2007/05/13

1mの暗号文

一部のウイルスを除いて、生物の遺伝情報はデオキシリボ核酸(DNA)に記録されているんだけど、人間の場合、全遺伝情報はだいたい1mなのだ。
DNAというのは、デオキシリボースという糖がつながった糖鎖に、アデニン(A)、チミン(T)、シトシン(C)、グアニン(G)という4種類の核酸塩基と呼ばれるものがついた構造をしているんだけど、この核酸塩基というのはいわゆる「芳香族化合物」というやつなのだ。
芳香族化合物は、ベンゼンやトルエンなんかのように平面構造で、環状につながった炭素原子や窒素原子の間を自由に電子が動き回っているようなものなんだよ。
で、この平面構造の「厚み」が3.4Å(オングストローム=10-10cm)で、人間の遺伝情報は約30億塩基対あるといわれているので、3.4×10-8(m/bp)×3×109(bp)と計算できて、約1mという計算結果になるのだ。
このうち、半分が父親由来、半分が母親由来だよ。

DNAは、1953年にワトソンさんとクリックさんが発見したように、二重らせん構造になっていて、2本のDNAの鎖がらせん状にからみあっているので、1本ずつほどくと、2mのDNAの「ひも」が得られるんだ。
DNAの二重らせん構造では、AとT、CとGがそれぞれペアになって水素結合という弱い電気的な力でくっつくことで安定化しているのだ。
で、DNAからタンパク質の設計図のリボ核酸(RNA)に遺伝情報を転写してタンパク質を作るときは、ジッパーのようにDNAの二重鎖がほどかれて、片側を鋳型にしてRNAが作られるわけ。
RNAを作るときも、鋳型のDNAの塩基とペアになるように(これを相補的というのだ)、核酸塩基がはめられていくのだ。(RNAの場合は、Tの代わりにウラシル=Uが使われるんだよ。)

細胞分裂でDNAを複製するときは、二重鎖のDNAが完全にほどかれて、それぞれを鋳型にしてペアになるように反対側を作っていくんだけど、なんと、だいたい1000回に1回は間違ったものをくっつけてしまうんだって!
すると、30億塩基対あるから、300万箇所もエラーが出てしまうのだ。
とは言え、このエラーを後から修復する機能もあるので、もう少しエラーは少ないんだけどね。
それにしても、けっこうエラーが入るんだね、やっぱり人間のやることはいい加減なのだ(笑)
そうすると、どんどん遺伝情報は変わっていってしまうような気がするけど、実際はそうでもないのだ。

遺伝情報の中で「意味のある部分」(タンパク質の設計図の部分やRNAへの転写を制御している部分)は非常に少なくて、1割未満なのだ。
なので、そんなに高いヒット率でそこにエラーが入るわけじゃないので、そんなに異常が発生するわけじゃないんだ(エラーが入っても特に支障のないエラーもあるしね。)。
それに、細胞分裂するときは、幹細胞という「親」の細胞があって、それが増えていくんだけど、増えた先の細胞はそれ以上は増えないので、遺伝情報に異常が入った細胞ができても、その1個だけなのだ。
なので、体勢に影響はないということ。
でもでも、これが生殖細胞の場合だと話は違って、たまたま遺伝情報に異常の入った細胞が受精してしまうと、その異常は子どもの世代に受け継がれてしまうんだよね。
遺伝病というのはこうやって出てくるのだ。

ただし、遺伝情報の複製エラーによる異常は必ずしも悪いものではなくて、いい面もあるのだ。
遺伝病のように病気になりやすい性質が出ちゃうこともあるけど、逆に病気に強くなったりする機能を獲得することもあるんだよね。
こればっかりはどういうエラーが入るか次第なのだ。
でも、こういう遺伝情報の複製エラーが「進化」をしていく課程の重要な要素といわれていて、確かにそのまま正確に複製されていくと変化がないから、進化もないんだよね。
そういう意味では、多少エラーが入る方が「進化」をして環境適用能力が高い個体が生まれる可能性が高いから、より生存しやすいということなのかも。

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