2008/11/01

ふたつの辛さ

今日はお昼に前から気になっていた「陳麻飯」を食べてみたのだ。
最近は気温も下がってきて、熱いもの・辛いものがついつい食べたくなるのだ。
で、食べた結果は、なかなか辛くて、お値段も手頃でよかったよ。

日本では麻婆豆腐やエビチリ、回鍋肉、担々麺なんかの四川料理はかなりポピュラーになっているけど、これは四川飯店初代の「四川の神様」陳建民さん(中華の鉄人、「四川の神の子」陳建一さんのお父さんだよ。)がテレビの料理番組に出て紹介したからなのだ。
でも、四川料理のそのままの味では当時の日本人の口には合わなかったので、独特のアレンジを加えたんだよね。
それが今の日本の四川料理のベースになっているんだけど、最近では本場四川の味をほぼそのまま出す本格派の店が増えてきて、その中でも特に特徴的なのが麻婆豆腐なのだ。

日本の麻婆豆腐は辛さも控えめで、しかも、その辛さは主に豆板醤、唐辛子で出したものだけど、本場の四川の麻婆豆腐は「麻」と「辣」の2つの辛さが特徴なのだ。
「麻」は中華胡椒(華椒)のしびれるような辛さで、これが日本の麻婆豆腐では弱いもの。
「辣」は「ラー油」の「らー」で、唐辛子の辛さなのだ。
この2つがあわさってこそ本格派の麻婆豆腐なんだって。
食べた後もひりひりするだけでなく、しびれたような感じになるのだ。

「辣」の唐辛子の辛さの正体は最近有名になってきているカプサイシンで、これは発汗作用なんかもあるんだよね。
味覚としては「辛い」と言われているけど、実際には痛覚に作用していて「痛い」というものなのだ。
痛覚が弱く刺激されると「かゆく」感じるんだけど、それがもう少し強くなった刺激が舌に来ると辛く感じるわけ。
あまりに激辛のもの(唐辛子系)を食べると本当に舌が痛くなるのは当たり前といえば当たり前の話なのだ。

山椒の辛さの正体はサンショウオールやサンショウアミドという物質で、日本の山椒と中国の華椒は同属異種で辛さは少し違うんだけど、辛さ成分自体は同じようなものなんだって。
なので、「麻」のしびれるような辛みもそれなのだ。
で、こっちもやっぱり痛覚に作用しているんだけど、カプサイシンとは異なって同時にしびれるような感覚を与えるんだよね。
カプサイシンには特異的に作用する受容体(レセプター)が見つかっているということなので、その違いなのかもしれないけど、おそらく、山椒系のしびれるような辛さは、一度痛覚の受容体に作用すると、なかなか離れないでその痛覚自体がしばらく麻痺したような状態になるのではないかと思うのだ。
生姜の辛み成分のショウガオールも同じようなものなんだそうだよ。

暑い地域ではよく辛いものが食べられるけど、これはカプサイシンに代表されるように辛いものには発汗作用があることと、塩分が少なくてもしっかりとした味を感じることが大きいのだ。
夏場に汗をたくさんかくと塩辛いものがほしくなるけど、これは体の中の塩分が抜けて、体がほしがっているからなんだよね。
そうすると、いつもはちょうどよい塩加減のものでも味が薄く感じてしまうのだ。
暑い地域ではそんな状況が日常茶飯事なわけで、薄い塩味だと味がぼやけて感じてしまうわけ。
そこで辛みをつけると塩味が適度に感じられて味がぼやけず、おいしく食べられるというわけ。
暑いときでも辛いものなら食べられるというのはこういうことなのだ。

四川料理は辛いけど、四川はそんなに暑いわけではないんだよね。
蒸し暑くはあるんだろうけど、温暖といった方が適切で、むかしから米作にとても適した肥沃な土地であると言われているのだ。
インドやタイ、ヴェトナムみたいに熱帯っていう感じではないんだよね。
でも、辛いものを食べているのは内陸にあって塩が手に入りにくいからだと考えられるのだ。
これは朝鮮半島やブータンでも同じなんだけど、塩が貴重品なのでたくさん使えないけど、それでもおいしいものを食べたいと思うと辛い味がちょうどよいのだ。
高地にあるブータンなんかは世界一辛い料理を食べると言われているしね。

で、そんな辛さを求めた四川地方で出てきたのが「麻」の辛み。
ただの「辣」の辛さに飽きたらず、新しい辛さを求めrところが、食にこだわる中国らしいよね。
日本の辛い料理はまだあだ「辣」のものがほとんどだけど、本場の四川風麻婆豆腐がはやってきたということは、日本の辛い料理もやっとそこまでの高みに来たということなのかもね(笑)

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