2015/01/31

はげましの「信(てがみ)」を(中国ではこう書く)

クロネコヤマトがメール便を廃止するという発表があったのだ。
法律上、手紙(信書)は日本郵便か許可を受けた特定の事業者しか配達してはいけないことになっているんだけど、サービスとして提供していた「メール便」で時に法律上禁止されている「信書の送達」に当たる例があって、サービスを継続するのが困難だ、ということなんだよね。
ちなみに、その代わりとして、宅急便のサーボス拡充として、「薄くて小さな荷物」をポストに届けるサービスを開始するんだって。
対面で受け取らなくてよいので、メール便の代わりにネット通販で書籍を買うときなどに使えるのだ。

もともと我が国は、郵便法第4条において、日本郵便株式会社に信書の送達事業の独占を規定していて、他の事業者は原則として信書の送達を業として行ってはいけないことになっているのだ。
ただし、郵政民営化の流れと、「民でできることは民で」の小泉内閣の改革により、別に「民間事業者による信書の送達に関する法律」というのが制定されて、総務省の許可を受けた事業者は信書の送達を業として行えるようになったのだ。
ただし、クロネコヤマトのメール便はこの「信書の送達」ではなく、あくまでも荷物の運送として整理されている点に注意が必要だよ。
クロネコヤマトは信書の送達を業として行うことが許可された事業者ではないので、メール便によって「信書の送達」と見なされるケースがあると、郵便法違反になってしまうのだ(>o<)
このリスクがどうやっても回避できないので、今回事業の見直しを行うということなんだよね。

すると、問題は、「信書」って何?、ということ。
郵便法では、第4条第2項で「信書(特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書をいう。以下同じ。)」という表現を使っていて、3つの要件があると考えられているのだ。
まずは、「特定の受取人」があること。
パンフレットやカタログのように、特定の受取人ではなく、不特定多数に頒布されるものを一斉に各家庭に届ける、みたいなものは「信書の送達」には当たらず、荷物扱いにできるのだ。
メール便がまさにそうだったんだよね。
ただし、宛名が書いてあって、その人の過去の購買歴からこのチラシをカスタマイズしてお届け、みたいな形式になってくると、信書と見なされるおそれがあるのだ・・・。
総務省のガイドラインはあるけど、こういうところはまだ境界があいまいなんだよね。

次の要件は「差出人の意思を表示し、又は事実を通知する」ものであること。
受取人に対して何か自分の思いや近況などを伝える手段として送る場合はダメ、ということなんだよね。
なので、淡々と小切手を送る、商品券・図書券を送る、乗車券・チケットを送る、書籍・雑誌を送る、などはこれに当たらないのだ。
定期刊行物の中にはよく「第三種郵便物」と書かれたものがあるけど、信書に当たるのは第一種郵便物の手紙(主に封書に入ったもの)と第二種郵便物に当たるはがきだけで、第三種郵便物に該当するものは信書ではないから荷物としても送ることが可能なのだ(第三種郵便物にするのは郵便料金が安価になるからだよ。)。
ただし、荷物と一体的な送り状や添え状は信書に当たらないんだよね。
郵便法上も、第4条第3項ただし書で「ただし、貨物に添付する無封の添え状又は送り状は、この限りでない。」と明記しているのだ。
プレゼントを宅配便で送るときにメッセージカードをつけることがあるけど、これは「無封の添え状又は送り状」ということで送っても可なのだ。
封をした手紙をがっつり入れると郵便法違反だよ(>o<)
どこまでが添え状や送り状に当たるのかは微妙な気がするけど・・・。

最後の要件は、「文書」であること。
これはかなり明確で、総務省も「文字、記号、符号等人の知覚によって認識することができる情報が記載された紙その他の有体物」と言っていて、CD-ROMやUSBメモリなどの電磁的記録媒体だったら信書に当たらない、としているのだ。
これも不思議な話だけどね。
これらに不特定多数を対象とした説明書なんかは添付できるので、ソフトウェアが入ったCD-ROMを荷物として送ることは可能だし、孫の運動会の動画をDVDに焼いておじいちゃん・おばあちゃんに荷物として送るのも可能。
ただし、運動会のDVDの場合は、そのときの様子を手紙にしたためてしまうと一緒に送れなくなるよ!
あくまでも、孫の運動会のDVDです、くらいの送り状・添え状でとどめないといけないのだ。

そもそもなんでそんなに厳格に「信書の送達」を規制するのかなんだけど、これは「信書の秘密の保護」という概念が大きいのだ。
帝国憲法では「信書の秘密の保護」が憲法上定められていたんだけど、手紙の中身を検閲してはいけない、手紙にかかる秘密は漏らしてはいけない、というのが大原則。
それから、電気通信(電信電話)や電気・ガスなどと同様に、公益事業としての性質もあるので、ユニバーサルサーボスの提供(全国一律にサービスを提供する義務)や差別的取扱の禁止なんかも課せられるのだ。
これは「民間事業者による信書の送達に関する法律」にも明確に表れているよ。
電磁的記録だと容易に中を検閲できないから信書に当たらないとしているのかもしれないけど、内容的に紙に書いてあろうが、電子データだろうが同じだから、本来的にはメッセージが入っている電磁的記録は信書同様に扱わないといけないはずだよね・・・。
インターネットプロバイダーが電子メールを検閲してはならないっていうのはあるんだけど。

なんにせよ、我が国では手紙というのは秘密が守られるべきもので、かなり厳格に規制がなされているのだ。
一方で、荷物だけではなく、一筆つけたいというニーズも確かにあるわけで。
さらに、手紙とは言わないまでも、不特定多数に文書を発出したい場合も出てきているわけで。
そういう社会環境の中で今の郵便制度の課題が浮き彫りになってきたような気がするね。
今の郵便法の法体系の中では窮屈なのはわかるけど、はてさて、どういう改革がよいのやら。
これから国の審議会等で検討されるのかな?

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