2013/08/31

手作りだとぶよぶよ

家のお風呂でもらった手作り石けんを使っているんだけど、これがすぐにとろとろのどろどろ、ぶよぶよに溶け崩れてしまうんだよね(>o<)
で、素人が作ったものだから、と思っていたのだけど、プロが作った有機素材の手作り石けんというやっぱり同じことが起こることがわかったのだ!
やっぱり興行的に作っているやつとは何か成分が違うのかなぁ?、工業製品だと溶けにくくなるような成分が入っているのかなぁ?、なんて考えていたんだよね。
ところが、これが実は「逆」だったのだ。

むしろ手作り石けんには余計な成分が残っているので、高温多湿な場所にあるととろけてきてしまうんだって。
一般に、手作り石けんは、油脂をあたためたところに苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)を加え、よく撹拌するのだ。
全体がトロンとなってきたところで型に入れて固めたらできあがり。
これを化学反応で考えると、トリアシルグリセロール(グリセリンに3つの脂肪酸がエステル結合したもの)である油脂が水酸化ナトリウムで加水分解され、3つの脂肪酸ナトリウムとグリセリンになるのだ。
で、この反応を進めるのには熱が必要なのであたためてかき回すわけ。
分解反応が起きると反応熱があるので、最初に反応を起こせばある程度自動的に反応は進んでいくのだ。
この反応は「けん化」と呼ばれるものだよ。

石けんを作る場合は必要な水酸化ナトリウムの量をあらかじめ計算して加えるんだけど、油脂の種類ごとに必要な量が変わるので、注意が必要なんだ。
1gの油脂をけん化するのに必要な水酸化ナトリウムの量をけん化価と言っていて、通常は油脂の種類ごとにだいたいの値が書いてある一覧表をもとに計算するんだ。
油脂はグリセリンに様々な脂肪酸が結合した状態なので、この脂肪酸の分子量の大きさでけん化価が変わってくるわけ。
炭素鎖の長い大きな脂肪酸がついたものだと、重量に比べて分子数は少なくなるのでけん化価は小さくなるし、その逆に炭素鎖の短い小さな脂肪酸がついたものだとけん化価は大きくなるよ。
ちなみに、油脂の種類というか、油脂に含まれる脂肪酸の種類で、石けんの水への溶けやすさ、泡立ち、洗浄力なんかも変わってくるのだ。
手作りする場合はそういうところにも気を遣っている人がいるみたい(オリーブ油石けんとか、パーム油石けんとか)。

で、けん化反応を終えたものをそのまま型に流し込んでしまうと、未反応の油脂が残っているし、グリセリンも混ぜ込まれている状態なんだよね。
さらに、廃油なんかを使っている場合は、油脂に含まれていた不純物も残っているのだ。
手作り石けんが柔らかかったり、溶け崩れを起こす主な原因はこの未反応の油脂やグリセリンが原因。
特に、油脂はできた手作り石けんの融点を下げるので、溶けやすいものになるよ。
グリセリンは吸湿性があるくらい水に溶けやすいので、これが入っていると水分を吸ってとろとろになるのだ。
で、この二つが合わさると、手作り石けんの特徴の溶け崩れが発生するよ(>o<)

あらかじめけん化価は計算していても、厳密に計算しているわけじゃなくて概算だし、そもそも反応が100%進むわけでもないので、未反応のものが残るのは仕方がないのだ。
でも、この未反応の油脂が手作り石けんの保湿性の高さの所以だったりするんだよね。
スキンケア用のクリームにも油脂が入っているわけで、肌の表面から水分が奪われるのを防ぐのだ。
また、グリセリンは化粧品の中で保湿成分にも使われるようなものなので、こちらも貢献しているよ。
それから、未反応の油脂は洗浄力を落とすんだけど、これが過剰に肌の表面から脂質をそぎ落とすのを防ぐ効果もあって、肌に優しい石けん、ということにもなるのだ。
このため、わざとあまりあたためずに、反応熱だけでけん化する製法もあるくらい。
ただし、オリーブ油とかにかぶれる人もいるし、油脂の中には刺激性のものもあるので、注意が必要なのだ。
また、未反応の油脂や残っている不純物は酸化されて劣化するので、手作り石けんはそんなに長期には保存できないみたい。

工業的にはどうしてるかというと、けん化反応が終わったところで塩析をして、不純物とグリセリンを除いているのだ。
石けん分子はコロイド粒子として液中に分散していて、これは水分子が水素反応で石けん分子のまわりに適度に水和しているからなんだけど、ここにより水和力の強いイオンを加えると、石けんは分散できなくなり、析出してくるのだ。
これが塩析という現象で、とろとろになった反応液に食塩水とかの塩の水溶液を加えて混ぜてやると、石けんが析出してきて、液の上に浮かんでくるよ。
このとき、たいていの不純物は水より重くて下に沈むので、石けんと不純物を分離できるのだ。
この塩析による精製を何度かして石けん素地(ニートソープ)というものを作り、これに香料や色素を加えて練ってから型にはめて固めると、売られている堅くて溶け崩れしにくい石けんができあがるのだ。

塩析をしない方法としては、あらかじめ高温加水分解で油脂を脂肪酸とグリセリンに分解しておき、脂肪酸だけをとりだして水酸化ナトリウムと反応させる中和法というのもあるよ。
あらかじめ脂肪酸を選べるし、後で不純物を除く必要もないので、いろいろと目的に応じたものが作りやすくなるのだ。
刺激性の強い分子量が小さい脂肪酸を抜くこともできるし、けん化反応に使うアルカリも残留しないので、より高い品質の製品が作れるんだよ。
ただし、塩析する方が個性的な石けん(=画一化していない)になるので、小規模事業者だと伝統的な塩析を使う方法(=釜焚き法)を続けているみたい。

で手作りした石けんを溶けづらくする方法だけど、塩析までして精製すればよいわけだけど、これってけっこう大変なんだよね。
そこまでやらないにしても、少しの工夫で溶け崩れを起こしづらくすることは可能なのだ。
それは、型に入れてからもある程度の温度に保温してやることで、けん化反応をしっかり起こさせるというもの。
通常は型に入れてからは反応熱でけん化が進むと同時に冷やされていくんだけど、型が大きかったりすると中心部はいいとして、周辺部では早々に冷やされて反応が止まってしまうのだ。
なので、保温しながらゆっくり固めることでけん化率を上げ、未反応の油脂を減らそうというわけ。
残留する水酸化ナトリウムの量も減らせるので、より安全になるのだ。
グリセリンは残っているから多少の保湿性は残っているし、わりとよい感じでできるみたい。
夏休みの宿題で石けんを作ったりすることもあるけど、そのまま固めたものと、保温しながらゆっくり固めたもので溶け崩れの差まで調べたらおもしろいかも。

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