込み、シベリア気団が強く張り出してくるのだ。
すると、いわゆる冬型の気圧配置である「西高東低」の状態になって、日本海側では天候が崩れやすく、太平洋側では晴天が続く冬の天気になるんだ。
春が近づいてシベリア気団が後退すると、また大陸から移動性高気圧が通過するようになるので、やっぱり天候が不安定になって雨が降ったりやんだりするのだ。
これが春の雨、菜種梅雨と呼ばれるものだよ(二十四節気では「穀雨」だよ。)。
春と秋には高気圧の勢力が逆転するので、それに伴って天候が不安定になるのだ。
なので、夏の始まりと終わりで梅雨と秋雨を対比させるんじゃなくて、春の雨と秋雨を対比させるのが正解?

 秋雨の特徴はなんと言っても降った後に気温が下がること。
北の高気圧が下がってきているから、当たり前と言えば当たり前なんだけど、
梅雨の場合は明けると一気に暑くなるから、ここは対照的なのだ。
ここのところも雨が降ると一気に気温が下がって秋っぽくなっているよね。
 それと、台風の時期と重なるので、秋雨が降っている中で台風が来ると大雨になるおそれがあるのだ。
この時期は水害が発生しやすくもあるんだ。
でもでも、実は秋の収穫を目前としたこの時期にまとまった雨が降ることが稲作には重要だったりもするんだよね。
 夏から秋になっていきなり乾燥した冷たい気候になられても困るというわけなのだ。


女心と秋の空とは言うけど、この時期は突然雨が降りやすいのも事実。
晴れていてもいきなり雨が降ることもあるのだ。
しかも、雨が降ると気温が下がるから、カゼをひきやすくもあるんだよね。
備えあれば憂いなし、で常にカサを持ち歩くのがよいのかも。
秋雨はぬれてまいろう、というわけにはいかないのだ(笑)

2012/09/22

お見舞い申し上げます。

まだまだ暑い日が続くねぇ・・・(ToT;)
スコールみたいな強烈なにわか雨も降るし。
なんだか東京は熱帯気候になったみたい。
今年は異常気象なのかなぁ?
いつもこんな暑かったっけ?

ちょうどこの9月の暑さが「残暑」。
1年のうちでもっとも暑いとされるのが「暑中」で、一般には夏の土用の18日間を指すんだよね。
立秋前の18日間がこれにあたるのだ。
今年で言うと7月19日~8月6日だったんだって。
夏バテしやすいこともあって、「土用の丑の日にうなぎを食べて元気を出そう♪」ということになるのだ。
暑中見舞いはこの期間に出すんだけど、通常は梅雨が明けてからなので、もう少し期間が短いのだ。

で、立秋を迎え、徐々に暑さのピークを過ぎて徐々に涼しくなっていくはず・・・、なんだけど、暑さのピークを過ぎただけなのでまだまだ暑いんだよね(笑)
それが残暑。
通常は秋分までを言うので、1ヶ月以上あるのだ。
実は暑中より長いんだよね。
確かに朝夕は少し気温が下がるけど、湿度も気温も高くて蒸し暑い日が続くんだよね。
なので、残暑見舞い、というのがあるのだ。

 立秋、処暑、白露と来ると次がやっと秋分。
さすがに秋分まで来ると秋っぽくなるよね。
白露は朝晩が冷え込んで草に露がつく、ということなので、夏と秋の境界。
今はちょうどその頃に当たるはずなんだけど、普通に入道雲とかも見えるし、夏真っ盛りという印象だよね。
どうなっているんだろう?

 年賀状は年始のあいさつで、むかしの数え年では元日に歳をとるので、おめでたいことだったのだ。
それで簡易にはがきで賀詞を交換する習慣が年賀状だよ。
一方、暑中見舞いは暑さの中で相手の健康を気遣う、という趣旨のものなのだ。
日本人の季節感と心配りが現れている習慣なのだ。
今ではだいぶ儀礼的になってしまっているけどね。
寒中見舞いというのもあるけど、これは相手が喪中で年賀状が出せなかったりするときに出すイメージが強いよね。
寒さの中で相手の健康を気遣う意味合いもあるんだろうけど、年賀状のすぐ後だからね。

残暑の間は早く涼しくならないかなぁ、と思うけど、実りの秋が始まるのはこの時期なのだ!
早いところではお米の収穫も 始まるし、ブドウ、桃、梨、イチジクなどの果物も出始めるよね。
残暑の季節にみずみずしい梨なんかは最高においしいのだ!
スイカが消えていくのが残念だけどorz
そういう意味では、相手が暑さで体調をくずしていないか気にしつつ、自分は出始めの秋の味覚で元気を出す時期だね!
とりあえず、おいしいものをたくさん食べよう♪

2012/09/15

世界のスパイス王

インドカレー屋さんの中には、レジのところにクミンシードが置いてあるところがあるよね。
糖衣になっているやつ。
食後に食べると口の中がさっぱりするのだ。
口の中につぶつぶが残るけどね。
そんなクミン、実は世界中で使われているスパイスなんだって。

クミンはもともとナイル川の渓谷に生育していた、エジプト原産のセリ科の1年草。
和名は馬芹、インドではジーラと呼ばれるようなのだ。
古代エジプトではミイラの防腐剤としても使われていたそうだよ。
そのむかし、エジプトのミイラは粉にして薬として使われていたこともあったんだけど、これはミイラを製造する際に使われているクミン、没薬(もつやく、ミルラ)、歴世(天然アスファルト)などが多少なりとも効果をもたらした可能性があるんだよね。
それぞれ民間療法で薬として使われるものだし。

エジプト原産のクミンは古くからエジプトや西アジアで栽培され、様々な料理に使われていたらしいのだ。
今でもそうだけど、油で熱すると独特のすがすがしい香りが出るんだよね。
この香り成分はクミンアルデヒドというものだって。
それと、少しだけ辛みを与えるので、スパイスとしてちょうどよいのだ。
アラビア料理やトルコ料理でのクミンの使用はここから端を発するんだよ。

このクミンがメソポタミア地方に伝わり、さらにカルタゴ経由でアルプスを越えることとなるのだ。
まずはイベリア半島南部に建国された新カルタゴ王国(今のスペインのあたり)に広まり、そこから欧州全体に広がったんだって。
こうして、古代ローマの時代にほかのスパイスと同様に欧州世界にも伝わり、珍重されることになるのだ。
一方で、アラビア世界からインドにも伝わり、インドではほぼ必須と言ってもよいくらいのスパイスになるんだよ。
ガラムマサラやチャツネには欠かせないのだ。
このせいで、いわゆるカレーの香りはクミンの香りなんだよね(ちなみに、カレーの色はターメリックの黄色。)。
アラビア料理やトルコ料理などのオリエント料理がカレーのようなにおいと感じるのはこのため。
ソーセージなんかでもクミンを使うとちょっとカレーっぽいにおいになるんだよね。
むかしの魚肉入り皮なしウインナーなんかがそうだったのだ。

スペインでは、他の欧州諸国と違って、一時期イスラム勢力に占領されていたこともあり、より根強く料理に取り入れられているとか。
でも、スペインはやがて強国となり、大航海時代に世界帝国になるので、スペインから新世界へも広がっていくのだ。
まずはメキシコに伝わり、そこから南北へ広がっていくんだ。
南米のテクス・メクス料理に欠かせないチリパウダーもクミンが入っていて、これがチリコンカーンの香りになっているのだ。
メキシコ料理もちょっとカレーのにおいがするときあるよね(笑)

もちろん、インドに伝われば中国にも伝わるもの。
中国では中医薬(いわゆる漢方)取り入れられ、健胃・消化促進などの効果が期待されたのだ。
特有の香りで食欲が増進されるのもあるけどね。
中国の中でも、ヒツジ肉などちょっと臭みのある肉をよく食べる満州料理でよくつかわれるみたい。
もともと騎馬民族で中央アジア一帯を支配していたというのもあるんだろうね。
というわけで、世界中に広まっていったのだ。
和食にはそんなに取り入れられていないけどね(>o<)

古代ギリシアではそのまんま食欲をそそるので食欲のシンボルだったらしいんだけど、中世欧州ではなぜか「貞節」を象徴するようになったとか。
恋人の心変わりを防ぐ特効薬と信じられていて、戦場に赴く若い男性に持たせたり、恋人同士が結婚式を挙げる際にポケットにクミンを忍ばせる風習なんてのもあったらしいよ。
ということは、恋人同士でインド料理を食べに行ったら、確実にクミンをかじるようにしなきゃね(笑)
浮気っぽいパートナーは、クミンの香りのする料理で胃袋をつかむのが大事だよ!

2012/09/08

♪インドの山奥で、修行して

この前、浅草で印傳の小銭入れを買ったのだ。
前にちょろっと見たときにほしいと思ってたんだよね。
「勝ち虫」として縁起のよいトンボ柄で、こじゃれた感じなのだ。
お金も貯まるかな?

この「印傳」というのは、なめしたシカ(又はヒツジ)の皮に漆で模様を付けた工芸品。
こじわがあってしなやかなシカ皮は手になじむし、特殊な製法で防水性や耐久性もアップしているのだ。
現代では巾着やがま口、印章入れ、小銭入れ、財布などなどの製品があるよ。
かつては馬具、胴巻きなどの武具、羽織、たばこ入れなんかにも使われていて、江戸でもはやっていたんだとか。
今でも弓道の道具にはその名残があるみたいだよ。

一説にはインド伝来のものだから「印傳」と呼ばれる、と言われるんだけど、南蛮貿易がさかんになった江戸前期に東インド会社から輸入されたインド産の皮革製品「インデヤ革」に由来があるとか。
でも、日本で独自の発展をとげて、漆で模様を描くようになるのだ。
小桜や亀甲、トンボ、菊などがメジャーな柄。
これが小粋だというのではやるんだ。
さらに、異なる色の顔料を重ね塗りすることで、「更紗」のように極彩色にもできるのだ。
手間はかかるけどね。

インド伝来というのだけど、きれいな色に染色された革製品というだけで、それにインスピレーションを受けた日本人が独自の技術で作り上げているのだ。
特に、「ふすべ」と言われる染色技法は日本古来のもの。
推古朝というから、聖徳太子の時代にはもうあった技術なのかな?
そのままでは白いシカの皮を、わらと松脂を燃やしていぶし、黒い色をつけるのだ。
皮を「燻製」しているような状態だけど、煙でいぶすことで皮革のタンパク質が変性して腐らなくなるとともに、松脂中の樹脂成分が黒煙とともに皮の表面について、そこで熱化学反応をして高分子コーティングになるのだ。
これにより耐水性・耐久性が上がるらしいよ。
特殊な皮なめしの方法ということだね。
染液につけない皮革の染色方法って非常にめずらしいらしいよ。

この鮮やかな色のなめし革が一段と化けたのが甲州において。
もともと甲州は皮革製品が特産だったみたい。
重ね塗りの手法もすでにあったようなのだ。
で、その伝統も活かして、「インド伝来」の鮮やかな皮革に漆で柄をつける製法が始まるのだ。
今でも甲州印傳が有名で、伝統工芸品に指定されているよ。
甲州以外でも印傳の技術は一部あるみたいで、ボクが買ったのは江戸に伝わる技法で作った印傳だって。
それでも、やっぱり甲州印傳が本場みたい。

なめして染色した皮に手彫りした型紙を押しつけて、その上から漆を塗るのだ。
型紙は小桜やトンボなどの柄が穴状に「ぬかれて」いて、そこだけ皮に漆がつくわけ。
これを丹念に塗り込んで、熱と蒸気で漆を乾燥させるとできあがりなのだ(漆は熱と湿気で化学反応を起こして固まるのだ。)。
複数の型紙を使って顔料で様々な模様をつける技法もあるよ。
浮世絵のように一色ずつ色をつけていくんだよ。

漆で柄をつけるのは見た目だけの問題じゃないんだ。
細かな柄がなめらかな皮の表面につくことで、それが滑り止めになるのだ!
いぼいぼ付の軍手と同じかも(笑)
弓道の弓や馬具、たばこ入れ、小銭入れ、札入れなんかの用途だとそれが発揮されることになるのだ。
実用的でもあるんだよね。
皮のなめらかさを活かしながら、見た目もよく、実用的でもあるっていうのはなかなかすばらしいよね。

皮革製品っていうとどうしても欧米のものが思い浮かぶし、確かに染色も鮮やかなんだけど、日本の技術もあなどれないのだ。
印傳は和装小物としてしか見かけないけど、実は海外に発信すべき日本の皮革製品なのかも。
漆を使っているというだけで海外の興味は引きそうだし、柄もかわいいからいい線行くと思うんだけどなぁ。

2012/09/01

ぶんべつぶっんべっつ♪

集合住宅で暮らしていたときは、いつでも自分が好きなときにゴミをゴミ捨て場にすれられたのだけど、新居に引っ越してからは地域のゴミ捨てルールに従って、決められた曜日に決められたゴミを出す必要が出てきたのだ!
当たり前のことなんだけど、まだ慣れなんだよねぇ(笑)
地域ごとに微妙に分類の考え方も違うしね。
でも、我が家はけっこう分別をしっかりする方なので、早く新ルールに慣れて分別するのだ!

そう言えば、子どものときって燃えるゴミと燃えないゴミくらいの分別しかなくて、空き缶の回収が後から加わったような気が。
そして、ペットボトルや古紙の回収やら、いつしかいろんな分別をするようになったんだよね。
一時期横浜市では、燃やせるゴミとどうしても燃やせないゴミに分けていて(笑)、燃やせるものは高温の炉で焼却し、燃やせないものは破砕した後に埋め立てていたみたい。
さすがに環境問題が注目されるようになってからは分別が進んでいるようだけど。

このゴミの分別、「沼津方式」と呼ばれる手法のようなのだ。
昭和50年度から沼津市が導入したのでそう呼ばれているらしいんだけど、現在のゴミ出しの基本、燃えるゴミ、燃えないゴミ、資源ゴミ等にゴミを捨てる人が自ら分別して、指定された日に出すというもの。
それ以前は特に家庭などではゴミを分別せず、ゴミ処分場に集めてから手作業で分別・処理していたんだって・・・。
この「沼津方式」の導入により、ゴミ処理にかかる人件費・設備費が節約されるだけでなく、自分で分別するのでゴミ出しに対する意識を高め、ゴミの量自体も減るというのだ。
通常は燃えるゴミが週2回、プラスチックゴミが週1回、その他金属・陶器などの燃えないゴミ、古紙・ペットボトル・缶などの資源ゴミは月に数回という感じだよね。
このほか、自治体や町内会独自の取組として、古布・古着、乾電池、発泡スチロール製トレー、牛乳の紙パックなどの回収が行われることもあるよね。

この分別のときに参考にするのがリサイクル識別表示マーク。
「アルミ」、「スチール」、「紙」、「プラ」などの字が○や□、△の矢印に囲まれているマークだよ。
資源の有効な利用の促進に関する法律(平成3年法律第48号)により表示が義務づけられているのだ。
あんまり気にしたことないけど、電池にはNi-Cdとか、Li-ionとかいうマークもあるみたい。
このマークがつくまでは、空き缶を分けるのに、磁石につくかつかないかでアルミとスチールを分けたりしたんだよね。
硬いとスチール、もろいとアルミというイメージもあるけど、技術が進んで薄いスチール缶ができてからは、スチール缶でもつぶせるようになったので区別が難しくなってきたんだよね。

リサイクルされるゴミで有名なのはペットボトル。
△矢印に「PET」のリサイクルマークもおなじみだよね。
でも、これはガラスびんとは違って、もとと同じペットボトルにリサイクルさせる割合は1%に過ぎないんだって。
どうしてもペットボトルとしてリサイクルしようとするときれいに洗ってから破砕し、化学分解して元の素材にもどしてもう一度高分子に合成する、ということになって、コストも手間もかかるのだ。
それより、簡単な化学変換で、たまごのパックやポリエステル繊維にできるので、そっちに活用した方がよい、というわけ。
実際に回収されたペットボトルのほとんどはこの方法で再資源化されるのだ。
ペットボトルは高温で燃えるためゴミ焼却炉が傷む、ということでリサイクルが進んで面もあるんだけど、逆に、火力発電所で燃料にされることもあるみたい。

それより以前からリサイクルされているのはガラスびん。
むかしはコーラやサイダーのびんを酒屋さんに持って行くと数円もらえたりしたんだよね(笑)
ラムネなんかはびんを返すとお金が一部もどってきたりしたのだ(実際には買ったときにデポジットとしてびん返却の保証料を払っていて、それがもどってくるだけなんだけど。)。
ガラスびんは丈夫なんで、そのまま同じ用途で使われることも多いよ。
今では「リターナブルびん」と呼ばれるのだ。
一方で、そのままリユースせず、いったん破砕してカレットと呼ばれるガラス原料にしてからガラス製品にリサイクルすることもあるよ。
こっちはワンウェイびんと言うもので、ゼロからガラスを作るよりはるかに安価なので、ガラスびんの多くはカレットを原料にしているらしいよ。

これと同じような状況はスチールやアルミ。
それこそ鉄くず回収は戦前からのことだけど、日本は鉄のリサイクル率が世界一なのだ!
アルミはボーキサイトから精錬するとめちゃくちゃ電気が必要なんだけど、アルミ製品のリサイクルだと数%程度の電力量ですむようで、きわめて重要なのだ。
アルミ製品が増えたのも、リサイクルが進んでいるからかもね。

そして、最近いろんなところで力が入ってきているのが紙。
むかしから古紙をトイレットペーパーや段ボールにリサイクルしているのは有名だよね。
「再生紙を利用しています」という注記もよく見かけるようになったのだ。
コピー紙の場合は「原料の70%に古紙を使用しています」なんて環境に配慮したものが好まれる傾向も。
通称「グリーン購入法」と呼ばれる国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律(平成12年法律第100号)では、国や地方が購入する物品は環境に配慮されたものを購入することが求められていて、それで古紙70%以上のコピー紙が使われていることもあるんだよね。

牛乳の紙パックの回収はむかしから行われているけど、あれっていっさいリサイクル素材を含まないバージンパルプで作られているんだって。
なので、紙としての品質も高く、リサイクルにもってこいだそうだよ。
一方、シュレッダーしてしまった書類は、すでに紙の繊維が寸断されてしまっているので、紙としてのリサイクルはむずかしいみたい・・・。
ただし、紙のリサイクルってそれなりのエネルギーが必要なので、必ずしも環境にやさしいかどうかは疑問なんだって。
熱帯雨林などを伐採してパルプを作るとなるとマイナスだけど、管理した植林地から木材チップをとって、それを原料にする場合はリサイクルより環境に優しいみたい。
とは言え、それで紙の需要が全部まかなえるわけでもないだろうから、リサイクルは必要だと思うけどね。

というわけで、ゴミの資源化の問題はなかなか興味深いのだ。
このほかにも、使い古したテレビや携帯電話を回収してレアメタルを回収・リサイクルする「都市鉱山」なんてのもあるよね。
まだまだ奥が深いのだ。