2018/08/25

中世以来の学都

パリの大学と言えば、一般にはソルボンヌ大学が有名だよね。
でも、本当はパリ大学の一部なのだ。
現在のパリ大学は第1から第13まであって、パリ第1大学が「パンテオン・ソルボンヌ」、パリ第3大学が「新ソルボンヌ」、パリ第4大学が「パリ・ソルボンヌ」など、「ソルボンヌ」の名を冠しているよ。
「ソルボンヌ」というのは13世紀の宮廷司祭の「ロベール・ド・ソルボン」のことで、貧しい神学の学徒のためにソルボンヌ学寮を作った人。
この学寮が拡大していってパリ大学を代表する神学部になり、やがて、大学全体をさすようになったらしいのだ。

パリ大学はボローニャ大学と並び、中世最初にできた大学の一つ。
当時は自然発生的な組織だったようで、教える側(教師)と教わる側(学生)との間でそれぞれおルールを作り、組合となって高等教育を行う場ができあがっていったようなのだ。
ボローニャの場合は私塾からの発生、パリの場合は教会付属の学校からの発生だって。
なので、パリ大学はもともとキリスト教色が濃いというわけ。
当時は明確なキャンバスはなく、教師は学生に対してどういう責任を負う、学生はどのようにして学べば学位がもらえる、というルールがあるだけだったんだって。
その後徐々に特定の建物で授業が行われるようになり、いわゆる大学が形成されていくのだ。

最初にパリに大学ができたころは、実践教育・専門教育を行う場、という側面が強く、神学、法学、医学の3つの上級学部と、その下におかれた自由学芸(リベラル・アーツ:算術、幾何、天文、楽理、文法、論理、修辞)学部が置かれていたようなのだ。
まずは基礎的な素養を自由学芸として学び、その後専門的な教育に入る。
今の教養課程と専門課程と同じだよね。
フランス革命以降、ナポレオンは高等教育制度を改革したんだけど、まず、地方の大学を専門学校に格下げし、大学は国立の帝国大学のみとして、大学の再編を行うのだ。
このとき、自然科学や文学を加えて、神学・法学・医学・理学・文学の5学部制になるんだけど、すぐに「神学部」は廃止され、おあり大学からは消えてしまうのだ。
「哲学」は残っていrから、いわゆる「キリスト教神学」が全くできないわけではないんだけど。
でも、このナポレオンの近代化により、いわゆる「総合大学(university)」としては、「法学・医学・理学・文学」の4つが必要、というスタンダードになったんだよ。
(後に科学の応用分野として「工学」が加わるし、近代経済の発展で「経済学」も重要になるんだけど、それはまた別の話。)

そんな「神学」が消えてしまったパリ大学だけど、実は歴史的なイベントの現場でもあったんだよ。
それは、1534年のイエズス会の設立。
初代総長のイグナチオ・デ・ロヨラ(最近は「イグナティウス」とは言わないんだね。)や日本にキリスト教を伝道したフランシスコ・ザビエルがともにスペインのバスク地方の出身なのでイベリア半島でのことかた思っていたら、実はその現場はパリだったのだ。
二人ともパリ大学で神学を学んでいて、そこで出会うのだ。
その場にいた、ピエール・ファーヴル、ディエゴ・ライネス、アルフォンソ・サルメロン、ニコラス・ポバディリャ、シモン・ロドリゲスを加えて計7名で、モンマルトルの丘の中腹にあったサン・ドニ修道院教会堂で「モンマルトルの誓い」として生涯を神に捧げる誓いを立てたのだ。
これがイエズス会の発祥と言われているよ。
ちなみに、モンマルトルにはもともとベネディクト女子修道院があって、サクレ・クール寺院ができるのはフランス革命後だよ。

カルティエ・ラタンは「ラテン語地区」という意味で、パリ大学に通い、ラテン語で勉強している学生たちが多くいる場所だったのでその名がついたんだけど、まさにそこでイエズス会を創立したメンバーが集まったんだよね。
パリは神学では中心的な都市だったのだ!
ちなみに、パリのアンバリッドの近くにはフランシスコ・ザビエルの名を冠した「フランソワ・グザビエ教会」(仏語読み)があって、メトロの「フランソワ・ザビエ」駅もあるよ。
パリに来るまでイエズス会とパリとの関係なんて知らなかったよ。
歴史のある大学って言うのはすごいものだね。

2018/08/18

遭難したら、上を目指せ

山口の二歳児が行方不明になっていた事件について、「歩くボランティア」とも言われるスーパー・ボランティアの尾畠さんが山中の沢のような場所で無事発見したのだ。
命が危ぶまれていただけに、無事に見つかってよかった!
それにしても、この尾畠さんの「感」がすごいんだよね。
前に同じように山中で行方不明になった子供を見つけたことがあって、そのときの経験から、「子供は下ることはない」と思って、上の方を探したら、まさに見つけた、ということ。
飴をあげたことで非難もあるようだけど、この人の行動力や感はすごいものだよ。
実際に助けているしね。

で、実は、この子供のとった「上に行く」というのは、山中で迷ったときに適切な行動なのだ。
ついついなんとか下山しようと下へ行きたくなるんだけど、それは危険なことと言われているよ。
もともと迷っているという時点で登山道から外れているわけだけど、登山道でないところは足下もおぼつかないし、疲労が蓄積されている中でそういう中を進むのが危ない、というのが一点。
また、登山道でないところは、崖があったりしてそもそも進めないことも多いのだ。
特にやってはいけないといわれるのは、沢伝いに下りていくこと。
水の流れがあると、その流れに沿って進みがちなんだけど、沢は特に滑りやすいし、なんと言っても、山中には滝も多いので、進んだはいいがもどれなくなることも多いのだ。

では、どうすればよいか?
答えはその逆で、上へ上へと行くこと。
ちょっと考えれば簡単なんだけど、上に行けばいつか頂上や尾根に出られるんだよね。
で、登山道っていうのは頂上や尾根に向かうものなので、そこまでたどり着ければ、いったん見失った道を再発見できる可能性が高いのだ。
しかも、頂上や尾根まで出られればうっそうとした林も抜けるので、縁による捜索隊からも見つけやすいし、携帯や無線がつながる可能性も上がるんだよね。
なので、むしろ水の流れを見つけたら、その上流を目指す方がよいのだ。
その意味で、「上に行った」という子供の本能的な行動は正しかったんだよ。

ちなみに、闇雲に上を目指せばよいかというと、そういうわけでもないんだよね。
当たり前のことだけど、日が暮れて暗くなったら安全な場所で動かず、朝が明けるのを待つのが大事。
すでに登山道を外れていて足下は悪いので、暗くて先が見通せない時にそんなところを歩くべきではないのだ。
体力の温存にもつながるので、できればどこかでビバーグをして夜を明かすのが大事。
こういうリスクもあるので、山を登る際は、保温性も高い雨具(レインコート)を持っていくとよいんだよね。
それと、もしものときのための非常食。

実は、高い山よりそこそこ低い山の方が遭難する人が多いんだって。
侮って装備が不十分だったり、低いから下りられるだろうと下に行こうとして滑落したり。
登山する際はリスクをしっかり意識して、備えるべきなんだよね。
道に迷ったらまず来た方に戻る。
それがわからなかれば上を目指す。
暗くなったら下手に動かず明るくなるのを待つ。
こうした基本をたたき込んでから行くべきなのだ。
ま、ボクは登山をするわけじゃないんだけどね(笑)

2018/08/11

エビとカニの間

夏休みに北欧に行ってきたのだ。
夏の時期の北欧名物と言えば、ザリガニ!
ゆでられたザリガニが山のように積まれて出てくるよ。
特にスウェーデン人はザリガニが大好物で、それがフィンランドにも広まったんだって。
ボクが食べたのは、オスロからコペンハーゲンに船で移動している最中なのだ。

日本ではどうしてもザリガニはくさいというイメージがあるよね。
在来種の日本ザリガニは北日本に生息していたんだけど、こちらは冷たくきれいな水に住むので、メジャーではないにしても食べられてきたらしいのだ。
ところが、昭和初期にウシガエルのえさ用として日本に導入されたアメリカザリガニはあっという間に日本各地に広がり、今ではザリガニと言えば赤いアメリカザリガニをイメージするよね。

ところが、このアメリカザリガニは、米国南部原産で泥地を好み、雑食性でなんでも食べるので、くさみがあるのだ。
特に、街中で見かけるアメリカザリガニは排水溝とか沼、用水路、水田なんかにいるんだけど、どれも泥臭い・・・。
きれいな水の中で泥抜きをすれば食べられるらしいけど、日本ではそこまでして食べないんだよね。
ところが、米国、特にルイジアナ州ではよく食べるらしいのだ。
多少のくさみはあっても、南部料理伝統のケイジャンのスパイシーな味付けにして食べるみたい。
名物料理になっているよ。

欧州で伝統的に食べてきたザリガニはヨーロッパザリガニ。
河川や湖沼に生息しているんだけど、生息環境の悪化や乱獲(主に食用)などにより個体数が激減。
今では希少種になっていて、代用でウチダザリガニが養殖されているそうなのだ。
このウチダザリガニは、米国北部原産の冷水性のザリガニで、他のザリガニより少し大きめ。
スウェーデンにカリフォルニアから導入され、広まったんだって。

ヨーロッパザリガニは秋の10~11月頃が繁殖期なので、あまりとれなくなってからは夏の短期間のみザリガニ漁が解禁されたんだよね。
で、そのときにザリガニを大量に食べる「ザリガニ・パーティ」というイベントもできたのだ。
スウェーデンでは非常にメジャーで、8月の終わり頃にみんなで集まってひたすらザリガニを食べるらしいよ。
ただし、今ではウチダザリガニを食べるらしいけど。
ちなみに、大量のザリガニを食べるけど、ザリガニだけでなく、他のパーティ料理もあるんだって。

最近では中国でもザリガニの消費が増えているようなのだ。
中国は欧州への輸出向けにウチダザリガニの養殖をしているようだけど、そっちではなく、アメリカザリガニを食べているようなのだ。
やっぱり中華風のスパイシーな味付けにしていて、ジャンクフードとして人気みたい。
ザリガニ専門店もあるとか。
中国は人口も増えているし、いろんな食べ物を取り入れる気質があるから、なんでもありだね(笑)

ちなみに、ザリガニは肺吸虫の中間宿主となるので、よく火を通すことが肝心なのだ。
仮に食べる場合は、よくゆでた方がよいよ。
北海道ではウチダザリガニが外来種としてかなりはびこっていて、駆除活動で何万匹も捕獲されるんだって。
それをゆでたものが食材として流通しているとか。
でも、日本で買うとエビやカニに比べて高いみたい。
そこまでして食べたいか、ってことなんだよね(笑)

2018/08/04

木陰に憩う

パリは気温はそれほどでもないんだけど、日差しが強くて熱い!
日向と日陰で全然体感温度が違うのだ。
日向では太陽光の熱をじりじりと感じるよ。
そんなときに助かるのが街路樹。
ちょっと木陰に入るだけで一気に涼しくなるからね。

欧州に多い街路樹はなんと言ってもマロニエとプラタナス。
プラタナスの和名はスズカケノキで、丸い球状の果実がぶら下がるようになることからついた名前だよ。
山伏の包囲で丸いふさふさがぶら下がっているけど、あれを鈴懸の法衣というそうで、そのイメージなんだって。
街路樹としてメジャーなのは、モミジバスズカケノキ。
欧州から西アジアにかけて自生していたスズカケノキと米国に自生していたアメリカスズカケノキの交雑種で、英国で作られたものだそうだよ。
日本には明治期に導入され、街路樹になったようなのだ。

スズカケノキはカエデのように切れ目の入った大きな葉が特徴。
このおかげで心地よい木陰を提供してくれるのだ。
その切れ目の深さは、スズカケノキが一番深く、アメリカスズカケノキは浅いんだ。
なので、葉を見るとどれかは一応わかるらしい。
もっとわかりやすいのは実のなり方。
スズカケノキは3~6個、モミジバスズカケノキは1~3個、アメリカスズカケノキは1個というようにぶら下がっている数が違うので、実のぶら下がり方で区別できるんだ。
日本で街路樹に使われているのは多くはモミジバスズカケノキだよ。

もともとは池辺や湿地などの水の多いところに生えているものらしいんだけど、乾燥にけっこう強いんだって。
それで街路樹に向いているのだ。
ただし、成長には強い日照が必要なので、開けたところに植える必要があるよ。
うっそうとした中では成長できないのだ。
成長が早いので、何もない道に街路樹として植えると、数年で立派な木陰を提供するようになるみたい。

スズカケノキの見た目の特徴は、その大きな葉だけではなく、樹皮もあるのだ。
ところどころ樹皮がまだらにはがれるんだけど、それが迷彩柄になっているんだよね。
これもプラタナスの特徴なのだ。
樹皮がはがれ落ちるようになっているのは、樹皮に規制する害虫への防御と考えられているみたい。
なんかペリペリしていてはがすのも楽しそうだけど・・・。

プラタナスは落葉広葉樹なので、その大きな葉が秋にさしかかるとはらはらと落ちるのだ。きれいに紅葉するわけではなく、葉が落ちるだけなんだけど、その落ち葉が道を覆い尽くす風景は一つの風物詩になっているよ。
フランスの場合は8月になるともう葉が落ち始めるんだよね。
国内だと、新宿御苑の仏式庭園のプラタナス並木が有名かな。
秋バラが終わると葉が落ち始めて、枯れ葉の絨毯ができあがるのだ。
日本にいたときはどこか西洋風でおしゃれなイメージだったけど、パリではどこでも見られるような当たり前のものなんだよね。
観光で来るときれいだなぁ、と思うけど、もう慣れちゃった(笑)
それよりも、夏場に日陰を提供してくれるのがとにかくありがたい。

2018/07/28

山燃える

ギリシアの山火事が大変なことになっているのだ!
アテネのすぐ近くなんだね。
パルテノン神殿からも煙が見えているとか。
でも、実はギリシアだけじゃなくて、北欧やロシアでも乾燥と高温で山火事が頻発しているんだって。
特にスウェーデンはひどくて、全土で山火事が発生しているような状態なんだとか。
自国の消防隊だけでは間に合わず、欧州内の他の国から応援に来てもらっているらしいよ。

日本の場合、山火事の主な原因は「火の不始末」なんだそう。
キャンプでの火の消し忘れみたいなのだけじゃなく、たばこのポイ捨てとかもあるらしい。
でも、今回の欧州の山火事は「自然発火」。
日本では湿度が高いこともあってなかなか起こらないんだけど、何かのきっかけで火がつくと、まわりが乾燥して燃えやすくなっているので、炎が広がるらしいのだ。
風があると酸素も供給されて一気に燃え広がるらしいよ。

「自然発火」の原因としてわかりやすいのは落雷。
でも、落雷があるような天気の場合は雨も降りやすくなっているし、そもそも湿度が高いので、今回の山火事も落雷が原因ではなさそうなのだ。
火山の噴火もあるけど、そもそも今回の地域では噴火してないよね。
では、何かというと、乾燥した木の枝や葉がこすれ合って摩擦熱や静電気が生まれ、それで火がつくんだって!
そんなことあるのか、と思うんだけど、実際にあるみたいなんだよね・・・。
普段から水でもまいておかないと防がないということかも。

テレビの報道で見る限り、ギリシアの山火事の商活動ではとにかくヘリコプターから散水しているみたいだね。
ただし、山火事の規模が大きくなってくると、まさに「焼け石に水」的なところがあるのだ。
散水できる量・範囲には限りがあるから、火の勢いに追いつかないんだよね。
まさにそんな感じで消火活動に苦労しているように見えるのだ。
山火事が割とよく起こっている米国の西海岸(カリフォルニアなど)では、水だけじゃなく、消化剤もまいているみたい。
何か赤い粉をまいているんだけど、それが粉末消化剤で、「負の触媒」として燃焼反応を抑制する効果があるんだって。

山火事の場合、人の住んでいる地域に影響があまりないと判断された場合は、そのまま自然に鎮火するのを待つというのもあるのだ。
その方が下手な消火活動をするより生態系に与える影響も少ないんだって。
とはいえ、放っておけるようなケースはそんなに大きくないので、消火活動を行うとともに、延焼を防ぐ手立てを講じる必要があるのだ。
その一つは、燃えている範囲の少し外側のところで「燃えるもの」をなくしてしまう、という発想。
江戸時代の火消しと同じなんだけど、燃え広がりそうな先にある樹木を先に切り倒してしまって、暫定的に「火除け地帯」を作るんだよね。
そうすると、よほど強い風でも吹かない限り、それ以上は燃え広がらなくなるわけ。
でも、あまりに規模が大きくなると、樹木を切り倒す範囲も広がるわけで、なかなかできることではないのだ。

そして、もっと過激な方法として「迎え火」というのもあるみたい。
逆方向から火をつけて、特定の範囲を先に燃やし尽くしてしまう、というもの。
あらかじめ火除け地帯を作っておいた上で、外側からも火をつけてしまうのだ。
そうすると、両側から燃えるので、燃えるものが一気に燃え尽きてしまって沈下が早くなるんだって。
でも、「毒を以て毒を制す」的なもので、新たに火事を起こすということでもあるので、リスクは高いみたい。
想定外のところに燃え広がる危険性もあるしね。

今回のギリシアの山火事がいつ収まるのかはわからないけど、おそらく住宅の火事のように散水して鎮火するのはほぼ不可能な規模のようなので、散水などの消火活動をしながら延焼をできるだけ防ぎつつ、鎮火するのを待つことになるのだ・・・。
なんだか大変そう。
消えたように見えても、土壌中に有機物なんかがあると火がくすぶっていることもあるので、その見極めも難しいんだって。
とにかく、早く収まることを祈るしかないみたい。

2018/07/21

カをさけろ

最近蚊の話題をよく見るのだ。
一番人間を殺している生物は「蚊」だとか(二番目は人間・・・)、足の裏を拭くと蚊にさされにくくなるとか、蚊は35度以上では活動しなくなるとか。
日本の蚊の場合は、さされてもかゆくなるだけなんだけど、とはいえ、やっぱりみんな不快なんだよね。
なので、関心が高いのだ。
そこで、そんな蚊にまつわる情報を少し調べてみたよ。

まず気になるのは、蚊の活動の限界。
日本では猛暑が続いているけど、そのせいか、蚊をはじめとする昆虫を見かけなくなっている、というのだ。
で、実際蚊にもさされない!
そんな中で出てきたのが、蚊は35度以上になると活動しなくなる、という話。
どうも、そのもとは、ネッタイシマカという日本で翌みっれるヒトスジシマカの近縁種を使った実験。
いろいろな温度・湿度条件で蚊の活動を観察したところ、蚊が飛んだのは気温が10度~35度のときだった、という論文らしいよ。
すなわち、蚊もあまりにも熱いと活動が抑制されるというわけなのだ。

蚊が活動できる温度範囲はいろんな説があって一概に言えないらしいけど、基本的に、蚊の生態として、常に飛び回っているわけではなく、草陰などに隠れていて、標的となる動物が来たときにさっとさしに行くんだって。
なので、もとから活発に行動しているわけでもないそうなんだけど、あまりにも暑いと、近くに動物が来てもさしに行かなくなるのだ。
蚊が快適に(?)行動できるのは26度~32度と考えられていて、その気温になるあたりが危ないらしいよ。
確かに、自分の記憶と照らしてみても、真っ昼間の炎天下でさされたことってあまりなくて、少し涼しい日陰や、朝夕のちょっと涼しい時間にさされていたような気がする・・・。
それは蚊の行動と合致していたんだね。

次に気になるのは、誰がさされやすいか。
巷間よく言われているのは、血液型がO型の人。
確かに、実験してみるとO型の人がさされやすい、なんて結果も出るようなんだけど、なぜなのかはよくわかっていないみたい・・・。
むしろ、科学的にわかっているのは、蚊がどうやって世界を認識しているか、から来る考察だよ。

蚊が動物の存在を認識するのに3つのセンサーを使っているのだ。
一つは温度センサー。
どうも赤外線を見ているらしく、代謝が活発で体温が高い人、運動直後の人なんかがさされやすいのはこのため。
次に二酸化炭素センサー。
ごく微量の二酸化炭素濃度の差を検出できるようで、呼気中に含まれる二酸化炭素の存在をキャッチするんだって。
息を止めていると認識されない?
最後ににおいのセンサー。
これは汗に含まれる乳酸や脂肪酸なんかを認識していると考えられているのだ。
足の裏を拭くとさされにくくなる、というのはまさにこれで、足裏は汗腺が集中していてにおいのもとなので、そこをきれいにしてにおいを少なくすれば蚊に認識されにくくなる、ということなのだ。
特に、蚊は普段は草陰なんかに隠れているので、比較的低いところにあるにおいのもとは重要なんだ。
総合して考えると、太っている人、汗っかきの人がさされやすい、というのはもっともなのだ。

ちなみに、気温が高くなればもともと日本に生息している蚊は活動しづらくなるんだけど、今度はマラリアなどのやばい病気を媒介するハマダラカなんかのもっと暑い地方に住んでいる蚊が繁殖するようになるのだ。
幸い日本国内にはほとんどマラリア感染者がいないので、ハマダラカが来てもすぐに汗腺が広まるわけではないんだけど、怖いのは怖いよね。
なので、まずは自衛手段としてさされないように気をつけるのが重要。
炎天下の日向を歩くのは確かに効果的なんだろうだけど、むしろ、汗はきちんと拭いて体臭に気をつける、みたいな清潔感を保つ、という方がやりやすそうだね。
あと、蚊の近くでは息を殺す(笑)

2018/07/14

水に始まり、水に終わる

朝、時間がないときに限って寝癖がひどかったりするよね(笑)
で、直そうとしてもなかなか直らず、焦ったりするのだ。
この間散髪に行って短くなったからここのところは気にしていないけど、散髪に行くまではけっこう伸びていたので、寝癖がついてたよ。
で、この寝癖というのがなんなのかをちょっと調べてみたのだ。

結論から言えば、髪の毛と髪の毛の間に「水素結合」というゆるい結合ができていて、くせがついた形で髪がかたまってしまう現象なのだ。
水素結合というのは、タンパク質の表面で、電荷が正に偏っている水素原子が、電荷が負に偏っている酸素原子、窒素原子、硫黄原子などと電気的に弱い結合をするもの。
それぞれの原子は分子の中で共有結合をしていて、分子全体としては電気的に中性なんだけど、それぞれの原子には電子を引きつける違いに差があるので、分子内で電気的な偏りができてしまうのだ。
水素原子なんかは電子を引きはがされやすいのでプラスになっていて、酸素原子なんかは電子を引きつけやすいのでマイナスになっているよ。

この水素結合は、タンパク質の高次構造を形成する上でも重要。
タンパク質はアミノ酸がたくさん鎖状につながったもので、そのままではひもみたいな長い分子だけど、丸まって一定の形になることで機能を発揮するのだ。
その形状を保つのに重要な役割を担っているのが水素結合。
体の中のタンパク質が機能しているのはこの水素結合のおかげ。
なので、それ自体が悪いやつではないんだよ(笑)

たかが電気的な弱い結合なんだけど、これがけっこう強力で、寝癖がなかなか直らないわけ。
電気的にくっついているので、物理的に櫛でとかすだけではどうしようもないのだ。
で、簡単な直し方と言えば、水に濡らすこと。
水中にはそれこそ無限の水分子があるわけだけど、この水分子の中でも電気的な偏りがあって、水素原子はプラスに、酸素原子はマイナスになっているのだ。
髪の毛の間で水素結合しているタンパク質は、まわりに他の電気的な偏りがないからわりと強くくっついてしまっているのでだけど、まわりに水分子が来ると、他にも電気的結合の相手がいるので、くっついたり離れたりするのだ。
数的には水分子の法が圧倒的に多いから、髪の毛同士の結合はほぼ切れてしまうわけ。
なので、面倒でも水で濡らしたり、水を主成分とした寝癖直し(他に香料や界面活性剤、多価アルコールなんかが入っているよ。)をつけたりするとなおるんだ。

濡れている状態の時にクセを直し、きちんと乾かせば、その後は水素結合で寝癖がつくことはないのだ。
つまり、寝癖がつくのは、髪の毛に湿り気がある状態で髪の毛に変な力がかかるから。
しっかり髪を乾かさずに寝たり、寝汗で頭が群れたりすると寝癖ができる原因になるよ。
逆に言うと、まずはお風呂の後にしっかりと髪を乾かしておけば寝癖はつきづらいのだ。
これは重要だね。

で、この寝癖と似ているようでまた違うのが「パーマネント」。
パーマの場合は、アミノ酸残基のうちチオール基(-SH)を持っているシステイン同士の間で共有結合を作ってしまうことで髪の形を固定する技術なのだ。
チオール基を二つを化学的に結合させてジスルフィド結合を作るんだけど、その化学反応のために、薬液を使い、熱をかけるんだよ。
水素結合と違って、共有結合ができてしまうので、薬剤か何かが化学的にジスルフィド結合を切らない限りはその「クセ(ウェーブ)」が持続するのだ。
これが「パーマネント(永続する)」の名前の由来。
水に濡れても大丈夫なので、髪を洗っても形状が保たれるよ。

というわけで、実は髪のクセは化学に支配されていたのだ!
これを踏まえれば、寝癖を直すにも、あれこれ試行錯誤せず、最初から水で濡らして直せるね。
ま、寝癖にならないようにする方がよいけど。