2015/10/10

お宝は土の中にある

今年も日本寺のノーベル賞受賞者が出たのだ!
まずはノーベル・ウィーク初日の生理学・医学賞。
利根川進博士、山中伸弥博士に続いて三人目の受賞となったのは、北里大学特別栄誉教授の大村智さんだったのだ。
抗寄生虫薬の発見がその受賞理由だよ。

大村博士は、長年にわたって、微生物が作り出す天然有機化合物の研究に従事してきたのだ。
具体的に何をするかというと、いろんなところの土をとってきて、その中にいる微生物がどんな有機化合物を作っているのか、その有機化合物は何か有用な成分になるのかどうかを調べていたんだ。
今回受賞のきっかけになったのは、静岡県のゴルフ場近くの土壌からとった放線菌が作り出す抗生物質で、帰省中の駆除に効くものだったんだ。
それが最初は動物用医薬品として広く使われるようになり、やがてヒトにも有効で、特に中南米・アフリカで問題になっていた線虫による熱帯地方の風土病「オンコセルカ症」の特効薬だったので、多くの人を失明から救ったのだ。
こういう業績が評価されたわけ。

っていうけど、ひとつひとつの言葉がわかりづらいので(笑)、ちょっとずつ解説。
「放線菌」というのはバクテリアの一種で、菌糸を伸ばしながら放射状に広がって増えていくことから名付けられたもの。
今ではDNA解析をもとに分類するので、必ずしもそういう形態的特徴を持たないものも「放線菌」に分類されるらしいけど・・・。
ま、バクテリアであることがわかればいいのだ。

バクテリアやカビ(真菌)は、自分が増殖しやすいように、自分以外の微生物の増殖を阻害する物質を作ってまき散らすんだよね。
それが抗生物質。
よくテレビとかでこんなところにも雑菌が、とかいって、綿棒とかでこすって培地にすりつけて培養すると、丸い塊(コロニー)がいくつか出てくる、とかいうのをやっているけど、このとき、複数の菌が混ざってしまわず、それぞれがコロニーを作るのはこういう抗生物質で他の菌の増殖を抑えているからなんだ。

世界で最初に見つかったのは、青カビの作り出すペニシリンで、これは結核の特効薬として当時の医学を大きく前進させることになったのだ。
その次に見つかった抗生物質がバクテリアが作り出すストレプトマイシン。
これは放線菌由来の物質だよ。
腎毒性があるのと、重大な副作用で難聴にあんるというのがあるので今はあまり使われなくなったけど、やはり結核に著効を示したのだ。

抗生物質を薬として使う場合、ヒトの細胞にはあまり影響なく、バクテリアやカビなどの微生物にだけ増殖を阻害する効果を示す方がよいのだ。
そういうのをスクリーニングで選び出すんだよね。
で、そういう物質の中には、微生物だけじゃなくて、ウイルスや線虫などの寄生虫にも効果があるものがあったんだ。
今回は寄生虫となってヒトの疾患の原因となっている線虫に対して効果がある抗生物質で、そういうのは抗寄生虫薬と呼ばれるのだ。
イヌに飲ませるフィラリアの薬も抗寄生虫薬だよ。

ちなみに、抗生物質を少し化学的にいじると、増殖が特に早いヒトの細胞の増殖を抑える効果を持たせることができるのだ。
こうして作られたのが抗生物質系の抗がん剤。
ただ単に微生物の増殖を止めるだけでなくて、そういう拡張性もあって、かつては製薬会社・化学会社が競って新しい抗生物質を探索したものなのだ。
そういった世界的な潮流の中で、大村博士は金字塔とも言うべき成果を出したということだよ。

特に今回言及されている「オンコセルカ症」という病気は、らせん状に巻いている「回線糸状虫」という線虫が規制することで起こる病気で、ブユによって媒介されるんだ。
川の近くにいるブユにより感染し、やがて失明に至るので「河川盲目症」という日本語明があるのだ。
アフリカや中南米に患者さんがいて、大村博士が発見した抗生物質を米国の製薬会社のメルクが商品化したイベルメクチンが特効薬になっていて、多くの人が救われたんだって。
日本ではあまり寄生虫による病気というのはぴんとこないけど、発展途上の熱帯地域ではけっこう大きな問題なんだよね。

北里柴三郎博士の薫陶を受け継ぐ北里研究所出身で、野口英世博士のように、熱帯地域の風土病の克服に大きな貢献があった、ということで、日本としては感慨深いものがあるよね。
大村博士のすごいところは、動物用医薬品として実用化されて得た富を使って自分で研究費をかせいでいたことと、ヒトの病気に使えるとわかったところで特許を放棄し、世界保健機関(WHO)が無償でアフリカ・中南米の患者さんに提供できるようにしたことなのだ!
研究者としては変わり種なのかもしれないけど、日本が世界に誇るべき研究者だったわけだね。

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