2022/07/02

つるっと

夏で暑くなってくると、つるっとした食感の和菓子が出丸のだ。
わらび餅とかくずきりとか。
透明感もあって涼やかでそこもよいよね。
でも、冷蔵庫できんきんに冷やしてしまうと、これらはかたくなってしまうんだ・・・。
もともとデンプンを取りだして糊化(ゲル化)させたものなので、冷えたごはんがかたくなるように、時間経過や冷却によりどうしてもかたくなり、食感が悪くなるんだ。
なので、基本は冷やさずに、涼やかな見た目を愛でて食べるものなんだよね。

わらび餅のもととなるわらび粉は山菜のわらびの根からデンプンを抽出して乾燥させたもの。
山菜のわらびは、若芽・新芽(まだ葉が開ききっておらず、丸まっているもの)をよくあく抜きしてからおひたしにしたして食べるのだ。
まだ小さいものはあく抜きせずに天ぷらにして食べることもあるけど、これはけっこう苦みがあるよ。
で、これらを食用に調理する際、かたい根の部分ははじめに切ってしまうんだけど、この根を細かく刻んで水にさらしておくと、デンプンが溶け出すんだ。
そこからわらび粉を作るわけ。
芋類のように根が太くなっているわけでもなく、そんなに量がとれないので高級品なんだよね。

くずきりに使われるのはいわゆる本くず。
こちらはつる性植物(マメ科)のクズの根から抽出したデンプン。
わらび粉と同じように、クズの根を刻んで水にデンプンを溶かしだし、乾燥させるのだ。
上質なデンプンとしてして知られていて、日本でも古くから食材として使われているんだよね。
やはり量がとれないので、こちらも高級品。
関西ではわりと手に入りやすいそうだけど、関東だとジャガイモ由来のデンプン(いわゆる「片栗粉」、本来はカタクリの根から抽出したデンプンのはずだけど、カタクリからも量はとれないので、今はジャガイモから作るのだ・・・。)や、トウモロコシ由来のデンプン(コーンスターチ)が混ぜて使われることが多いみたい。

よく言われるのは、やっぱり本わらび、本くずの方がなめらかでおいしいというんだよね。
ジャガイモやトウモロコシではもさっとする、というのだ。
これは同じデンプンといっても、植物種ごとにデンプンの構造が違うから。
デンプンはグルコース(ブドウ糖)が重合した高分子だけど、ほぼ直鎖状に連なったアミロースと、細かく分岐して枝分かれしているアミロペクチンの2種類があって、その長さ、枝分かれの具合、それぞれの比率などでデンプンの物理的な性質が変わってきて、ひいてはそれが食感の違いになっているんだよね。
本わらびや本くずはできたてが食べられればおいしいのだけど、実は時間経過によりすぐに劣化するので、賞味期限が短いのだ・・・。
京都にはできたてをすぐ食べてもらう、賞味期限30分の本くずなんてのもあるくらい。
これを防ぐために、トレハロースを加えて劣化しづらくしたりして市販品が作られているんだ。
なので、スーパーなんかで売っている和菓子は、少しのわらび粉やくず粉と、ジャガイモやトウモロコシ由来のデンプンが混ぜられたうえで、トレハロースを添加したものでできているんだよ。
カロリー的には同じなんだけど、食味はけっこう変わるのだ。

これとは似て非なるものとして、江戸近辺の「くず餅」というのがあるのだ。
亀戸天神や池上本門寺、川崎大師平間寺などが有名。
漢字では「葛」ではなく、「久寿」と当て字にするけど、これは小麦粉由来のデンプンを発酵させたもので作られているんだよ。
和菓子界唯一の発酵食品とも言われているのだ。
小麦粉を水で練っていくとグルテンが固まってくるんだよね。
これを乾燥させたものが麩。
グルテンを取りだした後の白濁した液の中には水溶性のデンプンが溶け込んでいて、これを木の桶に入れて長期間乳酸菌発酵させるのだ。
亀戸天神門前の船橋屋では450日間発酵させるんだって!
発酵に使っている木桶にはそこで初めて見つかった植物性乳酸菌もいたそうだよ。

こちらは、発酵させた後に発酵臭(酸味のあるにおい=乳酸発酵でできた乳酸などの酸性成分)を取り除くために、デンプンを沈殿させた後に何度か水洗いし、きれいにしたデンプンを水で練って蒸し上げるのだ。
こちらの場合は、できあがりは白っぽくて不透明なゲルで、寒天ほどじゃないけどわりとかため。
これを菱形に切ってきなこと黒蜜なんかをかけて食べるんだよね。
発酵させていない小麦粉デンプンを使うとういろうのようなもう少しリジッドなできあがりになるのだ、発酵させることでぷるっと感が出るのだ。
で、これは発酵期間をけっこう長くとらないとだめで、酸性条件下でゆっくりと進む反応のようなのだ。
それによりデンプンの質が変化してぷるっと感が生まれるんだよね。

化学的に調べた人もいて、具体的には、直鎖状のアミロースが短くなっていること、分岐しているアミロペクチンの構造が変わっていること、が確認されているよ。
一般にアミロースが少なく、アミロペクチンが多いともちっとした食感になるのだ。
これは粘度が上がるから。
デンプンが水を含んでゲル状になるのは、アミロースとアミロペクチンが網目状の構造を作って、その中に水を包み込むからなんだけど、その網目構造が変わるので、食感も変わるのだ。
もちっと感が減ってぷるっと感が出てくるということは、より多くの水を包んでいる=含水量が多い、ということなので、網目がわりとゆるくなるのかな、とイメージできるよね。
そうすると、アミロースが短くなるなんていうのは直感的にそんなものか、と思うのだ。
基本的に発酵では、大きな分子が微生物に少しずつ分解されていく過程なので、長い・大きいデンプンががっちりと絡み合うより、短い・小さいデンプンがふんわりと絡み合う、という感じになると思うんだよね。

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