2011/07/02

まもなく最終便です

今月、いよいよスペースシャトルの最後の打上げが行われるのだ!
1981年4月にコロンビア号が打ち上げられて以来、30年もの長きにわたって運用され続けてきたんだよね。
30年前と言えばインターネットも携帯電話もない時代・・・。
最先端技術が駆使される宇宙開発の分野でそのころからの宇宙機が継続して運用されているというのはある意味すごいよね。
でも、さすがに米国も限界を感じていて、今回でいよいよラスト・フライトとなったのだ。

もともとはブッシュ(息子)政権が2004年1月に打ち出した宇宙探査構想(Vision for Space Exploration)の中に示された方針で、2010会計年度まで(2010年9月中)にスペースシャトルを退役させ、まずは有人月探査を再開した上で将来的な有人火星探査を行うための新しい有人ロケット・宇宙船を開発する、という方向性が打ち出されたのだ。
これを受けて始まったのがコンステレーション計画で、有人ロケットのアレスI、貨物運搬用ロケットのアレスV、カプセル型有人宇宙船のオリオン、月着陸船アルタイルなどが含まれていたんだ。
ところが、次のオバマ政権になって2010年に新しい宇宙政策が出されると、この方向性は中止されて、コンステレーション計画もキャンセルになったのだ。
ただし、この件では予算を作る連邦議会ともめていて、決着がついていないんだ・・・。
とりあえず次世代型の大型ロケットと多目的カプセル型宇宙船を開発する方向では合意しているみたいなんだけど。

で、もともとは去年の夏には退役しているはずのスペースシャトルだったんだけど、諸般の事情で退役できなかったのだ。
その大きな理由は「代替の手段がない」こと。
人の運搬についてはロシアのソユーズに頼らざるを得ないんだけど、物資の運搬は独自に民間の輸送サービスを調達することでまかなおうとしていたんだよね。
それが商業軌道輸送サービス(COTS:Commercial Orbital Transportation Services)というやつで、米国航空宇宙局(NASA)が民間企業を資金援助しながら、宇宙輸送系を開発してもらい、それを使って国際宇宙ステーション(ISS)へ物資の輸送をしようという計画だよ。
これにはOrbital Sciences社やSpace X社が参加しているんだ(それぞれ、トーラスIIロケット&キグナス輸送機、ファルコン9ロケット&ドラゴンカプセル輸送機)。
開発は進んでいるけど、スペースシャトルが退役するまでには間に合わない、というのが最大のネックなんだよね。

その間はロシアのプログレス、日本の宇宙ステーション補給機(HTV)、欧州の欧州補給機(ATV)などで補う予定だったんだけど、スペースシャトルに比べると輸送量がはるかに違うのだ!
さらに、スペースシャトル関連には大きな雇用問題がからんでいて、一気にリストラするわけにもいかず、できるだけ運用を延長したいという地元の意向(特にフロリダ、テキサス、アラバマなど)もあったんだよね。
さらに、スペースシャトルの不具合問題もあって、打上げが延期され、さらに、緊急用として確保していたアトランティスの打上げも正規に行うこととして、今回の135回目の打上げが最終となったのだ。
ちなみに、今回打ち上げられるアトランティスは初期に作られたオービターなので、30年以上前のもの。
といっても、打ち上げるたびに改修しているし、改造もしているので、まるで同じものではないんだけど。

ポスト・アポロ計画の中で出てきた「往還型宇宙機」の構想では、全部を再使用する予定だったんだけど、予算的な制約などもあって、現在の一部再使用型のスペースシャトルになったのだ。
実は、一部再使用と言いつつ、使い切りのロケット以上の運用経費がかかるもので、あんまり効率的じゃないんだよね・・・。
完全再使用ならまた別なんだろうけど。
さらに、チャレンジャーとコロンビアの二度の大事故を経て、チェックや改修の基準がきびしくなったので、ますます運用コストは上がったのだ。
もともとオービターと呼ばれる飛行機型の機体(宇宙空間に出るスペースシャトルの本体)と固体補助ブースター(打上げの時にオレンジの外部燃料タンクの両脇につける2本の固体ロケット)が再使用の対象。
一番大きな外部燃料タンクは使い切りだよ。

オービターはもどってきた時点でほぼオーバーホールの大改修。
コロンビアの事故では、宇宙空間で機体表面の耐熱タイルに傷がつき、それがもとで大気圏突入児に大爆発をしたので、入念なチェックが行われるのだ。
それ以降は、宇宙空間に出た後、ロボットアームの先につけた鏡で傷がついていないかどうかを確認しているんだよ。
固体補助ブースターは会場に落ちたものを改修するんだ。
固体ロケットは花火みたいなものなので、筒の中に火薬がつまっているだけなんだよね。
その筒を拾いに行くわけだけど、実際には、傷がついていたり、さびが出たりするとそれがもとで変な飛び方をしたり、場合によっては爆発するおそれがあるので、慎重にチェックして再使用するのだ。
ま、あんまり再使用感はないよね。

最初の構想では、人工衛星の打上げなんかもすべてスペースシャトルで行う予定で、必ず宇宙飛行士がついて行くので、場合によってはちょっと故障した人工衛星の修理なんかもできるんじゃ、と機体があったんだけど、現実はそんなに甘くなかったのだ。
それが端的に表れたのはチャレンジャーの事故。
ロケットの打上げというのが本来危険な作業で、必ずしも人がいなくてもいいような場合でも、人が乗り込んで宇宙に行かなければならないスペースシャトルでの人工衛星の打上げはキャンセルされることになったのだ。
そうなると、スペースシャトルは必然的に有人ミッションのためだけに使われることになり、ISSの建設が始まるまでは各種の宇宙実験を行うくらいのものだったんだよね。
そして、スペースシャトルを人工衛星の打上げに使えなくなったので、代わりに米国空軍が使い切りの人工衛星打上げ用のロケットを開発したのだ。
それがデルタIVとアトラスVだよ。

というわけで、当初想定していたほど効率もよくないし(これはそもそも打ち上げる回数が予定よりもはるかに少ないというのも大きいんだけど)、二度の大事故もあったこともあり、次世代の有人輸送系が求められることになったのだ。
2003年のコロンビアの事故の事故調査委員会の報告書ではすでに次の有人輸送系を開発する計画を明らかにするべき、という勧告が出ているんだけど、新しいものを開発するにも時間も労力もお金もかかるので、ブッシュ(息子)大統領が宇宙探査構想を打ち出すまではそれは棚上げにされていたんだ。
それでようやく次世代型の有人輸送系の開発がスタートしたと思ったら、政権交代もあってまだもめているのだ・・・。
政権交代で混乱しているのは日本だけじゃないんだね(笑)

ちなみに、開発時に大気中での滑空試験などに使っていたエンタープライズはワシントンDCの空の玄関、ダレス国際空港横の国立航空宇宙博物館ウドバー・ハジー・センターに展示されているんだけど、退役した各オービターもいろんな場所で保管・展示される予定なんだって。
なので、実際に宇宙から帰ってきたスペースシャトルをもうすぐ見られるようになるのだ。
二度の大事故を引き起こしたスペースシャトルだけど、世界的に有人宇宙船はこう、というイメージを植え付けたスペースシャトルが退役するというのは感慨もひとしおなのだ。
宇宙に興味ない人でも知っているものだからね。
最後のフライトを無事に終えることができるよう、陰ながら応援したいのだ。

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