2019/04/20

浄財

パリのシンボルともなっているノートルダム大聖堂で火災があったのだ!
リアルタイムで尖塔が焼け落ちるのが中継されていたんだよね・・・。
まだ原因は究明中とのことだけど、世界中で文化財の火災対策の総チェックが行われているみたい。
日本でも、戦後すぐに放火で金閣寺(鹿苑寺舎利殿)が焼失したけど、これはひょっとするとそれ以上のショックな出来事なのかも。

ノートルダム大聖堂は12世紀に建設が着工されたもので、所在地であるシテ島はガリア人の街だったルテティアの中心地でもあったところ。
まさにパリの古代以来の中心地に建つシンボリックな教会だったのだ。
パリの大司教座でもあるんだよね。
世界遺産「セーヌ河岸」の重要な構成要素でもあるので、観光にもダメージがあるかも。
でも、すでに再建に向けて莫大な寄付が集まっているんだよね。
「黄色ベスト」の人たちは、自分たちは貧困にあえいでいるのに、なぜこの件ではそんな大金がすぐに集まるのかと憤っているらしいよ。

日本でも、宗教施設の修復や再建のために寄付を集める、というのは伝統的に行われてきているんだよね。
宗教者が布教・伝教しながら寄付を集めて回るのが「勧進(かんじん)」。
人々が自主的に寄付するのが「寄進(きしん)」。
これら2つはそうやって使い分けているらしいよ。
確かに、お寺や神社の修復・再建の費用をまかなうために開催される相撲興行は「勧進相撲」だよね。
「勧進」の場合は「寄付(donation)」というよりも、「資金調達(fund raising)」という意味合いが強いのかも。

同じようにお寺や神社が資金集めに行っていたのは「富くじ」。
東京では、谷中感応寺(現「天王寺」)、目黒瀧泉寺(目黒不動)、湯島神社(湯島天神)の3つが有名だよ。
寺社の大収入源なんだけど、はっきり言えばギャンブルなので、幕府はたびたび禁令を出していたようなのだ。
で、その流れで、官営の宝くじにつながるんだよね。
今でも刑法上は私的に富くじを興業すると罰せられるよ(刑法第187条)。
でも、阪神淡路大震災の後も、東日本大震災の後も、「復興宝くじ」が販売されたから、伝統的な「勧進」の伝統は息づいている気がするね。

すでにフランスでは大金が集まっているから関係ないけど、せっかくだから、売り上げをそのまま寄付するチャリティのオペラやバレエ公演とか、フランスらしいものを考えてみてもよいかもね。
そうすれば、毎土曜日に暴れている「黄色ベスト」の人たちもあまり怒らないかも。
いずれにせよ、この後十数年かけて修復するそうだから先が長い話で、お金があるだけあった方がよいはずなのだ。

2019/04/13

つけこんで、つけこんで

日本ではわりと有名なシャリアピン・ステーキ。
でも、これって日本オリジナルなんだって。
あらかじめタマネギのみじん切りに肉をつけておくことでやわらかくするんだよね。
来日していたオペラ歌手のフョードル・シャリアピンさんの求めに応じて作られたそうなんだけど、歯の調子が悪くて柔らかいステーキが食べたかったそうな。
そんな状態でも肉なんだね・・・。

欧米では、基本的には肉は赤身が好まれることもあり、基本的にはかたいもの。
それをがしがしと食べないと食べた気がしないとか。
日本に来ると薄い肉ばかりで肉を食べた気がしない、という感想も出るほど。
でも、最近は和牛が出回っていて、霜降りでやわらかいのもあるから、意識は変わっているのかなぁ?
でも、肉を事前に処理してやわらかく焼く、というのはあまりない発想のようなのだ。

一方で、酢やつけ汁につけ込む、という調理法は一般的なんだよね。
フランス料理で言う「マリネ」がそれだよ。
これはフランス語のマリネにするの過去分詞から来ているようなんだけど、フランス語では、つけ込んだものは「marinade(マリナード)」と呼ばれるのだ。
酢漬けだけじゃなくて、レモン汁でも塩水でも油でも、なんでもいいみたい。
香草や香辛料と液体で下味をつけたり、香りをつけるのもマリネなんだって。
日本的な感覚で言うと、お酢ベースのつけ汁で漬けたものがどうしても頭に浮かぶけどね。

酢で漬けた場合、まずは殺菌作用で長期保存が念頭にあるんだよね。
これが野菜類の酢漬け=ピクルスだよ。
日本のなますもそうだよね。
肉の場合は、酢を入れた水で煮ると軟らかくなることが知られているのだ。
これは、筋肉と筋肉をつないでいる結合組織のコラーゲンがが熱により変性し、酢の効果により水に溶け出しやすくなるため。
変性コラーゲンは酸性条件下で水に溶けやすくなるんだよね。
ちなみに、水に溶け出したコラーゲンを集めたのがゼラチンだよ。

塩水などの塩分を含むつけ汁の場合は、浸透圧の違いで過剰な水分を取り除いてくれるんだよね。
野菜の場合は水分が少なくなってしゃきしゃきに(キャベツの塩もみなど)、肉や魚の場合は身が引き締まってぷりぷりに。
肉や魚の場合は、余計な水分が輩出されるときに水に溶けやすいくさみ成分も一緒に出て行ってくれるので、くさみ取りにもなるのだ。
ステーキを焼く前に塩を振るのはこのためだよ。

インドのタンドーリチキンなんかの場合だと、ヨーグルトにつけこむんだよね。
この場合は、くさみをとると同時に、ヨーグルト中の乳酸菌の働きでタンパク質がbんかいされてアミノ酸が遊離し、肉が軟らかくなってうまみも出るのだ。
実は、お酢やレモン汁でつけ込んでも肉はやわらかくなるんだけど、この場合は、肉の中が酸性になって、肉本来が持っているタンパク質分解酵素の活性が上がり、自己融解で筋繊維が切れていってやわらかくなるのだ。
最初は酸性条件下で加水分解が起こっているのかと思ったんだけど、加水分解って胃酸のような強酸の存在下でしか起こらない反応で、酢やレモン汁に含まれるクエン酸のような弱酸ではダメなのだ・・・。
そうだよね、そうでないとお酢を触っただけで手がただれることになってしまうから!

シャリアピン・ステーキの場合は、タマネギに含まれるタンパク質分解酵素の力で肉をやわらかくしているよ。
青パパイヤやパイナップルでも同じようなことができるのだ。
熟成肉の場合は、外の酵素でなく、じっくり時間をかけてもともと中にある酵素でタンパク質の分解を進めるんだけど、そのまま放っておくだけだと腐敗するので、冷涼で湿度の低いところで熟成させるのだ。
原理的には、日本の干物と同じで、乾燥と熟成が進んでうまみが増すんだけど、なんかイメージが違うよね(笑)

2019/04/06

R0

いよいよ新元号「令和」が発表されたのだ。
個人的な乾燥はともかく、慣れるまでは少し違和感はあるよね。
これは「平成」の時もそうだったから、仕方ない話だけど。
難癖みたいなのは別として、けっこう前向きな評価が多いよね。

この「令和」、確認されている中では史上初の「国書」を典拠とするもの。
これまでは、漢籍を典拠とする場合が多く、実際、「平成」を選ぶ際もその大原則に則っていたんだけど、今回は「万葉集」からとられたのだ。
ちなみに、ここで留保がついているのは、初期の頃の元号は根拠・典拠がよくわからないものも多いから(笑)
元号が使われ始めた飛鳥時代から奈良時代初期なんかは非常にシンプルというか牧歌的で、例えば、穴門(あなと)の国(現在の山口県)から白い生地が朝廷に献上されたから「白雉(はくち)」(最初の元号の「大化」の次)、縁起の良い雲が見えたから「慶雲」(「大宝」の次)、瑞亀(アルビノの白い亀?)が元正天皇即位に当たって献上されたので「霊亀(れいき)」などなど。

時代が下っていくと、文章(もんじょう)博士と呼ばれる専門職貴族が勧申(かんじん)という形で考案したものを上申していたのだ。
やはり複数案をあげて選んでもらっていたようだよ。
このように形式化してくると、その典拠もわりとしっかりと記録に残るんだけど、その前の話だと、よくわからないんだよね(笑)
一説には、日本書紀などの正史からとったものもあったのではないか、なんて言われているけど、不明な点も多いみたい。

今回の「令和」については、万葉集巻の5の「梅花の歌三十二首併せて序」からとられた言葉だよ。
万葉集の場合は万葉仮名という独特の表記表で書かれていて、和歌本体は漢語+表音文字としての漢字(万葉仮名)が入り乱れているんだけど、序文はすべて漢文。
今回の場合は、「于時、初春令月、氣淑風和、梅披鏡前之粉、蘭薫珮後之香。」(読み下し「時ニ、初春ノ令月ニシテ、気淑(よ)ク風和(やはら)ギ、梅ハ鏡前ノ粉(こ)ヲ披(ひら)キ、蘭ハ珮後(はいご)ノ香(かう)ヲ薫(かをら)ス」)の「令」と「和」だよ。
奈良時代には花と言えば梅を指していて、日本人に最も愛されていた花だったのだ。
特に、まだ寒い時期から咲き始め、その色と香りで春を告げるところが好まれていたんだよね。
今回の元号にも新たな平和の時代の幕開けの意味が込められているようなのだ。

この三十二首の和歌というのは、太宰帥(だざいのそち)として太宰府に下向していた大伴旅人の邸宅での宴会で詠まれた歌と言われているんだよね。
ちょうど同じ頃、山上憶良は筑前守として同じく下向していて、その場に参加していたようなのだ。
旅人の歌は、「わが苑に梅の花散る久方の天より雪の流れくるかも(5-822)」、憶良の歌は、「春されば まづ咲くやどの 梅の花 独り見つつや はる日暮らさむ(5-818)」だよ。
旅人の歌では梅の作事気でありながら雪の降る情景が歌われているし、憶良の歌では、春に先駆けて咲く梅の花を愛でる様が詠まれているのだ。
こういう歌が三十二首並んでいるところの序文からとられたわけで、太宰に左遷されていた大伴旅人の主催とは言え、春の訪れを言祝ぐ場の歌を並べた箇所の序文なので、幸先がいいように思うのだ。

で、ついでに、御一新後、一世一元の制になってからの元号の出典も簡単に振り返るよ。
記憶に新しい「平成」は、「史記」五帝本紀の「帝舜」にある「内平外成(うちたいらかにそとなる)」や「書経」の偽古文尚書の大禹謨にある「地平天成(ちたいらかにてんなる)」からとったとされているのだ。
「帝舜」は古代中国五帝の一人の「舜」のことで、後に夏王朝を創始する禹を採用した聖君として知られる人物。
つまり、実在性もあやしい夏王朝ができる前の時代の神話的世界の物語なのだ。
偽古文尚書というのは、古文尚書の偽物なのでその名前があるんだけど、古文尚書は孔子の旧宅から発見された古典籍のうち先秦時代に使われていた蝌蚪文字(かともじ)という字で書かれた尚書のことで、これ自体は散逸してしまって現代に伝わっていないのだ。
ところが、その古文尚書を見つけたとして、東晋時代(4世紀初頭)に朝廷に献上されたものがあって、それが偽古文尚書。
古文尚書ではないとわかってはいるのだけど、それ自体古いものだし、貴重な文献として構成に長く伝えられているものだよ。

史上場最も長く使われた元号である「昭和」は、「書経」堯典の「百姓昭明、協和萬邦」(読み下し「百姓(ひゃくせい)昭明ニシテ、萬邦(ばんぽう)ヲ協和ス」)から来ているのだ。
実は、全く同じ文章から「明和」という元号が江戸時代中期に制定されているんだよね。
この後壮絶な戦争に突入していくとは思えないのだけど、国民の平和および世界各国の共存繁栄を願う意味を込めたんだって。
ちょうど「五族協和」とか言っている時代だからね・・・。
ちなみに、書経は中国古代の歴史書だけど、その中でも堯典は最も古い時代に対応する部分だよ。

その前の「大正」は、「易経」彖伝(たんでん)の「臨」卦の「大亨以正、天之道也」(読み下し「大イニ亨(とほ)リテ以テ正シキハ、天ノ道ナリ」)から。
当たるも八卦、当たらぬも八卦の、古代中国の卜辞(つまりは占い)のテキストである易経の解説書である彖伝からとられているのだ。
彖伝は六十四卦の卦辞(その卦の意味するもの)の注釈書のこと。
文庫本易経を読むとわかるけど、易経本文の解説として、「彖伝に曰く・・・」とか「象伝(しょうでん)に曰く・・・」と注釈書の記述も一緒になっているのだ。
ちなみに「臨」の卦は、「兌下坤上」というもので、「¦¦¦¦||」を右90度回転させたものだよ(笑)
これは明治帝から引き継いで次代の天皇も正しく治める、と言う意味が込められてそうなのだ。

最後に「明治」。
「大正」と同じく易経を典拠としていて、そのうち、天地雷風水火山沢の8つの卦(小成八卦)の説明をしている「周易説卦伝」という書物からとられているのだ。
「聖人南面而聴天下、嚮明而治」(読み下し「聖人南面シテ天下ヲ聴キ、明ニ嚮(むか)ヒテ治ム」)より。
古代中国では皇帝は時空の運行を司るものとされていて、極星(北半球では北極星)がそのシンボル。
自らは中心に座してそのまわりを星々が巡る、というイメージだったのだ。
ここから、支配者は北極星が他の星々を見るのと同様に、自らが北にあって南を向く、ということになっていたんだよね。
そうしてどっしりと南面して向かっていれば自ずと天下は明るく治まる、ということなのだ。
これも新たな時代の天皇の役割を意味しているんだろうね。

2019/03/29

芳香第一

おいしいと評判のバルサミコ酢をもらったのだ。
こういうのって日本で買うと高いんだよねぇ。
もちろん、パリで買ってもいいやつは高いんだけど(笑)
でも、まだ試してみようという気になる値段なのだ。
たしかに、外食していてサラダとか肉とかにかけてあるのはおいしいのだ。

「バルサミコ」というのは、イタリア語で「芳香のある」って意味なんだって。
つまり、香りの良いお酢、ということ。
原料はブドウの濃縮果汁で、長期にわたって樽の中で熟成させることで、少しとろみのある、濃い茶色の薫り高いお酢ができあがるのだ。
普通のワインビネガーはワインを徐々に酢酸発酵させていくんだけど、バルサミコ酢の場合は、ブドウ果汁をじっくりとアルコール発酵、酢酸発酵と進行させて行くみたい。

そのバルサミコ酢の中でも最高級の格付けのものが「トラディッツィオナーレ」と呼ばれるもの。
すなわち「伝統的」なものなのだ。
原産地標記規制(DOP)が法律で定められていて、エミリア・ロマーナ州のモデナ又はレッジョ・エミリアで作られた、12年以上熟成されたものだけが名乗れるんだって。
日本に入ってきているものの多くはモデナ産で、モデナ産の中でも25年以上熟成させたものは「ストラヴェッキオ(とても古い)」と呼ばれ、珍重されているらしいよ。
うちにも古くなってちょっと粘度が高くなってきたバルサミコ酢があるんだけど、あれは水分が飛んだだけか(笑)
ちなみに、これに準ずる製品というのがあって、それらは熟成期間が短いもの。
さらに、大量生産品では、着色料や香料、カラメルなどを添加してそれっぽく作っている熟成機関のさらに短いもの(数年)もあるとか。
これらは厳密に言うと類似品でバルサミコ酢じゃないよ。
これらは本物に比べると安いけど、それでも一般的なお酢よりは高級品みたい。
知らずにそれを使っている場合もあるかもね。

トラディッツィオナーレの場合は、原料は100%ブドウで、かつ、モデナ周辺で栽培される甘味の強い白ブドウのトレッビアーノ種だけが使われるんだって。
ぎりぎりまで収穫せずに甘味を増したブドウから果汁を搾り取り、布で漉してから水分が30~70%になるまで煮詰めるらしいのだ。
この時点で相当糖度を高くしているんだね。
この煮詰めた果汁は「マスコット」と呼ばれ、そのまま甘味料として使われるらしいよ。
これをお酢にするには、煮詰めた果汁をオークなどの樽に詰め、発酵させるのだ。
モデナ地方というのは冬には雪が降るけど、真夏は40度を越える暑さになるという寒暖の激しい土地柄。
この温度差で良いお酢ができるそうだよ。

そして、いったんお酢になってからは、樽の詰め替え作業を行っていくのだ。
詰め替えの際は、半量を次の樽に移し替えるんだけど、古くなったものに新しくなったものを加えていくんだって。
ウナギとか焼き鳥のタレみたいに継ぎ足していくイメージ。
こうして樽の移し替えをしつつ、さらに水分を飛ばしていき、さらに、熟成を行うのだ。
この際、樽から香りが移るので(これはウイスキーと一緒だね)、どの木材の樽にどう移していくかもポイントで、それで仕上がりの香りが変わってくるらしいよ。
通常は、オーク、クリ、サクラ、トネリコ、クワと徐々に小さい樽に移し替えるみたい。
最終的には、100kgのブドウが1kg弱のバルサミコ酢になるんだって!
これは高級品だ。

でも、なんだか製造法を見ていると、熟成だけなら日本でもできそうだよね。
寒暖差はばっちり。
でも、湿度が違うから酢酸発酵は厳しいのかな?
山梨で国産バルサミコ酢を作っている人たちもいるようだけど、味と香りの方はどうなんだろう。

2019/03/23

ダレトク?

時期的なものか、3月の後半になるとよくビジネスマナー関連の記事をネットで見るような気がするのだ。
4月から働く人たちがいよいよ迫ってきて気にするからなのかな?
実際入ってしまうと、ごくごく当たり前なものは別として、業界ごとにルールやマナーは異なるから、習うより慣れろなんだろうけど。

で、こういうのが出てくると、同時に、「こんなマナー必要か?」という意見も出てくるのだ。
マナーはもともと「他人を気遣う」というところから出てきているもので、その場にいる人がみんな不快にならないように互いに気を遣って、というのが定型化したものなんだよね。
その最たる例は食事の作法。
これは洋の東西を問わず、正しい食事作法というのがあるよね。
日本だと箸の使い方にうるさいし、イスラム世界だと食事には右手しか使っちゃいけないとか。

ところが、ビジネスマナーとなると怪しいものが多くなるようなのだ。
最近特にたたかれたのは、日本酒のとっくりを使う際、注ぎ口の切り込みを上に向けて注がなくてはいけない、とかいうもの。
注ぎ口って、液体を注ぎやすいように切り込みが入っているのに、それをわざと使わないなんて・・・。
これにはとっくり業界も苦い顔したわけだよ。

でも、一応もっともらしい理由があって、切れ込みが入っているので「縁が切れる」だとか、戦国時代は注ぎ口に毒を塗られることがあったのでそれを避けるのだとか。
なんとなくそれっぽい理由はあるのだけど、そもそもの「他人を気遣う」っていう観点ではないような・・・。
これをしてもらっても誰も喜ばないし、逆に、これをしなかったら不快に思うということもないよね。
まだビールを注ぐときはラベルを上に、の方がましなのだ(笑)

これと同じようなのが、取引先でお茶を勧められても飲まない(「空いてからの条件を飲む」につながるから)、座ることを勧められても三度までは座らない(三顧の礼か?)、稟議書のはんこはお辞儀をしているように少し傾けて押す、などなど。
これがきちんと定型化してみんなが従っていればまだ様式美にもなるんだけど、そこまで広まっていないからね。
もちろん、イスにかける場合は勧められてから、っていうのは就活でも基本中の基本の当然であるわけだけど、なぜ三度?

おそらく、これはビジネスマナーの普及に原因があるのではないかと思うのだ。
むかしからビジネスマナーの本というのはあるけど、正直そこまでまじめに広く読まれていたわけじゃないよね。
なので、その普及力には限界があったはずなのだ。
ところが、ネットで広まるとあっという間。
そもそも自分でお金と時間をかけなくてもかってにSNSで情報が入ってくることもあるし。
何より、こういうちょっと「意味不明」系のマナーは「なんだこれ?」ということで拡散されやすいんだよね。
また、テレビなどの媒体でもよく「マナー講師」を取り上げて、解説したりするよね。

さかのぼってみると、とっくりの注ぎ口や稟議書のはんこのマナーは昔からあったようなのだ。
あったいうのは広く行われていた、というのではなく、古いマナー本にそういう記述があったりする、ということ。
でも、本に書いてあるだけだと、それを見て変なマナー(?)があるものだ、と思うくらいで、知り合いにちょっと話す程度で終わり。
でも、SNSだと簡単に他の人と情報をシェアできるし、テレビで紹介されたりするとすぐに動画がアップされたりして、拡散力が違うのだ。

でも、一部の人はそれがマナーと思って実践しているから本などにも紹介されていたわけで、これが「地雷」要素なんだよね。
その点でいえば、今のようにすぐに拡散されて「これはおかしい」なんて意見が出てきた方が良いのだ。
それによって意味不明なマナーが駆逐されていくかもしれないから。
その方がむしろ健全化もね。

2019/03/16

フォンジュ

仏教の五戒の一つに「不飲酒(ふおんじゅ)戒」というのがあるのだ。
読んで字のごとく、お酒を飲んではいけない、というもの。
お酒がダメなのはイスラム教もそうだよね。
実は、ヒンドゥー教もお酒を飲むことを忌避する傾向があるんだって。
なので、どうしても東南アジアや南アジアの「地酒」と言われるとよくわからないのだ。
タイやベトナム、インドでは今はビールが有名のような気がするけど、これは暑くて蒸しているからだよね・・・。
キリスト教のように酒(ワイン)が宗教儀式と一体化していれば古代から伝わるものが残ったんだろうけど、そうはいかなかったのだ。

一方で、お釈迦様の時代の紀元前5世紀の原始仏教においてすでに「お酒を飲んではいけない」なんて戒律が作られているくらいで、何かアルコール飲料はあったはず。
それがあまりよろしくないということで禁止しているはずだよね。
では、それが何かが気になるのだ。
ヒントは、インド神話にあるみたい。

インドの神話には、どうも2種類の「酒っぽいもの」が出てくるんだよね。
ひとつは、神々の飲料である「ソーマ」。
何かの植物の汁から作るようなんだけど、詳細は不明。
古代インドの祭祀に用いられていた興奮性のある飲料のようで、「ソーマ」というのは原料となった植物に由来する名前みたい。
栄養と活力を与え、寿命をも延ばすという霊薬なのだ。
インド神話のヴェーダによれば、植物の知ると牛乳やバターを混ぜて攪拌して作るらしいんだけど、どうもアルコールっぽくはないんだよね。
高揚感や幻覚作用が主なようなので、ドラッグ系に近いのかも・・・。
効用的にはエナジードリンク的だけど。
植物の汁というのがポイントで、おそらく、カフェインやコカイン、興奮性、神経刺激性のある植物アルカロイドを含むものだと思うのだ。
後に、神々の飲み物で、飲んだものに不死を与えるアムリタ(仏教の漢語訳では「甘露」)と同一視されているので、神聖で、貴重で、素晴らしいもの、というニュアンスがあるよ。

もうひとつは、スラーと呼ばれるもの。
こちらは人々を酩酊させる飲み物で、特に悪性の酔いをもたらすものとされているのだ。
なので、スラーを飲むことは忌避される傾向もあったみたい。
これは今のアルコール忌避につながるかも。
ただし、古代インドの一部の祭祀ではソーマのように使われることも。
でも、飲み方を誤ると良くないなんて伝承があるそうなので、やっぱり悪いイメージがつきまとっているのだ。
おそらく、これが古代インドの酒なんだよね。

今となっては詳細は不明なんだけど、原料は、穀物系のデンプン、糖蜜(サトウキビの汁)、花の蜜なんかが想定されているよ。
東アジアだともっぱら穀物系の複発酵酒(デンプンを糖化し、その後アルコール発酵させるもの)がメインだけど、南インドまで来ると熱帯性気候なのもあって、糖蜜や花の蜜のようなものがそのまま自然発酵してできた酒があるようなのだ。
欧州には蜂蜜酒(ミード)があるけど、東アジアにはそこまで糖度の高い液体が手に入らなかったのかな?
果物が自然発酵する「猿酒」みたいなのはあったけど。

そこで注目したいのが、ネパールのどぶろくの「チャン」。
インド北部にも同じものがあるようだけど、コメ、ムギ、ヒエなどの穀物を煮た後、種麹となるムチャ(餅麹、穀物の粉と植物の汁を練って団子状にしてカビ=麹をはやしたもの)と混ぜ、発酵させるのだ。
発酵してきたら壺に移し加水するんだって。
比較的アルコール度数の低い微発泡性のどぶろくだよ。
どぶろくは甘くて飲み口がわりとよいのに、悪酔いしやすいから、イメージ的にもぴったりなのだ。
古代日本でも「口噛み酒」が神事に使われていたから、古代インドでも新たに収穫した穀物でどぶろくを作って神に捧げるとともに、自分たちもお祝いで飲んで騒いだんじゃないかなぁ?

2019/03/09

下に向けて書こう!

ネット掲示板の有名なコピペで、米国では宇宙空間でボールペンが使えないとわかったときに必死に大金を投入して研究し、宇宙でも使えるボールペンを作り上げたが、ソ連は鉛筆を使っていた」なんて話があるよね。
これはボールペンのインクは重力を使って押し出される構造になっているので、微小重力となる宇宙空間では使えなくなるからで、本当に米国国立航空宇宙局(NASA)は、インクをガスで押し出す「宇宙でも使えるボールペン」を開発したのだ。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)の売店をはじめ、宇宙グッズを取り扱っている店では売られているよ。

欧米の文化では、まず、「つけペン」があったんだよね。
ペン先にインクをつけて書くもので、羽ペンとかガラスペンとかGペンが有名なのだ。
でも、この「つけペン」の場合はペン先にインクがあまり保持できないので、安堵も何度もインク壺にペン先をつけないと長い文章が書けないのだ。
その不便を解消したのが「万年筆」。
インクカートリッジから自動的にペン先にインクが補充される仕組みで、いちいちインク壺の中にペン先を入れる必要がなくなったのだ。
「万年筆」のインクは、毛細管現象でペン先に供給されるので、微小重力空間でも問題なく使えるよ。

でも、「万年筆」の場合、毛細管現象を使う必要があるので、インクは粘性が低いものでないと使えないんだよね。
つまり、書いた後しばらく乾かさないとすぐににじんでしまうのだ。
これを解消してくれたのがボールペン。
ボールペンの場合は、むしろ粘性の高いインクを重力によりペン先(ボールのある部分)に押し出しているんだよね。
ボールの裏側に粘性の高いインクが付着し、ボールが回転することでそのインクが紙面に転写されるのだ。
ボールペンの場合は、粘性の低いインクを使うと、ボールの隙間からインクが漏れ出てしまうので、むしろ粘性が高い方がいいんだよね。

ボールペンのアイデア自体は19世紀の終わり頃にはあったんだけど、技術が追いつかずに実現できなかったのだ。
まず、ペン先のボールを加工するのが難しく、そして、そのボールをはめ込んで液漏れしないようにペン先を作ることも難しいのだ。
第一世界大戦直前くらいのタイミングでハンガリー人が英国で特許を取り、できあがったのだ。
これが「Biro」で、今でも欧州ではボールペンの代名詞として使われているよ。

このとき使われていたのは油性インク。
でも、粘度が高いので、書き味はいまいちだったみたい。
万年筆に比べてかたい、そして、書き出しがどうしてもかすれる。
それでさほど普及しなかったのだ。
インクが改良されて書き味がよくなると、だんだんと普及していったみたいだよ。
何より、カーボン複写をするとき、筆圧を加えやすいので、ボールペンの方が使いやすいのだ。

時代が下ると、水性インクも出てくるんだよね。
そのままでは漏れてしまうので、中綿式といっていったん中綿にインクを吸わせ、そこからボールに毛細管現象でインクがしみ出してくるようにしたり、直液式といって、いったんコレクターと呼ばれるところに少量のインクを保留し、それがボールのところに出てくるようにしたりするなどの工夫をしているのだ。
さらに、水性インクをゲル状にして、ボールの先のところでだけゾル化するようになっているゲルインクボールペンというのもあるよ。
水性インクはにじみやすいけど、なめらかに書けるし、発色もよいのだ。
カラフルな色のボールペンは水性インクのものが多いみたい。

ボールペンで字を書くときのコツは、完全にそのメカニズムに依存しているよ。
まっすぐ立てて書く、これだけ。
紙面との角度は60~90度がいいみたい。
これは、インクが重力で押し出されるという構造をしていることと、ペン先のボールのついている部分(カシメ部)が紙面に触れないようにすることによるのだ。
そして、天井や壁に上向き、横向きでは書かない。
これはインクが押し出されないからうまく書けないだけでなく、下手するとボールの周辺に空気が入ってしまって、次ぎに書くときにインクがうまくしみこんでこなくなるおそれもあるからなのだ。