2015/10/31

基礎工事偽装はノーベル賞級の研究に影響を与えるか?

10年くらい前に、構造計算書のねつ造で「姉歯事件」というのがあったけど、それと同じくらいのインパクトのある建築偽装事件が起きているのだ!
そう、横浜のマンション傾斜事件。
基礎工事で固い岩盤まで打ち込まないといけない杭がそこまで届いていないことなどが着目されていて、文章マンションの売買にも大きく影響を与えているみたいだね。
で、この事件を起こした現場管理責任者の人が関わった工事が全国で41件あると言われているんだけど、そのうちのひとつが茨城県東海村にある「大強度陽子加速器(J-PARC)」のニュートリノ実験施設であることがわかったようなのだ。
そう、東大宇宙線研の梶田先生のノーベル賞受賞の時に少し話題になった、高エネルギー加速器研究機構(KEK)の施設だよ。

この施設では、J-PARCのメインリング(陽子に磁場と電場をかけて回しながら加速しているトンネル)から陽子線を分岐させ、グラファイト(炭素)の標的に当てることでニュートリノビームを作っているのだ。
炭素に高速・高エネルギーの陽子が衝突すると、そこでパイ中間子が生まれるんだよね。
これは湯川秀樹博士がノーベル賞を受賞した中間子理論で予言されていたもので、電荷の有無で、π、π、πの3種類があるんだ。
πというのは電気的に中性(=電荷を持たない)なもので、πとπがそれぞれ粒子-反粒子の関係であるのに対して、πは自分自身が反粒子でもあるという変わり種。
でも、今回のニュートリノの実験には関係ないので、ここから先は無視(>o<)

「中間子」という名前は、できてもすぐに崩壊して別の粒子になってしまう性質から名付けられていて、荷電パイ中間子も26ナノ秒(約4千万分の1秒)で崩壊してしまうよ。
πは反ミュー粒子とミューニュートリノに崩壊し、πはミュー粒子と反ミューニュートリノに崩壊するのだ。
ここで出てくるミューニュートリノを岐阜県神岡鉱山跡にあるスーパーカミオカンデに発射し、そこでミューニュートリノが別の種類のニュートリノ(タウニュートリノ又は電子ニュートリノ)に変化する反応(ニュートリノ振動)を観測しているのが「T2K実験」。
「T」はJ-PARCのある「東海村」、「K」は「神岡」、「2」は「to」だよ。
もともと、つくばの「KEK」から神岡にニュートリノを打ち込む「K2K実験」というのがあって、それの後継計画が「T2K計画」なのだ。

標的に陽子が衝突したときに出てくるパイ中間子は前方向に散乱していくんだけど、電荷を持っているパイ中間子は磁場をかけると曲げられるので、集めてくることができるだ。
実際には、電磁ホーンと呼ばれる「角」型の電磁石でパイ中間子の流れを「しぼる」のだ。
パイ中間子がある程度まおまるので、そこから出てくるニュートリノもそれなりにまとまっているというわけ。
ニュートリノは電気的に中性で、ほとんど相互作用をしない素粒子なので、ニュートリノになってからはどうしようもないので、こういう工夫をしているのだ。
ちなみに、この電磁ホーンにかける磁場をスイッチすると、正の電荷を持つパイ中間子を集めたり、負の電荷を持つパイ中間子を集めたり、ということができるんだよね。
その結果、打ち出すニュートリノも、π由来のミューニュートリノと、π由来のミューニュートリノに切り替えができるんだ!
これまではニュートリノ振動を観測してきたけど、T2K実験では反ニュートリノでも同様の振動現象が起こるかどうかを確認することも目的としているんだよ。

でも、ここでまた少し問題があるんだよね・・・。
ミュー粒子・反ミュー粒子というのも非常に不安定な素粒子で、2.2マイクロ秒で崩壊してしまうのだ。
ミュー粒子は電子とミューニュートリノ、反電子ニュートリノに、反ミュー粒子は陽電子と反ミューニュートリノ、電子ニュートリノに。
で、この崩壊で余計なニュートリノが出てくると面倒なので、崩壊する前にトラップしてしまうのだ。
実際には、電磁ホーンでパイ中間子をしぼった後、ディケイ・ボリュームと呼ばれる空洞の中で崩壊が起こってミュー粒子とニュートリノができるのだけど、その終端にはハドロン吸収体という炭素製の壁があって、ニュートリノ以外の粒子を止めてしまうのだ!
これにより、ここから先はニュートリノだけが取り出されるわけ。
パイ中間子とミュー粒子の崩壊の時間スケールは100倍近いので、パイ中間子が崩壊してからミュー粒子が崩壊する前に止めてしまうことは十分に可能なのだ。

というようなことをやっているのがJ-PARCのニュートリノ実験施設で、この施設のうちのどこかの基礎工事に問題の人が関わっていたということのようなんだよね。
これまで安全上の問題や、実験場の支障がないようだけど、どうなんだろう?
でも、こういう施設って、一度動かすとなかなか止められないから、現場に行って問題があるかどうか確かめるっていうのも難しいような・・・。
そのために実験を止めるとまた実験再開までに時間とお金がかかるだろうしね。
日本の十八番のニュートリノ研究なので、変な影響が出ないことを祈るばかり。

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